79. 2018年7月11日   信号機
 久しぶりに、2年前まで無明舎でアルバイトをしていたM君と飲んだ。彼は現在、地元の新聞社で記者として働いている。会うなり、開口一番、「こないだのタモリ倶楽部みました?」と興奮気味に聞いてきた。タモリ倶楽部とはテレ朝の深夜番組で、非常にマニアックな、所謂「オタク」の世界を毎回取り上げ、それについて面白おかしく議論するという番組だ。今ではメジャーになった「鉄オタ(鉄道オタク)」などを世に知らしめたのもこの番組だ。
 M君が言った「こないだの」というのは、「信号機マニア」を特集した回のことだ。M君は小学生の頃からの生粋の「信号機マニア」で、信号機を見ると、「○○という会社の○○という信号機で○○年制ですね」などと瞬時に言い当てることができる。小学生のころにはすでに自作の信号機を作っていたほど。休日になると一眼レフカメラを持って、珍しい信号機のある街にでかけていく。しかし、その一風変わった趣味を共有できる友人がおらず、M君はずっとそのことを隠してきた。
 世の中には様々な分野でなかなか日の目を浴びなることのないマニア達がいる。一般的には理解されづらい趣味を共有する彼らが望むのは、いつ自分たちの分野がタモリ倶楽部で取り上げられるかということだ。
その日のM君は「やっと時代が僕らにおいついてきましたよ」と言いながら終始ご機嫌で杯をかさねていた。ちなみに この信号器マニア達は車の運転をしたがらない。運転中に信号機が目に入るとそちらにばかり集中してしまって、運転に支障をきたすからだそうだ。
(M)