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端末「真打」登場、さて何がはじまるのか?
 野田首相による突然の衆院解散から3日後の11月19日、アマゾンの電子書籍「キンドル」が発売になった。まあキンドルの場合は家電量販店に買いに行く、というよりはネット通販が主力なので、旧来の店頭販売を念頭に置くのは間違っている。もう発売前からネットによる予約販売が始まっていて、発売前には品薄が喧伝されているのだ。
 それはともかく、これで日本語版電子書籍はほぼ出そろった。注目の値段はキンドルが7980円、これは発売直前に値下げしたもの。3か月前までは8480円で売り出すことを公表していたから500円値引きした計算だ。楽天の「コボ」も値下げして6890円、ブックライブの「リディオ」8480円、ソニー「リーダー」は、こうした他社の激しい価格競争のあおりを受け、発売当時2万円だったのに9980円にまで下がっている。
 各社とも1万円未満で安値を競っているのは、端末本体の販売では利益を度外視しているからだ。自社の電子書店に客を呼び込んでもうける戦略だ。端末はあくまで利用者を自社サイトに誘導するための手段なのだ。
 だから問題は端末の安値競争ではない。キンドルが「真打」と称されるのは、この端末の背後にある電子書店の品ぞろえが圧倒的だからだ。
 キンドルを買うかどうか、まだ迷っている。
 というのもこの7月に発売された楽天のコボを既に買っているからだ。コボは購入時7980円だったが、いつのまにか1千円も安くなっている。それはいいのだが、発売直後に秋田市内の家電量販店に「電子書籍端末のコボタッチをください」と買いに走ったのだが、市内の何店かの店員は例外なくコボタッチを知らなかった。全国チェーンの量販店店員はよく教育を受けている。特にIT関連商品の知識も豊富なのだが、こと電子書籍についてはまったくのノーマーク、というか知識ゼロ。これは意外というか、「(秋田では)まったく電子書籍に重きを置いていない」ことが分かった。この事実になんとなく紙の編集者としては安堵したのも事実。これは秋田という列島の辺境による特殊な地域的事情によることは十分承知はしているのだが、県民の多くは電子書籍にほとんど興味を持っていない、ということは事実のようだ。
 やむなく仙台出張の折、駅前家電量販店に平積みになっているコボを買った。
 楽天によれば売れ行きは発売1週間で10万台と鼻息は荒かったが、仙台の量販店の店員も、それほどコボへの関心が高そうには見えなかった。
 うちに帰ってさっそく無料でダウンロードできる作品を読んでみた。
 岡本かの子著『鮨』という作品だ。正直言う。紙の本より軽量で活字も読みやすい。著作権の切れた古典類はほとんど無料で読めるため、紙の本を買う必要はない。コンピューターにインスツールしたコボのデスクトップで「青空文庫」を800円出して買えば、一挙に何千点という著作権の切れた既存本を読むこともできる。新刊本のラインアップもそこそこ充実しているようだ。
 読む側とコンテンツ(作品)を提供する側の双方の機は熟したのだな、というのが正直な第一印象だ。
 しかし、この軽さと便利さ、読みやすさというのは、電子書籍に嫌悪感を示す高齢者たちにも再考を促す力がある。手に取るかどうかが問題だが。
  もちろん電子書籍の普及はそう簡単ではない。
 電子書籍端末がでそろい、そこそこの値段で買え、電子書店のラインナップも充実している。毎日おびただしく発売される新刊など読まなくても過去の本をじっくり読んでみたい、という人たちには電子書籍のほうが安くて便利で容易だ。読む側の環境は整った、といっていい。
 大きな時代の流れは「紙からデジタルへ」というのはまちがいないだろう。

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●No.1 何かが終わったのだが何が始まっているのか、わからない
●No.2 書店が消えても、誰も困らない?
●No.3 3.11以後の出版について
●No.4 時代の風と、データでみる「消えた書店」

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