| Vol.1295 2025年10月25日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1287 |
| 感動は「上書き」される | |
10月18日 秋田市中心部にクマが出た。クマが出たのは千秋公園と秋田大学キャンパスの間。私の住む医学部の小さな裏山にもクマの存在は確認されている。もしかして同じやつだろうか。県外に住む友人から「ついにノラ熊が出ましたね」というメールが届いていた。彼らは飼い主である「山奥」から解き放たれた、人間社会の豊かさを知ってしまった「はぐれもの」だ。こうした先駆者(?)が一頭出れば、後に続くものが後を絶たなくなる。2019年、夜の散歩中に明らかにクマらしい生き物がノースアジア大学の前の道路を横切るのを夜に目撃している。国際教養大学のキャンパスのそばで巨大なクマの糞をみて膝が笑い出したこともあった。クマはなぜか「大学」が好きなようだ。
10月19日 このHPブログ「週刊ニュース」のなかの「一本勝負」という書評コーナーが今週で「1286回」になった。毎週、飽きもせず、自分の読んだ本の感想を、「本の備忘録リスト」として書いてきた。年50回とすると25年以上書き続けてきた計算になる。今月末から始まる月2回の地元新聞の連載で、この過去の書評連載が役に立っている。過去のこの「1本勝負」から引用する形の文章が多いのである。意地で続けてきたことが、こんな形で報われて、うれしい。 10月20日 朝夕の冷え込みがきつい。若いころはむしろ冬は大歓迎、とまではいかないが、雪が降りだすと何となく精神が安定し、気持ちが落ち着いたものだ。10月も後半に入り、このあたりから少しずつ忙しくなる予想だったが、まだその兆候はあらわれていない。すべての重要な決定やアイデアは「忙しさ」のなかで発現する、というのが人生経験からえた教訓だが、その忙しさは、なりをひそめたまま。波が来るまでは身を丸めて、読まれるあてもない原稿をコツコツ書いているしかない。夜の読書は奥田英朗『普天を我が手に』第2部はほぼ読了。3部が出る12月17日まで無聊をかこつことになる。「ほぼ読了」というのは、なんだか名残惜しくて、最後の30ページをわざと読み残しているからだ。 10月21日 歩いていて違和感があるので3足あった靴を思い切って「全とっかえ」。メーカーは「ミズノ」に統一した。そこのスニーカー(1万円)、堅牢なウォーキングシューズ(1万5千円)、何十年もはいている定番の2万5千円のものだ。散歩のたびにこれらを交互にはいている。半月ぐらいすると履き心地に差が出てきた。軽くてはきやすいスニーカーは足裏に痛みを感じるようになり、最悪なことに足が靴の中で動く。長い間歩くのに適してない。真ん中のシューズは問題ないのだが、やはり長く歩いていると足をしめつけてくる圧迫感が少しある。ひもで調節しても窮屈な感じが否めない。3足目はもう何十年もはき続けている。やはり足への圧迫感がない。最高だ。ワインと同じように靴も結局は「値段」で決まるのか。なんだかがっかりするような、安心したような複雑な心境だ。でもその高い靴だけを毎日履くわけにもいかない。ローテンションを組みながら履き替えていくつもり。靴って重要だよね。 10月22日 朝は「ノニオ」というライオンが発売している、うがい薬、液体歯磨でゴボゴボ。色違いのボトルが何種類か売られていて、今使っているものはミント臭が強く、おまけに泡が出て、口に含んでいるとあふれ出てくる。だから「泡の出ないやつ」と店員にいっても、けげんな顔をされた。何度もこの「泡がでる」のほうを選んで後悔。今は泡ボトルを手元に残しておいて、同じ失敗をしないよう注意している。このダメサンプルを店に持って行って一瞬、これがダメなほうなのか、いいほうなのか、迷い出し、結局同じものを買ったら泡が出た。こんな人生でいいのか自分。 10月23日 昨日の夕焼けはすごかった。西の空が秋晴れのような青空で、その上に真っ白な雲がかかって、この雲に虹色が筋状に描き出されている。空色と雲の白と虹色の絶妙なハーモニーだ。人工的にこの色彩を再現するのは難しい。すぐに写真を撮ったのだが、思っていた通り、写真の色はまったく陳腐で、どこにでもある夕方の空だ。この写真の平凡な色を見て、あらためてリアルな夕焼けの美しさにため息が出た。自分の目に焼き付けるしかない。今年に入ってこの夕焼けは3度目。なぜ今まで見たことがなかったのだろう。 10月24日 原稿を書くために、昔読んだ本をもう一度読み返す、という「作業」が多くなった。何ともしんどいが、本というやつは読後の印象が時間とともに自分本位に「上書き」されてしまう。昨日は浅田次郎『帰郷』のなかの傷痍軍人の物語「金鵄のために」を読み返した。やはり思い違いや勝手な思い込みが多いのが分かった。「傷痍軍人になるため手足を切りとる組織があった」という衝撃的な事実に触れた物語と思っていたが、読み直してみると、それは一部で、戦場での「人肉食い」に多くの紙枚が割かれていた。「お前の腹の中に入れて、俺を日本に連れ帰ってくれ」という飢餓で死んでいく兵士の断末魔の言葉が物語のキーワードだった。「感動」は勝手に上書きされる。注意が必要だ。 (あ)
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