328. 2025年3月29日
 洋服を洋服屋で買うということがほとんどなくなった。秋田市には洋服屋自体あまりないのだが。先日、秋田駅前に個人経営の小さな洋服屋がオープンしていたのでふらっと入ってみた。買うつもりはなかったが、鮮やかなえんじ色のパーカーに一目惚れし購入した。商品は店の高い位置にディスプレイされており、試着をお願いしようと店員に話しかけるとき「あのワセダカラーのパーカーを試着させてください」と言ってしまった。ポカンとし顔の店員をみてハッときづいた。
 私は長いこと高田馬場という街に住んでいた。この街には早稲田大学があった。高田馬場という街自体がイコール早稲田大学と言っても過言ではない。この早稲田大学のスクールカラーがえんじ色だった。そのため大学だけでなく、街全体にえんじ色が溢れていた。学生も街の人も「えんじ色」とは呼ばずに「ワセダカラー」と言うのが街の常識になっていた。だから私もえんじ色をみると、情景反射的にワセダカラーと言ってしまう癖がついている。
 ポカンとした顔の店員さんを前に、あわてて、「あの......えんじ色の」と言い直したが、「ああ、あのバーガンディの」とさらに言い直されてしまった。
 なんだか恥ずかしくなり、もうちょっと店内をみたかったが、バーガンディのパーカーだけ買って、そそくさと店をでてきた。
(M)