秋田名物として名高い氷菓、ババヘラアイスの本を書いた。『ババヘラの研究』という書名で、自分の本を出版するのは3年ぶりだ。実は6年ほど前から、骨格になる原稿は出来ていたのだが、法律的な記述に不安があり、出版に踏み切れないでいた。このたび、その法的な部分を監修してくれたE弁護士からゴーサインをもらい、出版の運びとなった。
 ババヘラアイスは、「ババァがヘラでアイスを盛る」ところから付けられた、身も蓋もないネーミングなのだが、その名前で人気が出た氷菓。路上(露天)のアイス売りなら「うちの地域にだっているよ」と、かならず言われるが、秋田の場合は公道でパラソルを開き、ほぼ1年中営業している。秋田のほかには沖縄にも「アイスクリン」と呼ばれる「公道上のアイス売り」がいる。こちらはなぜか秋田とはま逆の20歳以下のギャルたちが売り子。秋田は名前で、沖縄はギャルの売り子で、公道上で奇跡的に生き延びてきた。
 なぜ他の地域には「公道上のアイス売り」がいないのか。答えは簡単、全国で公道上での営業行為は認められていないからだ。トウモロコシやスイカ、焼きイモといった露店を見かけることもあるが、それは国道横や隣の民有地を借りたり、あるいは自分の私有地だったりする場合で、勝手に公道上での営業行為は「できない」のが道路交通法の基本なのである。
 では秋田や沖縄ではなぜ公道上に堂々とパラソルの花が咲いているのだろうか。これも答えは簡単、無許可営業なのである。もう何十年も国や県の道路管理者と「やめろ」「やめない」のイタチゴッコを繰り返し、現在まで生き延びてきた彼女たちは、まさに「路上のゲリラ」なのである。
 ババヘラは法的には「許可のいらない物品販売」業として県では認められている。が本来は「ヘラでアイスを盛りつける」という行為があるため、食品衛生法では許可の必要な「喫茶店営業」である。喫茶店というにからには手洗いやトイレなどの水回り整備が必要条件だ。ババヘラにはこうした設備はない。が法的に摘発すれば、彼女らは地下にもぐって営業をする。「弾圧」するのは県民の人気もあり、社会的波紋も小さくない。
そこで県は苦渋の選択として「許可のいらない物品販売」という枠にババヘラをむりやり押し込んで、問題を先送りしてきた。
 それが平成21年、食品衛生法の条例が大幅に緩和、水設備の不完全な露店にも「喫茶店営業(露天)」の許可が与えられるようになった。ババヘラも晴れて「喫茶店営業」となった。が、もちろん、公道での営業はまた別の問題で、違法であることに変わりはない。こうしたババヘラの歴史や謎、不可思議な生態をルポした本である。こんなくだらないことに、恐ろしい時間と経費と労力を費やした自分を、ほめてやりたい。

×月×日 弘前劇場「家には高い木があった」(長谷川孝治作・演出)を弘前で観てきた。小津の映画やウディ・アレン主演の「結婚記念日」(作はアレンではないが)を観た時と同じようなインパクト。ある老人の葬儀後の親族のひとときを描いた一幕の芝居で、テーマは「田舎」とは何か。久しぶりに見た芝居だったが、演劇ってこんなに力があるんだと再認識。隣の客は泣いていた。
×月×日 山から帰ってくると一番にやるのは洗い物、ケアの必要な装備の整理、補充。それが終わってようやく「ああ山登りが終わった」という気になる。昨夜は事務所2階でその山仲間たちとの宴会。ここでも終わってから1時間ほどかけて食べ残しをタッパに入れ皿を洗い、そうじ。終わった後のかたづけが大好き。
×月×日 夏のDM発送完了。全国の読者と片田舎の零細出版社をつなぐ細い、すぐに切れてしまう糸だ。今回は被災地の愛読者へも発送。
×月×日 旅先で仕事をひとつ済ませて食事に。友人もいる街だが、あえて連絡はしなかった。会えば賑やかな宴席になる。となれば翌日は使いものにならない。明日も明後日も別の街でホテル泊の予定だ。最初から体調を崩す訳にはいかない。旅の2日目。旅のいいところは電車やホテルで目いっぱい本が読めることぐらいか。昨夜は池内紀『今夜もひとり居酒屋』(中公新書)。これは名著。旅の3日目は仙台。朝5時半起き、新幹線の始発で秋田まで帰るつもりだったのだが、なんと午後の遅い便まで満席。午後一番で大事な仕事がある。駅前の高速バスに飛び乗る。高速バス初体験。バス料金4千円。ノンストップ3時間20分。
×月×日 明治時代の新聞記者で庶民の聞き書きを基に本を書いた人物がいる。篠田鉱造という人物で、彼の書いた本は今も岩波文庫で読める。『明治百話』(上下)『幕末百話』『幕末女百話』……生涯を通して古老たちの歴史証言の伝承者として何冊もの本を残した。目下の小生の愛読書である。
×月×日 「験(ゲン)を担いだりするほうではないが、去年の秋からずっと同じ時計で通している。中古で買った外国製で手巻き。毎朝竜頭をまきあげるのが楽しい。
×月×日 山菜の美味しい食べ方の話になると必ず登場するのが「サバ缶鍋」。ミズもタケノコもアイコも「サバ缶鍋」がジョーシキ。山菜とサバ缶の相性がいいのを発見したのは誰で、それはいつごろ、どこの地域から?……ずっと興味を持っているのだが、よくわからない。知っている人いたら教えて。
×月×日 朝から好天。いま昼だが眠い。実は昨日、山登りに出かけ、山頂付近で車のキーをなくしてしまった。友人と二人、内陸線、奥羽線を乗り継ぎ帰ってきた。そして今朝は五時起き。友人の好意で彼の車に便乗し再び森吉へ。合鍵を持って車をとって帰ってきた。朝9時に来客の予定があり、どうやらぎりぎりセーフ。車を出してくれた友人はそのまま2日連続で森吉登山。そして山頂で車のキーを見つけ出してくれた。感謝感激。
×月×日 本に鉛筆で線を引くクセがある。読み終わった後「古本屋に売る」つもりだったから。古本屋に売らなくなった今も、本と一緒に鉛筆は持ち歩く。が、なくすし忘れるし邪魔くさい。最近クリップペンシルという優れモノを発見、一挙に悩みは解消した。
×月×日 初心者でひっそり地元で山歩きする身には一大イベント、鳥海山祓川・康新道ルートを登ってきた。これで今年の夏の最大のイベントも終わった。この暑さなので、もう当分山歩きは無理だろう。
×月×日 暑中お見舞い申し上げます。暑さにちなんだ「ご自慢の1品」を紹介。アイスキャンデー「クリーム仕立てのミルクバー」(森永)105円。香料が入っていない昔のミルクキャンデーの中に上品な練乳ソースが入っている。くどい甘さがなくて絶品のうまさ。これは掘り出し物だなあ。
×月×日 歌手らしき芸能人が結婚披露宴で新婦に「地球の裏側の人を思いやれる人になろうね」とコメントしていた。自分のいる場所が「表」でそれ以外は「裏」と思っている心根がそもそも「思いやり」を決定的に欠いている。
×月×日 去年の秋、1ドル87円前後の時に急に高くなったドルをトラベラーズチェックで買い、その使い残しが1500ドルほどある。77円の今、もう永久に換金は無理かも。ノルウェーのテロ犯人が銃を構えてポーズを決めていた写真で着ていた「スキンズ」というスポーツウェアーは山でいつも小生が着ているもの。今週の「週刊ニュース・1本勝負」は「ヤノマミ」というアマゾン・インディオの本を取り上げたのだが、うかつにも「ヤマノミ」と誤植。その間違いをいち早くメールで指摘してくれたのは、なんとブラジル・アマゾンに住む日系人のTさん。地球の反対側から恐縮です。いやはや周辺がなんとも国際的で、秋田にいても退屈しないッス。
×月×日 山頂で友人がマシュマロをとりだし木の枝にさしてガスコンロで焼き、こげ目のついたマシュマロの上にさらにチョコレートをのせ食べはじめた。バーベキューの定番だ、とアメリ力生活の長い友人はこともなげに言う。悪い冗談だと思った。後日、若い女性たちにこの件を話したら「私たちもよくやります」と鼻であしらわれた。えッ、ホントなの、知らなかったのオレだけ。オレ、みんなと違う世界に生きてきたわけ60年間も。
×月×日 エコとも節電ともまったく関係ないのだが、今年に入って事務所の蛍光灯を3分の1に減らし、2階を断熱窓に替え、冷蔵庫を小さくした。今年5・6・7月の電気代と去年の同じ時期を比べたら、なんと3分の2に。
×月×日 昨夜はモモヒキーズ事務所宴会。6名の参加で「どぜう鍋」。「駒形どぜう」に10数回授業料をはらい下処理から地獄鍋(豆腐にくぐらせるやつ)までマスターしてきたSさんがいればこそ。1キロ仕入れたドジョウはすっからかん。堪能してすっかりファンに。夏は「どぜう」でしょ。
×月×日 夜の散歩で分厚いさいふを拾ってしまった。見つけた時、その厚さや形状から「ビンボーな若者のもの」とすぐに判断がついた。中には案の定、学生証とおびただしいカード類。散歩の時、携帯用さいふに2千円くらいの緊急用小銭をいれて歩くのだが、その額よりも少ない金額しか学生さいふには入っていなかった。忙しいから早く取りにきてね、学生さん。
×月×日 誰も信じてくれないのだが実はスキューバダイビングのライセンスを持っている。泳ぎは得意中の得意だが、正直なところ海は怖い。なかなか行く気にならずライセンスが泣いている。
×月×日 お盆休みはとれなくなりそうだ。今週中に2本新刊ができてきて、地元紙に全3の広告を打つ。誰かが舎内にいなければ問題が起きてしまう。最近はもっぱら本を買ってくださるのは地元民でなく帰省客の方々だ。
×月×日 近くの丸舞川遡行の川遊び。楽しかったが予想以上に難敵だったのがアブ。手袋やタイツの上から平気で刺してくる。昨夜はかゆくて何度も目を覚ました。
×月×日 ここ数年ですっかり定着した習慣だが、寝る前、目薬をさす。朝、かならずジュースで割った黒酢を飲む。トイレの後、石けんで手を洗う……以前はまったくこんなことをしなかった。酢も石けんも目薬もみごとに習慣になり、いまは旅先にもそれらを携帯する。
×月×日 ある時代の歴史背景や事件、偉人のことを知る最も手っ取り早い方法は「小説」を読むこと。いま佐藤賢一『ペリー』を読んでいる。その前は山本兼一『銀の島』でフランシスコ・ザビエル。空海のことを知りたければ司馬遼太郎、清河八郎なら藤沢周平の『回天の門』。織田、豊臣、徳川のことを比較検討したければ池波正太郎に入門小説があるし、歴史を学ぶのが苦手な人のために時代小説家がいる、といっても差し支えない。
×月×日 友人と二人で本荘マリーナへ。生まれて初めてインターハイ・ヨット競技観戦。午前中いっぱい観戦して午後からは酒田市の土門拳記念館で石川直樹の写真展。そのあと鶴岡に移動して藤沢周平記念館を見て、さらに庄内町まで移動、清河八郎記念館を見学。
×月×日 ホンダのアコード・ワゴンに乗っているのだが、昨日、森吉山に行く途中で走行距離が30万キロを超えた。買って7年、前任者から引き継いで乗りはじめたのが3年前だった。その時ですでに28万キロだったから前任者は年平均7万キロ近く乗っていた勘定になる。車検も半年後だし、これが潮時かも。それにしても30万って、信じられる?
×月×日 9月にはいったら少し長い夏休みをとれそうだ。
 が、つらつら考えるに、どこに出かけても結局は夜、酒を飲んで終わり。「酒を飲む」という一点で想像力が止まり、土地への興味や愉しみがちっとも湧いてこない。

*実は来年、創業40年を迎えます。そのための記念的な催しものはやりませんが、記念にかこつけて何人かの著者に本を書いてもらう予定です。
*活字を取り巻く状況は年々厳しさを増しています。でも、厳しい時代にも活字や地方が生きていく方法や活路はちゃんとある、と信じて毎日、仕事をしています。
*本はこの40年間、いつも売れませんでした。いまさら泣き言をいってもはじまりませんよネ。