149. 2021年9月30日 不健康地
 『天界航路―天野芳太郎とその時代―』(筑摩書房・1984年)という本を読んでいる。天野芳太郎は、昭和3年にウルグアイに渡り、ベネズエラ、パナマ、チリ、コスタリカ、エクアドル、ボリビア、ペルーと南米を渡り歩き、金融や漁業、農業、製薬などの事業を起こし、最終的に、ペルーでアンデス文明のチャンカイ遺跡(文化)を発掘し、リマに「天野博物館」を作ったことで有名だ。天野は、男鹿市出身で(現)秋田工業高校を卒業している。
 本は人物評伝で、当時の天野の膨大な手紙や日記の原文がそのまま載っている。言葉遣いや、漢字の使い方など、現代とは異なるため、非常に読みにくい。その中で、「不健康地」と言う聞きなれない言葉が出てくる。これは「日本とは著しく異なり、治安が悪く、疫病に感染しやすい地域」という意味だ。南米へはアフリカ大陸を経由しての船旅だ。給油のためアフリカの様々な港に寄港するが、ことごとく「不健康地」であるため、上陸が禁止される。(天野はその禁を破って、ほぼ全ての土地に上陸する)「危険地帯」とかではなく「不健康地」という表記の仕方に面白みを感じてしまった。当時はこんな言い方をするんだなあと思ってこの言葉を調べたら、現在でも使われているという。事実、大使館などで仕事をする人たちへむけた外務省の省令の中には「不健康地」という言葉が使われていた。別に、大した言葉ではないと思うのだが、なぜだか私には、印象に残る不思議な言葉だ。
(M)