32.  太平山の沢登り
 山登りは草原や尾根を登って頂上に達する。尾根と尾根の間には必ず沢がある。沢登りはこの沢を登って頂上に達する。
 太平山は火山ではない。秋田県内の火山を見ればよくわかるのだが、森吉山、秋田駒ケ岳、栗駒山などはどれも優雅なコニーデ型の裾を引いている。
 太平山の山容は険しい。沢も急峻である。ただし標高が低いので、大部分の沢は日帰りで登下降できる。沢登りは原則として無雪期に行う。積雪期は雪崩その他の危険が多いので勧められない。沢は登りに使い、下りは尾根道を使う。
 ただどこの世界にもアウトサイダーはいる。冬季の沢登りや滝登りに楽しみを見出す人たちもいる。日本一の直滝である那智の滝(133m)に挑戦し、「ご神体を汚すもの」として逮捕された人もいた。落差日本一の北アルプス立山にある称名の滝(350m)を冬季に完登した人もいる。沢登りや山スキーは普通の山登りとはレベルが違う。つまり、かなりの技術や知識が不可欠である。
 沢登りはオフロードを歩くようなものだ。山道などないし絶えず水が流れている、水は白く咆える急流となり、岩を穿ち、滝となって、轟音とともに落下している。谷の周囲はつねに濡れている。足元は滑りやすい。直登すると全身に水が襲う。高巻きすると水に濡れた石や草木をつかんで登ることになる。石が飛んでくることもある。マムシやハチなどの虫も多い。どうにもならないときは沢に全身浸かって泳ぐことになる。
 沢登りをするにはそれなりの服装や靴、ヘルメットなど必需品となる。パーティで入渓する場合はザイルも必要になる。沢登りには岩登りやザイル操作の技術が欠かせない。沢の途中で事故にあうと救出活動は難作業となる。沢登りをするのであれば、しっかりした山岳会に入って勉強するのが近道だ。
 太平山にも沢は多い。手始めに沢の面白さを味わえる初心者向きの沢をあげてみよう。旭又(300m)まで車で入り、そこから馬場目岳(1037.4m)に突き上げている篭沢や、赤倉岳(1084m)へ至る赤倉沢、奥岳(1170.4m)手前にある弟子還沢などがお勧めである。所要時間は一般の登山道の2倍から3倍くらい。
 仁別国民の森から軽井沢に入り、1の沢、2の沢、3の沢、4の沢に入渓するのもいい。奥岳の東側には気難しい沢が目白押しだ。有名なのは岩見三内・丸舞川沿いに夏の丸舞口沢道を歩き、奥岳に達する尾根道登山道が始まる地点(170m)から入渓する篭滝沢(俗称不帰ノ沢)だ。大小数え切れないほどの滝が連続して、滑り落ちて滝つぼに落ちてしまったという話も絶えない。この沢までは日帰りで登れる。さらに丸舞川から南又沢に入り、その上流にあるネスギ沢や、上小阿仁村の萩形口から大旭又沢に入渓する沢登りは難しいので途中1泊は必要だ。

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