Vol.782 15年11月28日 週刊あんばい一本勝負 No.774


原節子よ、永遠に

11月21日 1週間で一番気ぜわしいのが土曜日だ。週日に原稿を書いたりHP更新をするのは集中できない。電話や来客があるからだ。そんなこんなで「土曜にまとめてやっちゃおう」ということになり習慣化してしまった。朝起きるとまずは翌日の日曜山行の準備。いつもよりゆっくりラジオを聴きながら新聞を読み、濃いめのコーヒーを飲む。あとはPC前に座りこんで、ひたすら原稿書き。終わると散歩も兼ねて買い物に。今週末からは病院通勤も日課に加わった。食事のための買い出しもする。いろいろと済ませて家に帰ると夕飯の準備。山行があるので酒は飲まない。何やかやけっこうストイック。そうした性格がいらぬ負荷をかけている。こればっかりは生まれながらの性格なのでどうしようもない。来週からは冬DMの準備も始まる。

11月22日 山行は二ツ井にある房住山。毎年定番の33観音のある山、今年は2年ぶりの縦走だ。山頂までは約半分の観音像しか登場しない。山頂から反対側に下山すると、残りの観音像が続々と出てくる。33観音すべてにお参りするには縦走しかない。おまけに1番目の観音像は登山口と反対の丘に鎮座している。けっこう面倒くさい。縦走下山路はあまり人が通らない。そのため登山道が整備されておらず2年前も迷った。今年こそ大丈夫と思ったが、やはり道を間違えた。暗くなりかける寸前にどうにか下山。危機一髪だった。山は油断ならない。慢心を心から反省した日曜山行。

11月23日 カミさん不在なので夕食は自分で作る(朝は新入社員の担当)。料理は好きなので苦にならないがメニューを考えるのが面倒くさい。不思議なことに外食したいとはつゆも思わない。何でも好きなものを作って食べてもいい。何を作ってもいいのだが真っ先に思いつくのはシンプルなものばかり。「卵かけごはん」やなべ物、お茶漬けやサラダといった主菜とはほど遠いものばかり。味噌汁だけはちゃんと出汁をとって毎日ちゃんと作る。具はジャガイモ。皮をむく手間もいとわない。毎日うまい味噌汁をのめるだけで幸せだ。

11月24日 「本好き」に入ると思うのだが、ベストセラー作家・村上春樹の長編小説をほとんど読んでいない。世間が騒いでいるのでミーハー気分で読みだすのだが、決まって途中で投げ出してしまう。普段、本などほとんど読まない人までが村上春樹の本を買って読んでいる。そんな現象に「自分には何か重大な欠陥があるのかもしれない」とコンプレックスさえ持っている。ピーマン嫌いの子供に無理やりピーマンを食べさせる親のように、一念発起して村上春樹のエッセイや短編小説を、「ちょっと」ずつ読み始めた。昨夜は『女のいない男たち』を読了。明日からは新刊紀行文集『ラオスにはいったい何があるというんですか』の予定。エッセイや短編は確かに面白い。好きになるまで食らいつくぞ。

11月25日 連日いろんな人と会う。打ち合せ回数も多い。といっても忙しくて経済的にゆとりがある、わけではない。2,3年前までは考えられないほど人と出会う頻度だけが増している。編集者人生で過去最大級の社交的な日々といってもいい。どちらかというと「人見知り派」だ。元来まったく社交派とは逆の書斎タイプ。それなのに今年後半あたりから毎日のように人と会う生活になった。この変化にも慣れてきたが、どうしてこんな状況になったか、今一つ自分でもよくわからない。新入社員の登場で、自分の代でフェードアウトしようと思っていた予定が狂い、後続のために何か残さねばと足掻いている、というあたりなのかもしれない。66歳にもなって毎日新人営業マンのように外回り。こんな人生でいいのジブン。

11月26日 原節子が死んだ。小津映画で何度も繰り返し観ている女優なので「過去の人」のイメージは当方にはない。訳の分からないタレントの「死」と一線を画してほしいのがファン心理だが、世の中はテレビの露出度で有名人を決める嘆かわしい風潮が全盛。作品名は忘れたが小津映画で、夫と赴任する秋田に思いをはせ、練習した秋田弁でふざけて友人と会話するシーンがあった。原の流ちょうな秋田弁に驚いた。セリフの少ない女優のイメージが強いが、あの秋田弁ですっかり見直し、好きになった。追悼の意味も込め、あの秋田弁のラストシーンのある作品を探し出し、あらためて観てみよう。合掌。

11月27日 原節子主演の『麦秋』(1951年制作)を見直した。淡島千景と秋田弁でやり取りするシーンはわずか30秒ちょっとで、これはショック。以前観た時、数分にわたって掛け合いがあったと記憶していた。思い込みというのは恐ろしい。『麦秋』は原節子の作品の中でも喜怒哀楽がはっきりした、セリフや感情表現の多い役回り。脚本を書いた野田高梧は、「『東京物語』は誰でも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と述懐している。原(役名・紀子)の夫は秋田県立病院内科部長として秋田に赴任、「ツツガムシの研究」をしたいという人物だ。この時代、銀座のショートケーキは900円もする。お寿司の好物が「トロ」という会話まであった。昭和26年の映画ですよ、ご同輩。モノクロ映画はいろんなことを教えてくれる。
(あ)

No.774

職業としての小説家
(スイッチ・パブリッシング)
村上春樹

 毎回取り上げるたびに定番のようにつぶやいてしまうのだが、村上春樹の小説はほとんど読んだことがない。読みだしても途中でやめてしまう。書かれている内容と相性が悪いのだろう。興味が続かない。そうとしか考えられない。ランニングについて書かれたエッセイ集があったが、これまで読んだ本の中のベストテンに入るほど感動した。いくつかの短編小説のあらすじも空で言えるほど印象的だった。なのに、長編小説になるとからっきしダメで途中で投げ出してしまう。本書は「自分が小説を書くことについてのエッセイ集」である。「講演原稿を書くつもりで文章を統一した」文章類だ。こういうのなら大歓迎だ。版元が変わった名前だがロック評論家・渋谷陽一さんが立ち上げた出版社である。発行者「新井敏記」となっているが、この人は沢木耕太郎さんの本なども担当していた文春の編集者だった人じゃなかったかな。大手でないところから著者の本が出るのは珍しい。今回も紀伊国屋書店による「大量買取」で話題になった。アマゾンに対抗するためというが、一書店の買い占めに何か意味があるのだろうか。よくわからない。小さな版元からの刊行という環境から編み出された戦法なのだろう。普通に仙台の駅の売店で購入し、秋田への帰りの電車で読了した。ランニングほどではなかったが、小説家の仕事と人生も十分楽しませてもらった。

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