八戸市に行ってきた。去年12月、全国でも珍しい市営の書店「八戸ブックセンター」がオープン、そこを視察してきた。行政が税金で運営する書店は市の中心街八日町の雑居ビル1階にあった。100坪ほどで蔵書数は8千冊。店内中央に長いカウンターがあり、ここがレジとコーヒーやビールも飲める喫茶バーになっている。おシャレなブック・カフェといった感じだ。棚には普通の書店ではまず見かけることのない海外文学や人文・科学、芸術など難しい書籍「だけ」が並んでいる。椅子やハンモックも用意されていて読書会用の無料スペースもある。私が訪ねた日は郷土の作家、故三浦哲郎と装幀家・司修氏の本や業績の展示会が併設されていた。
 まだ開店して2か月ほどしかたっていないが、現八戸市長・小林眞氏が政策公約として掲げた「本を読む人を増やす、本を書く人を増やす、本でまちを盛り上げる」という「本のまち八戸」の街づくりの一環としてつくられた書店だ。地元紙などの報道によれば年間の運営経費は6千万。うち本などの年間収益は2千万を予定し、赤字分4千万は市が税金で穴埋めするという。年間来客予想数は9万人で1日あたりの販売目標冊数を30冊と踏んでいる。あえて雑誌やコミック、新書は置かず、ビジネスとして成立の難しい、売れ筋ではない、入手の難しい本ばかりを選んだのは、書店や図書館からこぼれ落ちた良書の販売にこそ「公共性」があると判断したからだ。「4千万円は文化への投資」と小林市長は公言する。ちなみに内装工事にかかった初期費用は1億1千万円だ。書店への民業圧迫では、の声に対しては市内3書店でつくる「事業組合」に全面的に販売・返品業務を委託することで軋轢をさけている。「毎年支出する4千万で図書館を充実させたほうがいい」という意見も市議会や市民には根強くある。私の周辺の出版関係者は「政治家の文化パフォーマンス、売名的プロジェクト」と辛辣な批判をする人もいる。現場を訪ねて感じたことがある。「良書」という行政の「本を選ぶ基準」がよくわからない。さらに「年間収益2千万」という数字。本で2千万円の利益を上げるには1億円以上の本を売らなければならない。だから当然これは「定価売上額」だ。とすれば粗利は400万円ほど。この額のために市は10倍近い税金を投入する計算になる。売上額が目標に達しなければ市民の負担は増え、赤字が垂れ流されていく。「読書の黄金時代」は過去の話、本はもう「文化の王様」ではない。お隣の県の出来事とはいえ、本の現状に対する認識があまりに楽天的すぎるのが心配だ。それとも本はもう、スポンサーがいなければ自立できないものになってしまったのだろうか。

11月×日 空港横にある中央公園はあまり知られていないが、静かで快適な散策コース。穴場なのだが公園中心部にクマの巨大な糞があった。夜はシャチョー室でSシェフのギョーザ教室。
11月×日 「パッとしない日々」が続いている。今年最後のDM発送準備も終了。やることがない。
11月×日 山中の標示板に「槿花一朝」の文字。意味を訊かれたがわからない。そうか「むくげ」か。秋田市郊外に「保食神社」がある。調べてみると出雲神社の分魂で「うけもち」と昔は読んだらしい。農業や食料の神様だ。
12月×日 もう12月。11月は新刊ゼロで飲み会や打ち合わせが多く、体重は減らず、県外出張もなかった。事務所に閉じこもってあれこれ思い悩む日々が続いている。
12月×日 車の調子が悪いと女性にブレーキを踏んでもらい、その女性の足裏をなめる、という変態男逮捕のニュース。去年も道路側溝に身を潜めスカートを覗いていた男が逮捕された。その犯人が残した名言、「生まれ変わったら〈道〉になりたい」。「自分の短所は側溝に入ってしまうこと」。これを思い出して、大声で笑ってしまった。
12月×日 久しぶりの山歩きは七座山。下山後、「伊勢堂岱遺跡」へ。縄文後期の環状列石が4つも出土した世界遺産候補の遺跡だ。
12月×日 一人夕食は湯豆腐。豆腐はもちろん木綿。「絹」や「汲み上げ」「よせ」や「ざる」などいろいろあるが豆腐は「木綿」が基本。それを水で薄めたのが「絹」。他は言葉だけでカッコつけた手抜き豆腐、と乱暴に分類している。「よせ」というのは豆乳ににがりを入れる行為を指す業界用語。
12月×日 健康診断ドック。血圧は127の81。体重は予想通り2.5キロ増。医者からも「体重が増えてますね」ときつい一発。
12月×日 読者の方から九州の図書館に所蔵されている無明舎出版のブックリストが送られてきた。どの図書館も10冊以上を所蔵。県立大分図書館は138冊もあった。うれしい。
12月×日 雨の中、秋田城跡歴史資料館へ。先日の伊勢堂岱遺跡もしかり、古代がおもしろい。縄文から奈良・平安まで秋田にはシカもイノシシもいた、というのは知らなかったァ。
12月×日「雪国の人たちはなぜ雪に傘をささないのか?」というテーマを調べている。理由は簡単だった。危険だからだ。視界が悪くなるし、足元の凍結に気を遣うので手はフリーにしておきたい。横からも雪はふきこむから傘は飛ばされる。安全面でも問題があるのだ。でも傘そのものの歴史や文化的意味を突き詰めていくと異論もでる。
12月×日 今年一番の雪。いよいよやってきた。江戸時代、雪や雨に傘をさせるのは大肝煎以上だった。雪国の人が傘をささないのは、こうした歴史的な身分制度の影響もあるのかも。傘は身分をあらわす重要な小道具だ。
12月×日 今年の「靴納め」は森山。雪が少なくスパイク長靴で問題なし。
12月×日 すごいノンフィクションを読んだ。梯久美子『狂うひと』(新潮社)。650ページ・定価3000円。島尾敏雄『死の棘』に描かれた伝説の夫婦愛の謎に迫ったもの。
12月×日「出版ニュース」今年の10大ニュース。1位が「小説 君の名は。」が100万部突破。2位が「角栄本続出」。3位が太洋社倒産と大阪屋栗田の統合。4位に「アマゾンの読み放題問題」で5位に「岩波ブックセンター信山社の倒産」。6位以下は省略。
12月×日 今年1年、歯医者通いが続いた。今日も今年最後の歯医者さんへ。これで正月の餅が食べられる。
12月×日 東京へ忘年会出張。東京は青空で汗ばむほど。東京に来ると定食屋「大戸屋」へ。秋田にないから。
12月×日 大晦日。数年前からお節は「和食みなみ」、年越しそばは「神室そば」。あとは何もない。
1月×日 あけましておめでとうございます。今年もよろしく。
1月×日 松がとれないのに朝5時起床で東京へ。翌日、羽田からタイへ。バンコクで関西の仲間たちと合流。バンコクで美味しいものを食いまくろうという3泊4日の無意味旅だ。亡くなった国王の喪に服していて喧騒もなくバンコクは穏やかな日々。いたるところにセブンイレブンがあり、タクシーも安く、治安も悪くない。辛い物は苦手だが食べていると慣れてくる。
最終日に大チョンボ。帰りの飛行機の出発時刻を間違え、あやうく飛行機に乗り遅れそうになった。猛省する。機内では「ブリジット・ジョーンズ」と「マダム・フローレンス」の映画2本立て。コーフンしていたせいか一睡もできなかった。
1月×日 猛烈な寒波。タイミングを合わせたように石油タンクが燃料切れ。寒いので8時半には寝床に。沢木耕太郎『春に散る』(朝日新聞出版)読了。主人公は高倉健を想定して書いた物語だろうな、これは。
1月×日 昼食はいつもリンゴと寒天だが、昨日は秋田大学生協で豪華ランチ。といっても熊本ラーメンと小カレー(合計600円)。ものすごい贅沢をしてしまった悔恨と体重増加不安に、落ち込む。
1月×日 「靴始め」は男鹿真山。外は荒れに荒れて猛吹雪。
1月×日 カミさんが若い人たちの演劇公演に客演することになり、週の半分は稽古のため不在。夕食は一人でとることになった。
1月×日 毎日のように新しい原稿が入り始めた。気持ちは引き締まるがストレスも身体にのしかかる。今月のように7本近い原稿が入る月もあれば、3か月間1本の原稿も入らない月もある。水商売なのだ。
1月×日 シャチョー室も家の書斎寝室も2階にある。毎日、何十回と昇降する。階段を苦痛に思っていない自分を昇降で確認し、健康に感謝する。そんな日々を送っています。
1月×日 駅前飲み会。お相手は昔のバイト君たち。久しぶりに会った彼らはすっかり社会人の顔に。上司の悪口や社会の理不尽さを楽しそうに語っていた。一丁前に。
1月×日 久しぶりに友人と会う時、会う前に話す要点をメモする癖がついた。個人名や固有名詞が出てこないときの会話予防策だ。
1月×日 福岡・葦書房元社長で名著『逝きし世の面影』(渡辺京二)を世に出した三原浩良さん逝去。享年79。去年、自伝である『昭和の子』を上梓したばかり。同じ時代を地方出版の編集者として生きた「同志」のような大先輩だ。合掌。
1月×日 八戸へ。いつ行っても不便なところ。隣の三沢市の寺山修司記念館へも行ったが、往復するだけで1万円の交通費がかかる場所にあった。
翌日、八戸から仙台に移動。午後からは東京へ。元弓立社Mさんと神保町を飲み歩く。Mさんは一人で吉本隆明さんの本を30年にわたって出し続けた伝説の編集者だ。
帰りの電車は永野健二『バブル―日本迷走の原点』と二宮敦人『最後の秘境ー東京藝大』の二編読了。
2月×日 夜中12時過ぎまで仕事。ある原稿に手を入れていたのだが、思った以上に手直しが多く翌日までかかった。ひとつの原稿と20時間近く向きあい、頭がボーっとして疲労困憊だ。
2月×日 新入舎員に編集のイロハを教えている。先日の原稿手直しで自分の「頭脳の体力」が落ちているのに気が付いたからだ。印刷も製本も取次も書店も周りはどこも世代交代か、後継者不足から廃業を考えている。後継者がいるだけでも贅沢と言われるが、後継者がいればその将来を憂慮しなければならない。いっそ廃業のほうがさっぱりしていて、うらやましい。
2月×日 動物園のある大森山をスノーハイク。初めて行く場所だがライオンには会えなかった。当たり前か。
2月×日 山の後はビールが楽しみ。でもビールはこの日だけ。日本のビールは缶も瓶も樽もフィルター処理で熱処理をしてない「生ビール」だ。濾過して酵母や微生物を取り除く。この生ビールを缶や瓶や樽に詰めなおしているだけだ。「第三のビール」は「ビール風味の焼酎」のこと。言葉の装飾合戦は例の豆腐の種類と同じだ。
2月×日 両肩下の胸のあたりがかゆい。帯状疱疹の予兆?……1週間たっても、かゆみは止まらない。
2月×日 いたるところで雪に埋まった車の救出作業。わが事務所前でも昨日だけで5,6件の救出劇。うち1回は自分の車だ。雪に埋まる事故は寒波後に雪が緩んで、湿地のような雪の状態のときに起きる。
2月×日 夜中もブルの除雪音。夜通し雪かきをしている。その音で思い出した。昔、住んでいたアパートからライオンの遠吠えが聞こえた。動物園がアパート隣の千秋公園内にあった。ライオンの声で目が覚めるなんてロマンチック。動物園が市街地のど真ん中にあった時代の話。
2月×日 入稿ラッシュもどうやら一段落。新しく入るものはもう当分ない。温泉にでも行きたいが、行っても何もすることがない。
2月×日 月曜日の朝は会議。新入舎員とのコミュニケーションのため必要なのだが、こちらが一方的にしゃべって終わるミーティングだ。けっこう準備など面倒くさい。
2月×日 カミさんがようやく夕食復帰。ずっと芝居の稽古で一人夕食だった。それはいいのだが最後の一人夕食は豪華にすき焼き。なのに砂糖の代わりに大量の塩を入れて大失敗。
2月×日 新入舎員が青森の組版会社へ研修に。注文発送も伝票の書き方も梱包も発送も、3年近く自分ではやっていない。残された私は不安の留守番だ。もう一度一から事務処理を覚え直そうかな。

*今号も次号も新刊オンパレードです。3か月間1本の新刊もない時もあれば、今年のように1月だけで7本近い新刊原稿が入るときもあります。水商売そのものです。
*この通信が皆様に届いた時点で、出ていない本があります。「3月4月の新刊案内」のチラシを同封しましたので参考にしてください。事前予約も可能ですが、発送は刊行時期になります。 (あ)