| Vol.1311 2026年2月14日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1303 |
| 言葉で時間をつなぎとめる | |
2月7日 遠洋漁業の人たちは出航すると何か月も洋上を漂泊する。夜寝るとき、船はどうしているのだろうか。ある本を読んでいたら、パラシュート・アンカーと言われる錨(いかり)を使って船体を安定させ、安全に洋上を漂泊する、書いていた。船首側の海中に落下傘を広げ、水の抵抗を使って船首を風上に向け、横波を受けにくくする。これで船体は安定し、安全に海の上を漂っていれる。さすがに大シケの時は、難を逃れるために港に待機するのだが、それ以外は洋上で荒天をしのぐため「パラ泊」を選ぶのが常識なのだそうだ。なるほど、そういうことだったのか。
2月8日 遠くにギャァギャァという汚い鳴き声がひっきりなしに聴こえる。もう白鳥の北帰行がはじまったの? と怪訝に思ったら、候補者名を連呼する選挙カーの「騒音」だった。それにしても1週間の過ぎるのが早い。これは私が年寄りになったからなの。若いころの1種間は、たぶん仕事の進捗状況が「時間を支配」していたので、忙しければ忙しいほど1週間は長かった。仕事が少なくなった今は、時間を支配するのは「時間」だ。放っておくと時間は勝手にどんどん過ぎていく。昔はこれに「仕事」という圧力が大きなブレーキをかける役割を果たしていたわけだ。 2月9日 動物行動学者の日高敏隆に「チョウの飛ぶ道」という随筆がある。チョウの飛ぶ道は決まっている、という少年時代の確信を、長い時間をかけて立証していく話だ。その中に戦中、東京から秋田に疎開した話が出てくる。遠い親戚の石田精三さんを頼って大舘町に来たのだが、チョウ道の観察には適当な場所がなかった、と嘆きつつ、ファーブルの本に出てくる小さなハチがたくさんいて、その観察に精を出している。疎開した場所は栗盛図書館の隣の家、と書いている。今度大舘に行ったら訪ねてみよう。 2月10日 選挙もオリンピックも「過熱」は嫌いだ。みんなが同じ方向を向くのが怖い。こんな時は静かに本を読むに限る。このところはまっているのは「松家仁之」。この作家のデビュー作『火山のふもとで』(新潮文庫)に打ちのめされ、『光の犬』も読んでしまった。いい作家だなあ。文庫本になっている彼の全作品を読破するのが今の目標で、楽しみだ。 2月11日 ハワイ沖でアメリカ軍の原子力潜水艦に衝突され9人の死者を出した宇和島水産高校の練習船「えひめ丸」事件から今年は25年目だという。あの事件から7年後の08年、いわき市の第58寿和丸が、太平洋上で停泊中に沈没、17名もの犠牲者を出した事件は、なぜか、えひめ丸ほど報道がなされなかった。伊澤理江『黒い雨−−船は突然、深海に消えた』(講談社)を読むまでは、私もその詳細は知らなかった。未だ沈没の原因が不明で、その捜査プロセスを検証したルポだ。著者はこれが初の著作で、いきなり本田靖春ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、日本エッセイスト・クラブ賞の3冠を獲っている。執筆動機はいわき市の「日々の新聞」の安竜編集長だ。安竜さんには私もいろいろお世話になっている。 2月12日 去年の暮れから地元の魁新報紙に月2回のコラムを連載している。「秋田のほん箱」というタイトルの連載だが、まあ毎日書いているこの「今日の出来事」の延長のような原稿だ。このコーナーを読んでくださる方には、同じことを書いてらぁ、と笑われるかもしれない。大したことを書いているわけではないからネタに困ることはない。それでも人並みに読者がどんな感想を持つか心配になる。といっても身の丈以上に自分を大きく見せたい年でもない。ありのままの身辺雑記がテーマなので、ダラダラ、あることないこと、綴っていこうと思っている。 2月13日 SNSは「速い言葉」だ。バスっても数日で鎮火して、アーカイブもされない。一方、小説は「遅い言葉」だ。多くの人が時間をかけて世に送り出し、読者もお金を出して買い、時間をかけて読まなければならない。根回しして、原案を作り、推敲を重ねなければ生まれない「遅い言葉」は、時代に食い込み、消そうとしても消えず、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる……と、ある小説家が言っていた。なるほど私がSNSという「速い言葉」に興味がないことを見事に言い当てている。本を出す仕事とは別に、この半世紀ずっと今のSNSと同じようなスタンスでミニコミを出し続けた。その折々で名称を替えながら、途切れることなく続き、いまはこのHPブログで、それは続いている。流れていく日々を言葉でつなぎとめたい。毎日の散歩や歯磨きのように、言葉で時間をつなぎとめたい。 (あ)
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