30.  冬山の4WD
 普通の山登りであればセダンで十分だ。県内の山で登山口までセダンでいけないような山は少ない。ただ林道の整備は他県に比較して恥ずかしいほど遅れていて、放置されているといっていいほどだ。セダンでは躊躇してしまう場所が増えたのは間違いない。
 太平山でいえば上小阿仁口、丸舞口、白子森などは林道が荒れ放題。和賀岳(1439m)に通じる真木林道や虎毛山(1433m)、真昼岳(1060m)など整備の行き届かない場所は枚挙にいとまがない。市町村合併が進めば進むほど、「おらほの山」へのこだわりが薄れ、山道は荒れる一方だ。その一方で冬でも除雪が行き届き、冬山の登山口までのアプローチも山によっては車でいけるようになった。でも相も変わらず冬季閉鎖されている道は多い。
 太平山の場合、冬場はメインルートの旭又までの15kmの林道はもちろん、その他の登山口までの林道も使えなくなる。登山口まで車でいけるのは金山の滝ルートとザ・ブーンルートの2つのみだ。
 冬も毎日そのルートを使って上る私は、冬用に4WDの車に乗っている。雪に強い4WD車だが、過信するととんでもないことになる。ある日の雪解け時、林道の坂道を4WDで登っていった。道は雪が解けて泥道になっていた。カーブのところで、タイヤの溝に泥が詰まりツルツルになっていた。アツと気がついたら車はスリップし右側の谷に落ちた。はるか下の谷が眼下に見え、これは死ぬ、と直感した。このとき初めて「臨死体験」らしきものを経験した。一瞬、脳裏に23年前に死んでいた母が現れたのである。そしてニコリと笑った。とたん、前輪が倒木の根にぶつかり、谷の斜面でかろうじて止また。九死に一生を得た思いだった。
 冬山へのアプローチは怖い。凍結や吹雪で気の休まることがない。車の高さと同じ高さに積もった道の両側の雪が吹雪で飛ばされると一瞬目の前が真っ白になる。カーブでこの現象に遭って対向車線にはみ出し、対向車と正面衝突寸前になったこともあった。山も車も油断大敵、過信は怖い。

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