20.  必要な水分は
 山本正嘉著『登山の運動生理学百科』によれば、登山で体から失われる水分量は、「5g×体重×行動時間」で表されるという。
 これを前岳女人堂登山に当てはめると、「5g×70kg×3時間=1050g」となる。つまり1050gの水が失われることになるわけだ。ただし、この脱水量と同量の水を飲めばそれでいいわけではない。脱水量が体重の2%以下にとどまるようすれすれば、水分不足は心配することがないという。私の場合、体重の2%は1400g。だから3時間程度の山行であれば、あえて水分には気を使わなくてもいいということになる。
 毎日登山を始めたころ、山行中に水を飲むことはなかった。飲まなくても大丈夫だった。しかし、脱水量はその日の山の条件、自分の体調などに大きく左右される。脱水症にかからないよう水分補給には気をつけるに越したことはない。
 逆に水分の取りすぎも要注意だ。水中毒という言葉があるくらいだ。水を飲みすぎると、体中の塩分が不足し、筋の痙攣や意識障害を引き起こす。といってポカリスエットなどのスポーツドリンクの飲みすぎもよくない。山の水は真水がいい。不足な塩分や糖分はその都度、塩飴やチーズ、ブドー糖などで補う。
 その日の山の条件によって汗の量も違ってくる。とうぜん水の摂りかたも変わってくる。体が要求するものを知るのは、自分を知ることだ。常日頃、自分の体が発するサインに的確に対応できるようにしておくことが大切だ。日帰りの山行では水を携行できるが、縦走などの場合水の補給が難しいことが多い。冬山ではコンロを携行するから雪から水を作れる。夏山の場合、当てにしていた水場が枯れている場合もあり、入山する前に情報を把握しておくべきだろう。
 太平山は低山で稜線部には雪渓もなく、コース途中には沢や水場はあっても枯れている場合が多い。鳥海山などの高山では夏でも雪渓が切れることがない。アルプスやヒマラヤでは氷河を登ることが多いので、氷河には小さな小川が無数に流れている。
 日本では北海道の山の水のように、キタキツネの運ぶエキノコックスのような病原体も混じっている。気をつけるに越したことはない。
 金山の滝登山口には50年前に完成した堰堤がある。矢櫃沢の水を集めているが雨が途切れると悪臭を発する。その100mほど上部でわたる金山の沢は、水量が少ないけれど澄んでいておいしい水だ。急流や滝が多いので、いつも泡立って白く曝気され、水質の浄化を行なう微生物に酸素を供給しているから、おいしいのだとおもう。

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