考古学者の佐原真の本を読んでいたら「イノシシが家畜化されブタになったのは弥生時代」と書かれていた。その根拠が面白い。縄文時代にはなかった歯周病が弥生のイノシシの骨から発見されたからだそうだ。面白いなあと思って知人に話すと、8世紀の城柵・秋田城の水洗トイレはどうなるの? と反論されてしまった。この古代水洗トイレで見つかった寄生虫から、当時の日本人が食べなかったブタを常食する人々(渤海使)の秋田との往来が確認された、というのが秋田城の売りだ。この説明が成り立たなくなると知人はいう。丁寧に佐原の本を読むと、「弥生・奈良以降16,17世紀までブタの記述はどこにもみられない」と書かれていた。日本人は古代にブタを家畜にしたが、どうやら自分たちでは「食べなかった」ようだと、知人には納得してもらった。
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 紙をつくっている北海道釧路にある日本製紙が紙生産を停止した。コロナ禍で需要が減ったためだ。いっぽう図書館で書籍データを個人スマホにネット送信できるよう著作権法の改正を文化庁が検討中だ。図書館の蔵書は単行本の半分まで複写が認められている。妻が本の前半を図書館にリクエストし、残りの半分を夫がコピーを頼めば1冊の本をまるまる読めるようになる、本は買わなくて済む。すばらしい時代のようだが、まあ、これでいいんでしょうね。
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 5,6年前、中国人の黒マスク姿をみて「おまえはギャングか!」と突っ込んでいた日々が懐かしい。今は日本でも黒マスク姿は普通だ。菊池寛のスペイン風邪をめぐる小説集『マスク』(文春文庫)にも100年前、野球場で黒マスクをしている人と出会う描写があった。菊地自身も中国取材で黒マスクをつけている写真が本の巻頭を飾っていた。スペイン風邪騒動の時、すでに日本人はあの禍禍しい黒マスクをしていたんですよ、御同輩。
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 山仲間で俳句が流行中だ。素人の悲しさで「コロナ」をテーマにしたものが多い。で思うのだが、「コロナ」は冬の新しい季語に採用されないだろうか。というのも俳句には夏の季語に「コレラ船」というのがある。昔、感染症の流行で船内隔離した時に生まれた季語だそうだ。空港の検疫所は世界中どこも「quarantine」だ。これはイタリア・ヴェネチアの方言が語源で「40日間」という意味だそうだ。ヴェネチアは14世紀の黒死病の蔓延で、海外からの船を強制的に港に40日間停泊させる法律を作った。それに由来している言葉なのだ。

11月×日 河野啓『デス・ゾーン』(集英社)を読む。サブタイトルは「栗城史多のエベレスト劇場」。ネットで生中継しながらエベレストに挑戦する「あの、いかがわしい人物」の心の闇や孤独を丁寧に追ったドキュメントだ。死者にムチ打つことを自覚しながら、「取材」や「記録」「ジャーナリズム」の意味を内省し続ける著者の、真摯な執筆態度がいい。
11月×日 徹夜で読んだ村上由佳『風は西から』(幻冬舎)はブラック企業・和民の物語だ。劣悪な労働環境というのはアルバイトのことではなく、本部から派遣される店長や副店長の労働実態のことだった。
12月×日 食べたいなあと思う料理があれば自分で作る。ローストビーフも天津飯もジャージャーメンも肉じゃがも煮っころがしも。昨日はレバニラ炒め。自粛ですっかり料理上手になってしまった。
12月×日 爪の伸びが早いのは年のせい? 以前は2週に1回ぐらいなのに今は8日に1回は切る。
12月×日 Sシェフと二ツ井町の七座山へ。下山の急坂で転倒し、左ひざをひねってしまった。
12月×日 駅ナカにある食料品店にブラジル産パルミット(ヤシの芯)を買いに行くと隣の書店が消えていた。チェーン書店ではない。ショックだ。
12月×日 今月中に出す予定だった新刊(医学書)が年を越してしまいそうだ。編集中の3本の本も印刷所のスケジュールで遅れに遅れている。
12月×日 料理に凝ったあげく、スーパーを使い分けるくせがついてしまった。買い物に時間と金がかかるようになり、これはちょっとまずい。
12月×日 スマホは持っているがほとんど使わない。インスタグラムもラインもやらないが、「ワッツアップ」というメッセージアプリを使っている。ラインのようなものでブラジルの友人たちと連絡を取るためのものだ。
12月×日 岩谷山で今年も「靴納め」。今年も20座の山に登ることができた。山の神に今年の無事の礼を言う。
12月×日 「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」という久保田万太郎の句が自然に口をついて出る。晩年の穏やかな死生観が「湯豆腐」という言葉に託されていて大好きな句だ。
12月×日 寒さがこたえる。外では一日中、救急車のサイレンが鳴りやまない。夕方4時半になると外は真っ暗だ。雪国に生きていることを痛感する。
12月×日 夜中3時前、大きな揺れ(震度5弱)。朝、出社したとたん二度にわたって停電。猛烈な寒波。不測の事態で電気が止まると、あの3・11の暗い思い出がよみがえる。
12月×日 例年なら10大ニュースを手帳に書き入れて、来年の新しい手帳を使い始めるころだが、まだなにも書いていない。なんとなく区切りやけじめのつけがたい日々が呆然と過ぎていく感じ。どこかで区切りが欲しい。
12月×日 駅前ジュンク堂へ。奥田英朗の新刊『コロナと潜水服』、内澤旬子『島へんろ記』、話題作の『自転しながら公転する』『大名格差』、夏目漱石の文庫本も2冊、正月読書用に買う。
12月×日 Sシェフと長老Aの3人でシャチョー室忘年会。Sシェフのカキフライ、エビのアヒージョ、私のローストビーフ。長老は呑むだけだ。
12月×日 大晦日。今年の10大ニュースを考えていたら、「お酒を呑まなくなった」ことが一番に心に浮かんだ。そういえば胃薬と便秘薬もやめた。ついでに体重計に乗るのもやめてしまった。
1月×日 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
1月×日 今年初の映画はヴィスコンテ監督『家族の肖像』。ちっとも面白くなかった。本は中島らも『ガダラの豚』。超能力ブームや新興宗教を描いた世紀末大団円スペクタクルだが、面白いのは1巻目だけ。こちらもペケ。
1月×日 仕事始め。4本の新刊があわただしく動き出す。仕事をしているのが一番の「休息」だ。
1月×日 初詣登山はいつもの妙見山。今年の山行の安全を祈る。
1月×日 ロフトで「難読漢字カレンダー」を買う。「論う」「薺」「日、為難い」と、いきなり読めない漢字のオンパレードで一気に自信喪失する。
1月×日 経験したことのない暴風雪との予報なので、あえて夜の街を散歩。身体が浮き上がるほどの風で、顔に当たる吹雪が痛くて苦しい。毎秒36メートルの暴風雪を初体験。家に帰ると停電で、夜はヘッドランプで本を読む。今年の冬は荒れるなぁ。
1月×日 1日に3回の玄関の雪かきが必要な積雪量だ。交差点で車がスリップし動けなくなり、いたるところで車の事故を目撃した。
1月×日 去年、耳にした言葉で印象に残っているのはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの「落ち着け、トランプ」。いわゆる本家どりで、笑った。もう一つは三重県のある町の地域おこしポスターのコピー「誰が、鹿や」。カモシカは鹿とは関係ないウシ科の動物だ。コピーを作ったのは名古屋大学の学生だった。
1月×日 半藤一利氏に続いて安野光雅さんの死去が報じられていた。「もう人が死んでも悲しむ年ではなくなった」のだが、いわく言いがたい寂しさが心に吹き寄せる。20年前、NHKラジオ「日曜喫茶室」でご一緒させてもらい、番組終了後、夜遅くまで付き合ってくれた。ご冥福をお祈りします。
1月×日 このところ土日は朝ご飯抜き。11時半ごろに朝昼を兼ねたブランチを事務所でとる。プチ半日断食だ。
1月×日 事務所で料理。定番のヨーグルトを作り、レバニラのレバーを下調理、ローストビーフを仕込み、一切火を使わないポテサラを大量に作り置き。料理はリフレッシュに最高だが、食べすぎの体重増加が心配だ。
1月×日 昨夜は月がきれいだった。カレンダーで確認すると満月は明日だ。今日は十六夜(いざよい)で、これは「ためらう」という意味の言葉だそうだ。月が冴え冴えと美しかった昨日は十五夜なので、今日の満月には「ためらって」十六夜というわけだ。
1月×日 シャチョー室の長机の椅子をピンク系のカジュアルなものに替えた。心がちょっぴり軽くなった。
1月×日 新聞折込チラシに「マスク洗浄機」が売っていた。山用品のモンベルでも1000円近い値段で曇らないマスクを売っていた。どうしよう。
2月×日 今日から2月。毎年毎年登る山が少しずつ高くなる。時間も年々早く過ぎていく(気がする)。
2月×日 母親が使っていた「とぜねなぁ」という方言が心に残っている。親しい人との別れの時などに使う「寂しくなる」という意味だ。「とぜね」の語源が「徒然ね」であることを本で知りビックリ。東北だけでなく九州でもよく使われる言葉だという。
2月×日 夜はほぼ毎日、映画を1本観る。アマゾンのプライムビデオでは良い映画は有料で高い。ライブドア「ぽすれん」でも有料だがラインナップがいい。最近観た印象に残る映画は「人生タクシー」(イラン映画)、ジャンヌ・モローの「突然炎のごとく」、「ハンナ・アーレント」、「アスファルト」(フランス映画)、「孤独のススメ」(オランダ映画)といったあたりか。
2月×日 垣根涼介『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)は戦後のブラジル移民が日本政府に復讐を仕掛ける冒険小説で再読。桐野夏生『バラカ』(集英社)はドバイのスークで売られたブラジル日系人の赤ちゃんをめぐる物語で東日本大震災が絡まる。偶然だがどちらも「ブラジル移民」が共通項だ。
2月×日 夕食の後、散歩に出るがまたもや暴風雪。ブリザードで前が見えず、顔が凍傷になるのではと思うほどバリバリに。
2月×日 一足先に春が来たような陽気。冬季間に数度しかないといっていい青空なので、寝室を全開、電灯,欄干、テレビ裏、すべてにハタキがけで空気を入れかえ、きれいに。
2月×日 健康診断。予想通り血圧は高いわ、体重オーバー、胃の再診はあるわで、まるでいいところがない。
2月×日 急に腰の痛みがひどくなった。腰を使って身体の異変(太りすぎ)に警告を鳴らしてくれているのだろうか。本格的にダイエットを考える。
2月×日 寝入りばなの震度4。とっさにどういう行動をとればいいのか、わからずうろたえる。10年前の教訓がまったく生かされていないのが情けない。
2月×日 コロナ禍に暴風雪、震度4の地震まで襲ってくるのだから、この国はどうなっているのか。
2月×日 今乗っている車はハイブリッドのホンダ車。もう10年乗っている。次の車は電気自動車がいい。今日の新聞で、「出光が超小型EVを来年発売」とあった。価格は150万くらいで家庭用コンセントで充電できる。記事をよく読むと「定額制での利用やカーシェアーを主に想定」とある。これからは買う時代ではないのだ。
2月×日 健康診断の結果を見ると、いつまでも元気な未来が待ってはいないことを実感。増長、傲慢、不遜を戒め、節食しはじめて一週間が過ぎた。
2月×日 近所で時々会う自転車に乗った老人に目礼をされるが、誰だかわからない。ヨレヨレのジャージの上下で、絵にかいたような隠居老人。何度か会ううち「あっ町内会のエライさんだった」と気が付いた。町内会ではいつもスーツにネクタイで零細企業の社長さんのような格好をしていた。そうか、年寄りは身だしなみでこれほど印象が替わるのか。
2月×日 山のない休日や祭日は朝ごはんを食べずに10時近くまで寝ている。晩御飯は5時半と早いから、食べ終わると16時間以上も腹にものを入れないことになる。休日毎にこの「半日断食」を繰り返している。


*半年ぶりの通信でご無沙汰です。自粛、ホームステイで身も心も疲れ切っている方も多いのではないでしょうか。
*この間、新刊は5本です。すべて刊行済みですが、『続・秋田学入門』だけは3月下旬刊になります。
*来年、弊舎は「創業50周年」を迎えます。そのためのささやかな記念冊子の編集などソロリソロリと準備に入っています。乞うご期待。  (あ)