31.  岩登りについて
 ハイキング程度の山登りから少しずつレベルを上げていくとすれば、岩登りと雪氷技術の習得は必要不可欠になる。この二つの技術は、夏の山道を登下降する際も必らず必要になる。我流で適当にやっていれば身につくなどというものではない。しっかりした指導者から手ほどきをしてもらうのがよい。面倒だ、金がかかるなどとぼやく人もいるが、遊びにはそれ相応の時間と金を惜しまないほうがいい。
 私もこの岩登りの技術の習得には苦労した。秋田県内に岩登りを練習するゲレンデはほとんどない。だから中央や秋田県山岳連盟の講習会に参加したり、岩登りがメインとなる山行を意識的に計画した。
 岩登りは危険だから一人はなるべく避けて複数の人間で行なうのがいい。お互いにザイルを結び合う。これをアンザイレンという。相手が滑落した場合、もう一人がザイルで確保するためだ。ザックを入れると100kg近い人間の滑落を、ザイルで止める技術を習得するには練習を積み重ねないととても無理だ。
 岩登りは下降に上り以上の神経を使う。岩登りの事故は下降中に多い。心身ともに疲れているからだろう。私は単独行が多かったから、できるだけ岩登りの多いルートを選んで登っていた。
 槍ヶ岳(3180m)の北鎌尾根(標高差1560m・距離4.4km)を単独行で登った時、進退窮まってしまい、靴を脱いで素足で難場を越えたこともあった。
 谷川岳一ノ倉沢ではノーヘルメットの単独行だった。落石がビューンビューンと頭をかすめて飛んでいくので怖くなり、隣りのマチガ沢に逃げ、そこから頂上に登った。
 アルプス・マッターホルン(4478m)のヘルンリ尾根ルート(標高差1218m・平均斜度39度)に先輩と二人で登ったときは、慎重を期して19時間もかかってしまった。月光に輝く岩稜をアプザイレン(ザイルに体を絡ませて下ること)を何十回も繰り返し、深夜やっと安全地帯に下りついた。
 どんな山を登るにしろ、岩登りの技術は必ず必要だ。3点支持などの基本はしっかり身につけておきたい。
 太平山の一般ルートでもザイルや鎖がセットされている地点がある。こうしたところでもなるべくザイルなどを使わず、上り下りするトレーニングをするように心がけたいものだ。

backnumber