町から書店が消え、コンビニで本や雑誌を買うのが常道になりつつある、とばかり思っていたらコンビニの書籍売り上げは年々落ち続け、この10年で売り上げは半減(出版ニュース)。郵便物を出し、ATMで金をおろし、コーヒーや牛乳を買うため一日一回はコンビニを利用する。印象として書籍売り場は少しずつ広がっているような気がしていたから、この数字は意外だ。雑誌や書籍の凋落は歯止めが効かないところまできているのかもしれない。
 米の大統領選や都の築地移転問題など、大きな社会的事件があると本の注文はピタリと止まる。零細地方出版社と社会的な大事件がどこでどうつながっているのか。その昔、人類が宇宙旅行をしようがイラク戦争が起きようが、静かに絶え間なく地方の本は売れ続けた。潮目が変わったのは、ベストセラーに一極集中で群がる「ハリー・ポッター現象」あたりからだろうか。その背景には「すぐ大量に売れる本がいい本」というグローバリズム化の風潮がある。メディアが織り成す網の目の中心に「本」が位置していた「黄金時代」が消えたのも、そのあたりからだ。
 マドリッド在住の画家・堀越千秋さんが67歳で亡くなった。彼の絵を使った「武満徹全集」(小学館)の装丁は、最も感動した装丁本の一つだ。その遺稿画集が元編集担当者Oさんの手で出ることになった。600頁に及ぶカラーの大型画集で、出版資金はクラウド・ファンディング。そのサイトが公開されたので、わずかの金額だが資金調達に協力した。驚いたのはサイト公開わずか2週間ほどで600万円を突破。目標は1000万だが、この勢いなら達成まちがいない。すごい時代になった。
 東京吉原で「遊郭」だけの書籍を専門に扱う書店さんがある。その書店から、うちの「秋田県遊里史」を扱いたい、と連絡をいただいた。吉原という地名がまだあることに驚いた。遊郭関連の本だけを扱う書店というのもユニークだ。書店と言えば岩波ブックセンター(書店)の柴田信社長が亡くなった。享年86。死ぬ前日まで現役書店員として神保町で働いていた。日本最高齢の書店員、とブログに書いたら、すぐに業界誌の元編集長から、「今の日本の書店界では86歳以上の現役書店員は100人以上います」と連絡いただいた。スミマセン。

8月×日 台風10号は午後から上陸。朝まで雨が降り続く。天気予報では「怖くなるような豪雨」という表現を使っていたが、秋田にはかすりもしなかった。
9月×日 クマ対策にオオカミの糞のエキスを畑に噴霧する方法が青森で実験中。エキスの名前が「ウルフン」。女が良いと書いて「娘」、良い獣と書いて「狼」。「送り狼」というのは山で人間に会っても逃げずついてくるオオカミの人なつっこさから生まれた言葉。
9月×日 身の回りのものを処分する「捨て魔」状態はまだ続いている。今週は靴類とステレオを処分。中古のスピーカーがヤフーオークションで5万円で売れた。これにはビックリ。
9月×日 30度を超える日々が続き、山行をひかえる。先日の鳥海山は暑さで身体がまるで言うことを聞いてくれなかった。このへんが限界だ。
9月×日 3泊で仙台・東京出張。スクワットの影響か、少し腰が重い。
9月×日 家に続いて事務所の外壁も全面改修工事にはいる。家のペンキ塗装から足場をそっくり移動しての一ヶ月以上の大工事だ。
9月×日 夕方の散歩の愉しみはラーメン屋戦争の見学。手形陸橋から大学病院通りの直線500メートルに10軒以上のラーメン屋が密集し、さらに新しい店が3軒できた。どこが一番先につぶれるか、興味尽きない。
9月×日 久しぶりの山行は真昼岳。8月はことごとく途中棄権。暑さのせいだが、今日は涼しくて楽勝。
9月×日 毎朝一杯だけコーヒーを飲む。1袋20円のレギュラーコーヒーで、これに本場ブラジルのコーヒー粉を同量混ぜて飲むと美味。
9月×日 菊田茂男先生が亡くなった。享年87。東北大学国文学教授で、退職後は東北大学図書館の漱石文庫館長を務め、その資料研究に熱意を注いだ。2週間前に手紙をいただいたばかりで、急な展開に驚く。
9月×日 関西の友人たちとフランス旅行。主にブルゴーニュ―地方のブドウ畑を見て回る旅。ドゴール空港から新幹線に乗りディジョン、ボーヌ、ランスと回り、最後の3日間はパリに。初日はディジョン市内を散歩し午後からはワイナリーをめぐりボーヌへ移動。3日目はシュバリエ叙任パーティ出席。ブルゴーニュのワイン宣伝大使任命式でドレスコードがある。タキシードをはじめて着た。4日目はシャンパニュー地方のランスへ移動。郊外にある藤田嗣治のつくった礼拝堂「チャペル・フジタ」へ。5日目はパリに移動。ベトナム料理「タンジン」で生まれて初めてペトリュスを飲む。6日目はエッフェル塔にあるレストラン「ジュール・ヴェルヌ」で食事。セーヌ河クルーズ。7日目はパリ市内を散策し、8日目にパリから東京へ。東京で一泊し新幹線で秋田へ。
10月×日 帰国後、調子が出ない。夜中に目覚めてしまう。時差ボケってこんなにひどかったっけ。
10月×日 新米の季節だ。朝ごはんが待ち遠しい。昼はリンゴ・カンテンだし、夜は晩酌するから、ご飯は朝だけ。
10月×日 モノも噛めないような猛烈な歯痛に悩まされ、歯医者に。今回は一ヶ月以上治療にかかりそうだ。
10月×日 村上春樹の名前がメディアに頻出する時期になった。識者の間では数年前から「ポスト村上」の情報が小出しにされている。ドイツ在住の多和田葉子さんだ。彼女がノーベル文学賞候補として急浮上することを予測する人も少なくない。
10月×日 体調が悪い時には本を読んでいるのが一番。昨日から檀一雄『火宅の人』。過去に何度かチェレンジしたが途中でやめてしまった本。だが今読むと本当に面白い。
10月×日 三連休は『火宅の人』上下巻で終わってしまった。久しぶりに小説の魅力を堪能。
10月×日 寒い。今日が初ストーブだが、うまく着火しない。夏に雨にあててしまったのが原因か。買い替えることにした。
10月×日 歯医者通いが続く。こちらの思惑より症状は重いようだ。おまけに左足膝の調子もいまひとつ。獅子身中の虫たちが騒ぎだしたか。
10月×日 久しぶりの山行(焼山)だったが、大先輩の葬儀のため東京へ。東京で宿をとるのが大変だ。九段下の常宿は1泊1万円ぐらいだが、今年になって5千円近く値上がり。近くに武道館があるから人気コンサートがあるともう部屋はとれない。
10月×日 フランス旅行以来「不通」だった「便通」が元に戻った。
10月×日 わが舎は決算月。忘れていたのは2ヶ月近く家と事務所の外壁工事でドタバタしていたせいだ。それもようやく終了。
10月×日 山梨県出張。清里フォトアートミュージアム「大原治雄写真展」。副題は「ブラジルの光、家族の風景」。大原はまったく知られていないブラジル移民の、国際的なアマチュア写真家で、その視線はすばらしい。
10月×日 今年の日本シリーズはコーフンする。野球観戦は好きだが、巨人戦(日テレ系)の解説者(桑田・吉村・堀内など)が嫌いでテレビを消してしまうこともある。特に桑田は大問題。選手の名前を「君」付けで呼ぶ。何でも少年野球に収れんさせる。説教臭い道徳観がうざい。戦前から日本では役者と文士と相撲取りと野球選手は「呼び捨てOK」。桑田は指導者として才能はないと思う。
10月×日 モモヒキーズの新蕎麦会。Sシェフの腕は年々上がっている。今年もうまかった。
10月×日 生まれ育った場所が、その昔、「遊郭」と呼ばれた地域だったことをある郷土資料で知った。もうその生家は解体され更地になっているが、周辺には古びた料亭などが数件まだ残っている。そうだったのか。
11月×日 運転中にポケモンゴーに夢中になり子供をひき殺した、というニュースに震える。怖い。夜に散歩をしていても横断歩道はよほど注意してからでないと渡れない。点滅器具をつけて歩くのは嫌だけど、このままでは身の危険を感じる。
11月×日 見事な小春日和だが、昨夜、鳥海山は大雪で通行不能だった。冬ごもりする稲倉山荘の「無明舎本コーナー」撤収のため、新入社員が鳥海山へ向った。スパイクタイヤに履き替える時期が今年も来てしまった。
11月×日 二ヶ月ぶりの山行は八塩山(矢島登山口)。まだ紅葉は残っていた。今年はクマが怖い。でも鈴や笛で逃げてくれるはず。それと獣臭さで事前に察知できるはず……クマの通ったあとの臭いはとにかくすさまじい。いきなり馬小屋か動物園に放り込まれたような感じだ。登山後の温泉も気持ちいい。久しぶりにビールも。汗をかかない人間は温泉もビールもダメというわが鉄則を再確認。身体の中の淀んだ空気が一掃された。
11月×日 今読んでいる本は佐藤弘夫『死者の花嫁』と堀越千秋『絵に描けないスペイン』の2冊。2冊とも偶然にも版元が幻戯書房。幻戯書房は角川書店創業者である角川源義の長女である故・辺見じゅんさんが創立した会社。出版社名はお父さんの名前からとったもの。最近いい本出すなあ。
11月×日「練習中に水を飲むな」という指導は旧陸軍の風潮だったようだ。戦地では不用意に水を飲むのは危険だったので、水を飲まない訓練を兵士たちにさせた。その兵士たちが体育教師になり同じ指導を子供たちに強いた。なるほど長年の謎がひとつとけた。
11月×日 ボブ・ディランのノーベル賞授賞式欠席理由には笑ってしまった。ノーベル文学賞の欠席者は過去にも劇作家のピンターやイェリネクなど何人かいる。わがウディ・アレンも、アカデミー賞授賞式をクラブ出演(映画監督以外にクラリネット奏者でもある)を理由に欠席したことがある。アレンは俳優に主演依頼するとき、台本を直接俳優本人に届け、その場で読んでもらい諾否を確認、その場で台本を返してもらうという手続きをとったそうだ(今もそうだと思う)。アイデアが盗まれるのを恐れたためだろうか。
11月×日 秋田市立千秋美術館で「木村伊兵衛の秋田」展。うちでも岩田幸助の『秋田』という写真集を出している。岩田さんは木村の撮影に同行したアマチュアカメラマン。その本の編者・カメラマン英伸三さんにいわせれば「こと秋田に関しては岩田さんの写真が木村より上」だそうだ。アマチュアと木村伊兵衛を比べるのはおこがましいが、秋田を見つめ続けた時間と経験の差が写真には如実に表れている。やはり岩田の写真のほうがずっと良かった。
11月×日 今朝の福島沖の地震は想定内。このところ微弱な地震が頻発していたので「そろそろ大きいのが来るな」と心の準備をしていた。
11月×日 シャチョー室で「おでん宴会」。外は雪、熱燗がうまい。おでんはグツグツクタクタがうまいというのは思い込み。だし汁を何度も足しながら練り物をポンポン胃袋に放り込む。お寿司と同じ新鮮重視の食べ方がいい、ということを発見した。
11月×日 「戦国時代の墓がないのは、なぜ?」とある人に訊かれた。中世の死生観では「死者はこの世にいない」と考えられていた。そのため土葬で匿名のまま葬るのが基本だった。農民の定住化が始まり、「イエ」意識が芽生え、死者(先祖)は身近で見守り続けている、という死生観ができるのは江戸時代になってから。それが火葬(遺骸が大事)や墓地(悪さをしないように閉じ込める)の考え方を生み、死者を大事にしないと祟り(幽霊や災難)があるという発想が、寺に集合墓をつくるきっかけになっていく。と『死者の花嫁―埋葬と追憶の列島史』に書いていた

*もう師走。光陰矢の如し。新刊案内は何とか新しいものをつくることができましたが、肝心の新刊は2点のみ。
*フランス旅行や事務所全面外壁改修工事と、このなにかと物入りな厳しい時代に「何をやってるんだ」とお叱りを受けそうですが、厳しい時ほど「ムダ」をしたくなる性分です。困ったものです。
*いつものように賀状は欠礼。よいお年を。(あ)