117. 2021年1月29日青函連絡船
 奥田英朗の『罪の轍』という小説の中に、最後のクライマックスのシーン、犯人が青函連絡船から飛び降り、青森駅のホームに逃げていくという描写がある。クライマックスの一番盛り上がるシーンで、一気に読んでしまいたかったのだが、ここで止まってしまった。というのも、私もよく青森から函館までフェリーで渡る。青森駅から青函フェリーの乗り場までは約5キロあり、徒歩だと40分、バスだと15分でいくが、本数がとても少ない。行くたびに、駅とフェリー乗り場を往復する専用のシャトルバスでもあればいいのにと思っていた。そんなわけで、「青函連絡船から飛び降り、青森駅のホームに逃げていく」という描写をにわかには信じられなかったのだ。そこで、はたと思い出したのだが、この小説の舞台は昭和38年。昭和38年は文字通り「青函連絡船」の時代で、今の「青函フェリー」とは違う。たしかに今も青森駅を出ると、目の前が海で、八甲田丸の会場博物館が浮かんでいる青函連絡船旧青森桟橋跡がある。昭和68年、青函トンネルが開通するまではここから函館行きの連絡線が出ていたのだ。現在と小説との背景がゴチャゴチャになってしまっていたが、これで納得。一気に読了。面白い小説だった。
(M)