Vol.1083 21年10月2日 週刊あんばい一本勝負 No.1075

空欄の多いカレンダー

9月25日 読書には人生の長い時間を費やしてきた。本に使うお金は1カ月、数万円を切ることはない。でも、この本は買う前にさすがに躊躇した。岸政彦編『東京の生活史』(筑摩書房)。A5判上製1200ページ・2段組みで定価4600円。東京の150人にインタビューした聞き書きノンフィクションだ。昔読んだスタッズ・タ―ケルの『仕事!』(晶文社)の日本版とでもいっていいだろうか。今年中に読み通せるだろうか。これはこれまで買った本の中で、一番ページ数の多い本かもしれない。何としても読み通してみたい。

9月26日 今日は真昼岳。この山も私の足ではゆうに3時間かかる。石がゴロゴロする岩場を1時間ほど登り、続いて平坦な美しいブナの自然林の中を1時間、最後の1時間は頂上までアップダウンを含め急峻な登りが続く。とはいっても太平山の宝蔵コースに比べればずっと楽なコースだ。風があり曇り空だったが午後からは青空も見えた。黄金色の広大な仙北平野が眺望できるのもこの山の魅力だ。

9月27日 最近「雲」をじっくりと見る時間が長くなった。雲が好きになった理由は山行と関係があるのかもしれない。山ではとにかく天気が気になる。木や風や空が大切な友達のように思える場所なのだ。特に雲の多様さ、変幻自在な自由さ、気まぐれで天衣無縫な感じに心惹かれる。朝夕、事務所の上空からも実に多種多様な雲をみることができる。夕方の空は毎日の楽しみだ。

9月28日 「爪」への意識が高くなった。月に3回は指の爪を切るし、足の爪は月1回、手入れする。左足小指の爪がめくれて盛り上がったままだ。これは下山時に登山靴の圧迫によって生じたものだ。これを削るヤスリを買おうと思ったのだが、どこで売っているのかわからない。困ったときのSシェフ頼みで訊くと「100円ショップ」といわれた。行ってみると店員がすぐに現物を見せてくれた。100円ショップはすごい。ネットは送料が高く、廉価物を買うには適していない。100円で買えるものが500円を超えてしまう。100円ショップに救われた。

9月29日 昨夜のクローズアップ現代は見ごたえがあった。札幌の中心街に現れたヒグマの足跡を追った番組だ。ヒグマは凶暴で、本州のクマの「かわいらしさ」がみじんもない。その北海道のヒグマが、なぜ山を下りて大都市のど真ん中に出現したのか。番組では「緑を増やす」や「サケの放流」といった自然保護運動と関わる大きな時代の波が、結果ヒグマを都市に近づけたという結論のようだ。これまで知床以外に発見されていないサケの寄生虫が、札幌で射殺されたヒグマの胃の中から見つかった、というのが番組のハイライトだ。結局、わたしたちは動物の生態をよく知り、共存していくより手はない。秋田でもツキノワグマはもう山中深くではなく山里にウロウロしている。

9月30日 月末、デスク前のカレンダーを破りすて、新しい月に替える。そして真新しい空欄だらけのカレンダーに予定を書き入れる。昔のようにびっしりカレンダーが文字で埋まることはない。でもカレンダーの空欄は「可能性」でもある。空欄の多いカレンダーを眺めていると「忙しくなってくれよ」といつも祈りたい気持ちになる。

10月1日 夕食はキリタンポ鍋。そんな季節になった。キリタンポは秋田市の名店「お多福」のもの。久しぶりに日本酒を御燗した。最近、朝にNHK「新日本風土記」を衛星チャンネル再放送で観ている。テーマや構成が毎回本当にうまい。今日は「オリンピックの日々を、その喧騒とは別に生きた地元東京の人々」というテーマだ。好きな番組だが、あの奄美民謡「あはがり」という番組テーマ曲はどうにもピンとこない。「すべてがあかるい」という意味らしいが、歌詞も曲調も土着的、呪術的で、浮世離れしている南方世界だ。東北には存在しない空気感だからなのかもしれない。
(あ)

No.1075

食べものから学ぶ世界史
(岩波ジュニア新書)
平賀緑

 サブタイトルに「人も自然も壊さない経済とは」とある。これがちょっとイデオロギー色が強くて気になったが、食べ物から「資本主義」を解き明かす(帯コピー)という本だからまあしょうがない。世界には120億の人口を養う充分な食料があるが、現在78億人の人口のうち、慢性的な飢餓人口は7〜8億人いるという。本書の主張のメインは資本主義が不変のシステムではない、ということに主眼が置かれているのだが、その根拠となるテキストは名著「砂糖の世界史」やジャレッド・ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」、斎藤幸平などの本からひかれている。興味惹かれたのはトウモロコシだ。アメリカ人のことを「歩くトウモロコシ」と揶揄する言葉があるそうだ。トウモロコシは直接食べるだけでなく甘味料や油、飼料や発酵原料(コーンスターチ)としての使われ方が異常に多いのだ。日常の食生活はほとんどトウモロコシで成り立っている、といっても過言ではない。トウモロコシを原料にした甘味料(砂糖より安い)は日本人によって開発された(1971年)。ここから大きく食の歴史は変わる。ほとんどの加工食品などにこの高果糖コーンシロップ(ブドウ糖のことですね)が大量に使われだし、工業化されることによって、トウモロコシの需要は一挙に伸びた。ここからアメリカ人は「歩くトウモロコシ」やら「デブの帝国」と揶揄されることになる。なるほどそうだったのか。トウモロコシ、けっこう好きなのだが、怖いなあと初めて実感した。

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