No4
時代の風と、データでみる「消えた書店」
 なんとなくぼんやりと自分の身辺や仕事の現況から、「かなり世の中の景気は下降気味なのでは」と、半年ほど前から感じていた。その杞憂は当たっていたようだ。
 オフィシャルなデータより、身辺雑記の印象批評のほうが正確な場合だってあるのだ。いや、どちらかというと生活感覚に根ざした「感じ」のほうが数字よりも、ずっと正確に時代の風をとらえている。地方で生きている人間の、それが実感だ。
 12年11月、内閣府による「景気が後退局面に入った可能性が高い」と発表した(朝日新聞12・11・7)。後退局面は2008年2月以来、4年ぶりだそうだ。景気は今春を「山」に、すでに後退局面に入った、という見方は民間エコノミストの間でも多勢を占めている。国内では自動車や家電が売れなくなっており、海外経済の減速などとも連動して、マイナス成長は確実視されている。世界経済は冷え込み、企業の生産活動や家庭消費が落ち込み、雇用にも影響が出、不況の足音が近づいている。
 が 政治は与野党対立ばかりが目立って、決められもせず、身動きもできない、八方ふさがりの状況なのだそうだ。世界経済の停滞や減速が元凶なのだから、ここしばらくは続く現象と見たほうがいいだろう。
 活字(書店)をめぐっての状況は、さらに冷え冷えとした風が長い間吹き続けている。なにせ全国では毎日1店以上の書店が消えているのだ。
 書店調査会社アルメディアによると、全国の書店数はこの1年間で365店が消えたという(2012年5月1日現在)。このデータからみると毎日1店が消えている計算だが、この数字には新規出店の書店もプラスでカウントされている。それを差し引くと、確実に1日1店以上の書店が消えていることになる。
 ちなみに秋田県の2012年の書店総数は130店、去年は134店、1年間で4店(以上は確実に)減っている。
 そんな中、秋田県内では6月の潟上市に続いて9月にも湯沢市に300坪クラスの大型書店「ブックスモア」が新規オープンした。
 本が売れない時代になんで? と不思議に思われる方もいると思うが、これは書籍チェーン大手の丸善CHIホールディングスが地方書店の運営支援のために出店した書店である。経営母体は自動車メーカーのトヨタで、いわば丸善とトヨタの地域経済支援の「文化メセナ」のようなものである。丸善傘下の書店なので「ジュンク堂潟上店」や「丸善湯沢店」という書店名をつけることも可能なのだが、この県内2店はトヨタ系なため「ブックスモア」という書店名になった。
 本屋さんも「文化事業」として企業や国の支援を受けなければたちゆかない「産業」になった、と皮肉る向きもあるようだ。
 さらに同じアルメディアの調査によると、今年の5月時点で全国自治体の17パーセントに当たる317市町村が「書店ゼロ」になったという。5年前より8市町村増えているが、特筆すべきなのは書店ゼロの「市」が4つもあることだ。
 このなかには06年に伊奈町と谷和原村が合併した茨城県「つくばみらい市」も入っている。人口が5万人弱、05年に開通したTXで都心の秋葉原まで最速40分というアクセスを持つ、あの筑波研究学園都市のお隣の市だ。この市ではもう5年以上も書店のない状態が続いているのだが、これはTX発着駅の秋葉原に大型書店ができたため、地元客がその大都市商圏に吸収されてしまったためだ。「市」にも書店がない、という異常な状況は今後も増加する一方だろう。
 書店経営というビジネスモデルは、すでに成り立たない社会的局面にあるのだ。
 近代日本の知識やその情報回路、文字表現の消費構造や文化、娯楽の意味が、IT中心社会の出現で、もうはっきりと変容しつつある。活字は娯楽や文化の王様ではなくなっているのだ。ここをしっかりと見据えないと、傷口はどんどん広がるだけだ。
 ちなみに「ここ5年でなくなった市町村の書店データ」の中には、秋田県藤里町も入っている。

backnumber
●No.1 何かが終わったのだが何が始まっているのか、わからない
●No.2 書店が消えても、誰も困らない?
●No.3 3.11以後の出版について

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