15.  毎日登るための条件
 定年退職は60歳。妻は私と同じ年齢で一緒に退職した。中学校の理科教師だった。
 私は高校で英語を担当し、子供たち3人は県外の大学に進み、秋田にはいなかった。
 1日中、時間は自由に使える身分だ。
 しかし、毎日登るとなると山やコースの選択は重要である。家から冬でも日帰りできることがまず第一の条件だ。登山口までは車で行くことになるから走行距離は片道で16km内外か。山の標高差は600mから700m。距離は片道5kmほどがベストだ。登山口に駐車スペースがあり、雨の日など用に東屋があればいい。トイレや下山時のために沢などの水場もほしい。近くに温泉があればなお便利だ。
 問題は天候である。天候と問わずに登るとなるとこれは厳しい。風、雨、雪、気温、湿度……どれも毎日違うから同じ山を登っても飽きることはないが、リスクも少なくない。暴風雨はつらいし、冬季のドカ雪、暴風雪、低温などは場合によっては命にかかわることもある。その日の状況に応じて装備や心構えを臨機応に変えなければならない。
 太平山前岳・女人堂の金山の滝ルートは、家から登山口まで15km。冬でも県道なので除雪されている。暴風雪のため除雪が間に合わず、車が通行不能になる日は年に2,3日ほどだ。
 登山口はすでに標高100m。滝が流れ落ちる谷の壁につけられた登り口には、凍結して危険なのでザイルが張られている。
 女人堂は標高714mなので、標高差は614m、距離は片道4kmほど。すべて林の中にあるルートである。樹種はスギ、マツ、ケヤキ、カエデ類に始まって、高度があがるにつれブナ林に変わる。稜線はブナの巨木で占められている。
 冬季でもルートは夏道の跡をたどれば問題はない。ただし途中、雪崩の危険のため、夏道とルートの違う登山道が5ケ所ほどある。山道の平均斜度は9度くらい。雪は女人堂でも最近は3m以上積もることはないようだ。
 金山の滝ルートは、1年中毎日登山のできるうってつけのコースだ。例えば鳥海山コースを考えてみる。矢島登山口のある祓川までは秋田市から90kmだから往復180kmもある。祓川は標高1212m。ここから620m登るとすれば七ツ釜小屋を越え氷の薬師までだ。象潟登山口の鉾立から登れば、七合目の御浜を越えて外輪までの距離となる。しかも出発地点はすでに森林限界で、陽に炙られ、強風や風雨にあおられて、これを毎日続けるのは不可能だ。
 同じ太平山の奥岳(1170.4m)へ旭又コース(300m)から毎日登山を試みたこともあった。5月と6月の2か月間で50日間登った。旭又登山口までは家から車で23km、1時間だ。登りに100分、下り80分が目安だったが、さすがに1日6時間余りの山行はきつかった。さらに冬季は通行止めがあり登山不可になる。日帰り全天候型毎日登山は疲労との戦いでもある。心身とも傷つくようなムチャは避けたい。
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