6.  太平山の自然(U)
 秋田県の森林限界は1200m前後である。ブナやミズナラなど3m以上の高木が成長できなくなる標高だ。
 太平山の頂上付近は針葉樹林帯になっても不思議ではないのだが、奥岳の頂上周辺は一望千里の高山の様相を呈している。県内の他の山々では1200m前後になればブナの矮小木やミヤマナラのような低木が生育する。さらに八幡平や森吉山に見られるように針葉樹の森も広がるが、太平山にはない。気象条件や地質地形による擬高山帯を成している。
 奥岳には1等三角点の本点がある。1等三角点にはほかに補点がある。これは1辺が25kmくらいでお互いに三角形にセットされている。本点は国内の測量では最も重要なところで1辺が40kmくらいに設置される。
 ちなみに秋田県には9個所の本店がある。すべて山の頂上にある。幟山(211.1m)、森吉山(1454.2m)、中岳(1024.2m)、田代岳(1177.8m)、太平山(1170.4m)、和賀岳(1439m)、丁岳(1145.6m)、三森(412.1m)、本山(715.2m)である。
 太平山は地形が急峻で気象条件も厳しいため観光道路や林道の建設が少なかった。太平山県立自然公園(11897ha)が比較的自然が保たれているのはそうした理由による。
 森もまだ残されている。野生動物の生息環境としては日本でも恵まれているほうだ。秋田市を貫流する旭川の源流域を成す、稜線に囲まれたU字形の2500haもの森林は、カモシカ生息密度が100ha当たり8頭という、全国一ともいえる調査記録がある。クマも多い。動物の安定した生息域は豊かな植物層に支えられている。
 古い記録になるが1964年に刊行された秋田高校生物部OB会による「秋田県太平山の植物」によれば、分布上注目すべき植物として、キバナウツギ、リシリシノブ、ミツバノバイカオウレン、イワテシオガマ、オクエゾサイシン、イブキトラノオなどをあげている。
 雪も多く日本海側に分布する植物としては、ヒメシャガ、ヒメアオキ、エゾユズリハ、タムシバ、ヒメモチ、ウゴツクバネウツギ、マルバマンサク、ミネザクラ、アカモノ、イワナシなど。
 樹木については全国的に有名な秋田杉をはじめ、高木、低木とりまぜて豊かな森を形成している。アカマツ、ブナ、ミズナラ、ホウノキ、トチ、アカシデ、アズキナシ、センノキ、シナノキ、アオダモ、カツラ、タカノツメ、それにサクラ類やカエデ類は枚挙に暇がない。
 山菜も豊かだ。渓流には魚が群れている。山はそこにすむ動物たちの「家」であり、そこから移動できない植物たちの聖域である。整然として息づいている深い森はそこに住む植物や動物たちがお互いに助け合いながら長年にわたって作り上げてきたものである。ここには人間の果たした役割などほとんどない。そこに人間が入りこむわけである。当然、他人の家にお邪魔する「マナー」が必要となる。地球にともに暮らす生き物たちの倫理である。
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