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無明舎は2階建ての1軒家で、ここでもう30年以上、仕事をしています。 1階が仕事場で、2階はシャチョー室兼資料保管庫です。この2階で、私はただひとり、仕事をしたり鼻くそをほじくったりしてすごしています。 このシャチョー室がこの1年ですっかり様変わりしてしまいました。 本や資料の類が棚から消え、大皿や調理器具といった料理関係の備品がそれにとってかわってしまったのです。 きっかけはSさんとの出会いでした。Sさんは準大手の建設会社を定年退職した同い年の山仲間。アメリカでの8年間の勤務を経て、生れ故郷に帰ってきました。趣味は料理、人に料理を食べてもらうのが無上の喜びだそうです。 ある日、山頂でSさんは突然マシュマロをリュックから取り出し、木の枝にさしてコンロで焼いてチョコレートを載せ食べ出したことがありました。アメリカではバーベキューの定番だそうです。田舎者にとっては驚き以外の何物でもありませんでした。ヘンな人だなあ、というのが第一印象でした。 * 「いい〈馬わさび〉が手に入った」という訳のわからない電話もありました。ホースラディッシュをすりおろし、飯にぶっかけ、醤油をたらして食べるだけのもので、生れてはじめて食べましたが、これがうまいのなんの。次はカジカでした。自分が川でとってきたカジカを丁寧に黒焼きし、カジカ酒まで用意して宴会をしたこともありました。 接待でよく使った東京・駒形の名店でつくり方を習得したというドジョウ鍋も絶品でした。ちなみに動物園のある地方都市には必ずドジョウも「いる」そうで、要するに鳥の餌用に養殖している農家がいるのだそうです。 山行の帰り、漁師が捨てたコハダを3枚におろし、酢につけて食べたこともありました。コハダが寿司屋でしか食べられないのは小骨のせいで、これを酢につけて溶かしてしまえば、家庭でも簡単に食べられる、ということを初めて知りました。 * こちらから「カモ鍋が食べたい」とSさんにリクエストをした時もありました。 近所のスーパーでカモとネギを買い、ものの10分で完了。小鍋に筒状に切ったネギを煙突のようにびっしり立て、カモ肉を鍋中央に押し込んで、醤油出汁で煮る。肉から出た脂が煙突ネギに吸い込まれ、その脂の乗ったネギを食する、いわばネギカモ鍋です。これも感動ものでした。 「市民市場にスッポンが泳いでいる」と連絡してきたので、スッポンフルコースをやったのはつい最近のこと。会場は当然ながらわがシャチョー室です。 いつでもSさんの突然の「料理」に対応できるよう、皿から調味料、料理機材を少しずつ揃えてきたので、スッポンごときで大騒ぎはしません。かくして血から甲羅までスッポンのすみずみまでを味わいつくしたのですが、ウチは宴会場か? |
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×月×日 2泊3日の東京出張。東京へは興味が失せて足が向かなかったのだが、まあ仕事だからしょうがない。 ×月×日 近所の小学生の「職場訪問」。4人の小学生は「作家志望」で、好きな作家は? と訊いたら速攻で「はやみねかおる」。 知らない誰それ? ×月×日 今日の朝日社会面トップは「被災書店への支援は勇み足」という記事。「返本の損害、出版社に全額要請は〈違法〉」というのだ。何の深い考えもなしに返本を「承諾」していたが、公取委は取次側に撤回を指導したという。そうか、これが大手取次による独禁法の禁じる「優越的地位の乱用」にあたるのか。「被災地支援」という甘い言葉には魔力がある。その「正義」にはだれも逆らえない。反省しきりである。 ×月×日 そろそろ「恒例ひとり委員会」が選ぶ「今年読んだベスト本」を決める季節。って勝手に一人で決めるだけなのだが、今年は何にするか悩んでいる。最近びっくりした本は『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎×大澤真幸)、いま読んでるミステリー『二流小説家』(ディヴィッド・ゴードン)はどこまで順位を上げられるか……などニヤニヤ楽しんでいる。 ×月×日 何の検証もなしに「格差社会の若者はかわいそうだ」と思っていたが、どうやらそれは「妄信」の類らしい。古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』には、現代の若者の生活満足度や幸福度は、様々な調査からここ40年で一番高いことがレポートされている。私たち(祖父)はいま彼ら(孫)のクレジットカードを勝手に使い1億円近い負債を残して逃げようとしている。これを「ワシワシ詐欺」というのだそうだ。 ×月×日 昼の散歩の途中、大柄な妙齢の美女に話しかけられた。よく見たら昔エアロビ・ダンスのクラスで一緒の方。ウキウキワクワク得した気分になる。「被災地に元気をあたえたい」などという芸能人の思い上がりを冷笑していたが、あれもそれなりの「効果」はあるんだな。 ×月×日 女優の檀れいが、うわっぱりを空中に放り投げ、袖を通すビールのテレビCMをみて「オッ、フランキー堺!」と声をあげてしまった。あれは名作・川島雄三監督『幕末太陽傳』でフランキー堺が何度もやるトレードマークだ。 ×月×日 今日も吹雪。かすかな希望は冬至を超えたこと。太陽の南中高度が最も低く、昼間が最も短いといわれる12月22日は雪国に住む私たちの「希望のメルクマール」だ。もうすぐ春だ。春はきっと来る。たぶん来るはずだ、と思い始める日でもある。 ×月×日 穏やかな大晦日。1年の最後だからと言って格別にやることもない。ここ数日、のどの調子が悪い。熱もだるさもないのだが……。よいお年を。 ×月×日 元旦も晴れてくれた。天気はよくはないのだが雪がないだけでこちらは「好天」だ。恒例の「山の学校 元旦登山」筑紫森。雪が深くて1時間40分かけて山頂へ。 ×月×日 新年早々夢がひとつかなった。昭和30年代前半、実家(湯沢)のそばの駄菓子屋でよく食べた「お好み焼き」を自分でつくって食べてみたのだ。小麦粉に小エビと紅ショウガを入れ薄く焼いてソースを塗る。シンプル極まりないこのおやつをもう一度食べたい、というのが長い間の夢だったのが実現した。うまかった。 ×月×日 仕事場の窓から、いつやむともわからぬ雪を見続けている。ユーウツな気分になる。わけもなく、太平洋側の町に青空をみるためにだけ、無性に旅をしたくなる。 ×月×日 寝床と事務所に加湿器をつける。事務所のものは空気清浄機付属だが、寝床はペットボトルを着脱する簡易型。なんとなく用心深くなっているなあ。 ×月×日 何が悲しいのか昨日も吹雪の大滝山公園をスノーハイク。 ×月×日 新幹線でゲホゲホとセキをする若者が隣の席に。仙台で降りたのでホッとすると、また隣にセキ男。マスクぐらいしろよ。ブチ切れそうになる事態だが、読んでいた角幡唯介『空白の五マイル』が面白く、セキ男どころではなくそちらに集中。 ×月×日 もう30年以上前から無明舎の愛読者通信や文庫シリーズの名称に「んだんだ」という言葉を使っている。新宿三丁目末広亭の隣に「んだんだ」という居酒屋ができていた。前はなかったのに。早めに商標登録でもしておけばよかったかナァ。ま、これは冗談だが。 ×月×日 定番の夜の散歩が雪のため道路が消え、通れない。昨日は歩道いっぱいに歩く中学生たちと交差、危うくケンカしそうになった。彼らの真ん中を割って通ろうとしたら「片側を通れっ」と嘯かれたのだ。そのガキの腕をつかみ「謝れ」と説教したが、無言のまま逃げるように立ち去られた。 ×月×日 毎朝、新聞の切り抜きが仕事だ。ヒトラーの「わが闘争」がドイツでは出版禁止になっている、というのを初めて知った。県内では県南の地域誌が廃刊のベタ記事。元地元紙の記者が「鳴り物入り」ではじめた新聞だ。去年11月の創刊だからまだ2カ月も経ってない。 ×月×日 15年間、ほぼ毎日のように集荷や配達を担当してくれたCさんが宅配便の会社を辞めた。これまでのお礼も兼ね、Cさんを招き、ささやかなプレゼントを贈呈。 ×月×日 「地元紙をとっているのは死亡欄を見るため」という言葉をよく聞く。最近、都市部では親族の死を誰にも知らせず「家族葬」という形でおくるケースが増えているそうだ。昨日、カミさんと話して、老親をおくる時は「家族葬」で、と決めた。 ×月×日 『おと・な・り』(09年製作)は現代の若者(カメラマンとフラワーデザイナー)のすれ違いを描いた恋愛映画で面白かったが、重要な舞台である二人の部屋にテレビはなかった。都市の若者たちにとってテレビはもう生活の必需品ではないのが、よくわかった。 ×月×日 「何の勉強をしてるの?」と学生に訊くと「リベラルアーツです」。最近よく聞く言葉だが秋田大学にも学部があるのだそうだ。これもアメリカの流行なのだろうが、特定の専門分野を決めず幅広く学ぶ(文学から自然科学まで)教育のこと。要するに〈教養〉のこと。入学後の補習授業でアルファベットの書き方を教えている大学が週刊誌に取り上げられ、バカ田大学、アホ学生と揶揄されていたが、いや確かに一般教養は社会全体に欠けている、という実感はある。 ×月×日 「こう雪ばっかりだと、冬眠したくなるね」と友人。確かに毎日雪ばっかり見ていると、自然に気持ちはどんどん内向きに下降していく。誰とも会わず、外出が面倒になり、未来より過去に耽溺していく。今を見据える力が足らなくなると、人は過去に逃げ込もうとする。「いくつものさよならが、寒さの中にある」、という言葉もあった。雪に克つ方法はただひとつ。どんなひどい吹雪の日にも外出(散歩)すること。これが自分的には克雪の一番の方法なのだが、できれば春よ、少しは急いでくれまいか。 ×月×日 テレビで見逃してしまった「パタゴニア 世界の果ての冒険レース」(NHK)をライブドアでレンタル! 700キロ余りを8日間かけて走破する過酷な国別チームレースだ。日本チームの若い女性はろっ骨を折りながら完走、見事5位に入った。 ×月×日 寝る前に食べるのはよくない。就眠4時間前には食べるのをやめなさい、とよく言われる。このところ夜9時前後に飲食する機会が続き、テキメンに体調が悪い。この3日間、夜7時以降は食べ物(アルコール類も)を口にしていない。とたんに寝付きが良くなった。 ×月×日 1月2月というのは、いい思い出がほとんどない。仕事はヒマだし本も売れない。くわえて雪の問題もある。雪に割かれる様々な労力が半端ではない。 ×月×日 物語よりドキュメントを好む傾向がある。野球観戦はそこそこ好きだがキャンプやトレーニング風景はもっと好き。「舞台裏」に興味があるのだ。 ×月×日 何となく「浮かない日々」が続いた。朝起きるとき「やるぞッ」という、いつものエネルギーがわいてこない。ヨーロッパの信用不安だとか、病気や未来への不安、死について考えながら目覚める ×月×日 快晴。朝から「意を決して」近所の山に登る。岩谷山という小さな山だが急峻でハード。それにしても苦しい山行を楽しいと感じられるのは、たぶんそこに「生きている」という実感があるからだろう。 ×月×日 「秋田の薬草」という30年以上も前に出した本を見つけて奥付をみると78年の初版。短期間に5刷まで版を重ねている。今ではとても想像もできない「事件」だ。出版や地方の世界に、こうした「勢い」が再びめぐってくることは万に一つもないだろう。 ×月×日 今週は新刊が2本。飲み会が3回、週末はスキーとスノーハイクの連チャンで、読まなければならない原稿が2本。DM通信などの原稿も4本書かなければならない。ヒマと繁忙のふり幅が大きすぎ。 ×月×日 ネット書店でユーズド(古本)を買う頻度が高くなっている。汚くても「1円+送料」だと思えば怒る気にならない。松岡正剛『17歳のための世界と日本の見方』をユーズドで買ったら3色ボールペンでびっしり線が引かれていた。。小生も線引き派だが、人にあげるとき消せるように鉛筆で引く。あらためて新刊本を買いなおす。 |
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*今年も雪の秋田から「春号」をお届けします。春の温かさより、冬の寒さばかりが感じられる便りになって、ごめんなさい。
*執筆者アンケートも同封しました。企画をお持ちの方はふるってどうぞ。 *調子に乗って深酒すれば2、3日は使いものにならない老体になりました。でもこうなると酒のうまさもわかってくるから厄介です。量だけは気をつけましょうネ、御同輩。 (あ) | ![]() |
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