Vol.1017 20年6月27日 週刊あんばい一本勝負 No.1009


ブラジルに本を送る

6月20日 普段でも1日の9割は家か事務所で「自粛」している日々である。上からあれこれ言われて閉じこもるのはイヤだが、あれこれ言われなくとも好きで閉じこもっている分には不平もない。でも確実に電話やメールがめっきり減った。その影響だろうか大きなボリュームで音楽を聴くことが多くなった。音は大きいほうがいいが、音楽そのものは静かなもののほうが好みだ。最近は谷川賢作のピアノ・ソロを聴いている。心が静まり、音と音の沈黙の合間に考え事もできる。オリジナルと名曲のアレンジが交互に演奏されるスタイルも気に入っている。

6月21日 山行はなしで事務所のお片付け。最近面白い本にぶつかる確率が高い。昨日は一日中、『つげ義春日記』(講談社文芸文庫)。将来への不安、妻の闘病、自身の心身の不調が延々と愚痴られている。その前は『安倍晋三と社会主義』(朝日新書)。こちらは朝日新聞の記者が書いた本で、サブタイトルは「アベノミクスは日本に何をもたらしたのか」。この20年の日本の政治が主導してきた経済政策が門外漢にもよくわかるように解説されている。

6月22日 自粛が解除になり、東京などからの移動も自由になった。地方でもこれから感染者が増えるのは間違いない。怖いのはやっぱり今年の冬だ。冬になると暗鬱とした雪国を逃れて東京へ行きたくなる。新幹線やホテルは過乾燥で、すぐにのどをやられ風邪をうつされる。コロナの今は旅をするのも勇気のいる時代になってしまった。

6月23日 うれしいことがひとつ。コンビニで発見した「昔ながらの味のアイスキャンディ」をネットで発見。48本を注文した。5年ほど前、近所のコンビニで見つけてそのシンプルな味の「とりこ」になっていた。でも以後コンビニで見かけることはなくなった。コンビニに寄るたびチェックを欠かさないのだが、今年も店頭には見当たらない。正式名は「センタン・アイスキャンディ」と言い、大阪に本社がある会社だ。アイス本体は安いのだが、宅配料金が1200円。最近は自分で練乳と牛乳で手作りのアイスを作っているのだが、やっぱり本物のようにコクのあるものはできずに悩んでいた。

6月24日 今日から2日間、庄内の小さな山を歩いてくる予定。山歩きというよりハイキングだ。ホテルに泊まるのも久しぶりで緊張する。目的はこのところの自粛による暗鬱な気分を払しょくするためのリフレッシュだ。久しぶりに会う友人たちとおいしいものを食べ飲んで、シャキとした心身を取り戻して戻ってきたい。

6月25日 鳥海山のほとりにある遊佐町には夏にぜひ泊まりたい宿泊施設「しらい自然館」がある。今回は泊まらなかったが、この宿の上にある「万助道」の一部を歩いてきた。自粛太りで身体が重く、息が上がってしまった。夜は友人たちと一杯やる予定だったが、お店のことごとくが閉店中。常宿のバイキングも閉じていた。酒田のモンベル店もマスクチェックがあった。今回は大変なミスをした。旅の必需品である本を忘れてしまったのだ。これでは夜眠られない。焦ってデパートにある書店に買いに走った。書店の下の階の衣料品コーナーに降りると「インターメッツオ」という日本産ブランド洋服の「7割引きセール」をやっていた。あまりの安さにポロシャツとジャケットの2点を衝動買い。400円の文庫本を買うつもりが1万円札の買い物になってしまった。しかし旅に本を忘れたというのは初めてだ。

6月26日 ブラジルの友人に読み終わった文庫本などを毎月1箱、船便で送っている。送料は段ボール一箱1万円弱くらい。自分の読んだ本をブックオフや安売り古書業者に2足3文で買いたたかれるのは本当に気分が悪い。ブラジルにいる日本人や日系人の中には日本語の本に飢え、大切に読み、次の人に読み継いでいく習慣がまだ残っている。日本の本はけっこう高価だ。どうせならそうした人たちに自分の本は読んでもらいたい。最近、山仲間にこの話をしたら「私の本もブラジルに送っていただけませんか」と、なんと送料代金付きで本を持参してくれた人が現れた。新田次郎や池波正太郎、司馬遼太郎のきれいな文庫本がたくさんあった。ブラジルまでは船便で2ヵ月半ほどかかる。南米はコロナの被害がすさまじく、家に閉じこもる人に本は最高の娯楽だ。自分たちが読み終わった本が、別の人たちの役に立つと思うと、また今日も本を読もうと思う。
(あ)

No.1009

還暦からの底力
(講談社現代新書)
出口治明

 床屋で剃刀を革砥ぎで「研ぐ」シーンを映画などではよくみかける。あれをやれば剃刀はもっと切れるようになると理解していたが真相は真逆だった。剃刀はよく切れると危ない。顔面を剃るのだからだ。そこで革砥ぎで刃先をわざわざ柔らかく丸めるように砥ぐのだそうだ。歴史を大雑把に理解する方法を、この著者の本で学び、以後、いろんな場面でその知識に助けられている。本書のサブタイトルは「歴史・人・旅に学ぶ生き方」というもので、どうやら養老さんの「バカの壁」同様、話したことをライターがまとめたもののようだ。要諦は「色眼鏡を外して、フラットに周囲の物事を見ること」「数字・ファクト・ロジック」で、エピソードではなくエビデンス(証拠)で世界を見ることを進めている。日本の停滞の理由は出生率の低さで、それは根底に男女差別があることを指摘している。育児のみならず家事、介護が全部女性の手にゆだねられている世界で、誰が赤ちゃんを産みたいと思うのか、と疑義を投げかける。本書で著者は保守主義者であることを明言している。「保守主義」とは性悪説をとる人のことだ。人は悪いことをする。努力してもそれは変わらない。だから制度の中でうまく回っているところは「正しい」と仮置きして放っておく。それが保守主義の人間観だ。

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