Vol.1090 21年11月20日 週刊あんばい一本勝負 No.1082

真っ赤な時計ベルト

11月13日 もう1カ月以上、近所の水道工事が続いている。ブルトーザが通るたび建物は細かく震える。建物だけでなくデスクもパソコンもキーボードも同じように細かく震えるのは、地震とは違う種類の、不快感を呼び起こす。おまけに外は雨。風情ある秋の雨ではなく豪雨に近い雷を伴う雨だ。このまま机の前に垂れこめていると気分的にまいってしまう。思い切って河辺にある「ユフォーレ」まで出かけ温泉に入ってきた。昼時で湯船は貸し切り。食事(ラーメン)もしたのだが、なんと食堂は超満員、お年を召したご婦人方でかしまし娘状態だ。こんな豪雨でもご婦人方の行動力は揺るがないようだ。

11月14日 毎朝コーヒーを1杯だけ豆から挽いて飲む。味はよくわからない。だからこそ美味しいものをと思っての朝の1杯だ。でも正直なところ、外(コンビニ)で飲む1杯200円のカフェラテのほうが自分のコーヒーよりも明らかに美味い。さらにスーパーから150円ほどで買ってくるペットボトルのアイスコーヒの芳醇な香りと濃厚さに驚いた。私の豆の選び方や挽き方、淹れ方に何か大きな問題があるのかもしれない。たぶんちょっとした工夫で驚くほど美味い、薫り高い芳醇なコーヒーになる、のかもしれないが、そこまで道を究める意欲はいまのところない。

11月15日 日曜日だが山行はなし。美郷町に「小池一子展」を見に行く。小池一子はわが80年代のあこがれのサブカル・スターだ。田中一光や三宅一生の影に隠れてはいたが、西友やパルコ、そして無印良品を仕切る裏方として、かつ今も第一線で活躍するすごい人だ。今回初めて知ったのだが彼女のお姉さんは作家の矢川澄子。あの澁澤龍彦の奥さんだ。美郷町の帰り、大曲イオンショッピングセンター向かいの「古四王神社」へも。秋田県で初めて(昭和6年)国宝になった建造物である。和唐天という三つの国の建築様式がひとつの建物の中に混在する「奇にして珍なる」様式で、飛騨の大工(匠)が中世後期(1570)に造りあげた神社だ。でも専門知識がないので建物を眺めてもどこが奇にして珍なのか一向にわからなかった。

11月16日 朝夕の冷え込みが冬モードに。布団からはみ出した肩の冷えがキツくなり、数年前から寝巻の上にダウンジャケットを羽織って寝ている。軽いユニクロの3千円台のダウンジャケットなのだが、もう3回はクリーニングに出すほど、重宝している。普段着ではなく肩冷え用冬寝巻として大活躍だ。寝巻代わりに着倒しているのに、まったくヘタらないのがすごい。一方、山用に買ったノースフェースの本格的なダウンジャケットは5万円以上した。でもほとんど使う機会はない。普段着には暑すぎるし、羽毛がすぐにはみ出すし、もうヘタりはじめている。3千円台が毎日の使用に耐え、5万円台が使用しないのに経年劣化が始まっている。モノの値段って何なんだろう。

11月17日 立て続けにYシャツにジャケットという「準フォーマル」な服装をした。外でお話をする機会があったためだ。衣服に関して今年は襟のついたシャツをほとんど着ずに1年を過ごした。丸首のシャツにジャケットやマオカラーのシャツを重ね着するスタイルで、心境の変化というより成り行きだ。年のせいだろうか。もう襟のついたシャツを見るだけで「しんどいなあ」と感じてしまう。そのいっぽうで、山歩きはちゃんと襟のあるシャツを着るのが定番スタイルだ。なんだか自分でもよくわからないのだが、これがまあ自分なりの流儀としか言いようがない。

11月18日 夕方の県内TVニュースで「後三年の役」が登場した。青山学院大学の学生たちが遺跡研究で訪れたというニュースだが、「後三年の〈役〉」とテロップで明示していた。歴史の世界では「役」は間違いだ。「合戦」と表記するのが正しい。「役」という言葉は朝廷(国)が認めた公的な戦さのことで、後三年の戦いは「私怨による合戦」と認知されているためだ。国は関与していないし税金で戦費も出していない。さらにここが歴史的には大事なポイントだ。源義家(八幡太郎)はこの朝廷の決定に怒り狂い、武勲のあった家来に自らの裁量で恩賞(土地)をあたえた。これがのちに貴族に変わって武士が政権を樹立する基礎的事実になったからだ。朝廷に頼らず自分たちで御家人に恩賞を与える、という鎌倉時代の政権構造が、この合戦で出来上がったわけである。

11月19日 身の回りの空気が澱んできたな、と感じると腕時計を替える。30年以上前に買った時計が4本ある。これをとっかえひっかえしているだけだが安上がりの窮余の策だ。でも最近はそれも新鮮味が薄れてきたので、時計バンドをカラフルな布製のものに替えてみた。赤や黄色、グリーンにグレー、タン色の布バンドはカジュアルで千円以下。今日は手持ちの中では一番高価な時計に、一番チープでド派手な赤布バンドをまいてみた。目立つので気分もなんだか前向きになる。これで散歩に出たのだが、歩くよりも腕のあたりが気になって、赤いバンドがひとりで散歩している感じだ。
(あ)

No.1082

日本国憲法
(TAC)
松本弦人編

 サブタイトルは「美術でよむ日本国憲法」だ。戦後芸術のマスターピース(写真・現代美術・絵画・マンガ・イラストレーションなど)69作品をカラー画像で楽しみながら、憲法全103条を1条ずつ見開きで読むことができる。憲法はもちろん総ルビ付きで注釈付き、英文も併記してある。何十年か前に大ヒットした小学館判「日本国憲法」の2番煎じだが、まあ進化系現代版という感じかな。前の本の編集長である小学館の島本脩二は一躍時の人になったが、本書にも「和文注釈制作」者として奥付に名前が載っている。確かに前の本は着眼点の新鮮さにビックリした。本書も前作に負けず劣らずヴィジュアルのレイアウトに力が入っていて素晴らしい。条文に合わせた美術作品のセレクトのセンスがいい。本書は我が家の「置き本」に決定だ。「置き本」というのは池内紀さんの造語で、トイレに置いておいて読む本のこと。毎日この本を眺めながら朝のお務めをするのは楽しみである。ちなみに9条の挿画は、木村恒久の「俺の知ったことじゃない」という、アカンベーをしたアインシュタインが赤い空に浮かんでいるフォト・モンタージュ。もう一枚は小沢剛の写真でウガンダの黒人女性が野菜で作った銃を構えている「ベジタブル・ウェポン」という作品だ。

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