Vol.1046 21年1月16日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1038 |
印象に残った言葉 | |
1月9日 わずか13時間の停電だったが、この寒さの中ではハードな1日になった。豪風雪はおさまったものの今日も黙々と雪は降り続いている。1日に3回の玄関の雪かきが必要な積雪である。明日は男鹿真山に登るつもりだったが、雪の具合を見てSシェフとも話し合って中止。中止が賢明な選択だろう。仕事場に閉じこもって雑用をこなす3連休になりそうだ。 1月10日 たっぷり朝寝。カミさんを川反まで送るが、狭い川反通りは雪で通行不能。大きな山王通りを遠回りして帰ろうとしたが交差点で車がスリップ。真ん中で立ち往生してしまった。市内のど真ん中でスリップというのはさすがに恥ずかしい。帰途、路地のいたるところで雪に埋まった車を見かけた。どうにか家に帰ったが今度は家の駐車場でスリップ。やれやれもう車はイヤ。 1月11日 3連休で2冊の本を読む。宮崎伸治『出版翻訳家になんてなるんじゃなかった日記』(フォレスト出版)と奥田英朗『コロナと潜水服』(光文社)だ。奥田の本は5つの中編からなる小説集で連作でないのがちょっぴり残念。5つの小品に共通するのは「幽霊」、というか「小さな救世主」。妻の浮気で古民家に移り住んだ作家に憑りつく子供。リストラ寸前の追い出し部屋に現れたボクシング指導者。人気野球選手との恋愛に悩む女性と占い師。コロナを予知できる子供。中古のイタリア車に乗ると不思議な現象に次々と襲われ……といった具合のからッと明るい幻想的な物語。 1月12日 雪はときに死をもたらす「凶器」に替わる。先日のわずか13時間の停電でもそれを実感した。体力のない弱者や高齢者は電気が止まれば凍死する危険と隣り合わせ。寒さの恐怖は長年の経験で知っているつもりだが、寒さとは積極的に戦うしか勝つ術はない。真夜中まで巨大な除雪車が家を揺らして走り回っていて、その背後には絶え間なく救急車のサイレン。寒さは不安を助長する。 1月13日 半藤一利が亡くなった。もう新刊が読めないと思うガックリ来る。もう人の死を悲しむような年ではないが、影響を受けた作家たちの死はやっぱりショックだ。この頃、過去に見た展覧会のことを強く思い出す。クレーに始まってピカソ、バスキア、横尾忠則、長谷川利行、井上有一、田中一光、セバスチャン・サルガド等々、その多くが芸術家たちの総決算のような大規模な展覧会がほとんどだ。今もその時のカタログを見直すし展覧会で受けた衝撃をまざまざと思いだすことができる。こんな思い出を身体の中に一杯詰め込んで消えていくのは幸せなことかもしれない。 1月14日 夜中まで家の前で除雪作業。ときどき稲光のする中で、重機がもたらす家の揺れで心乱され、なんだか落ち着かないが、幸い読んでいる本が面白くて助かった。山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社)は関東周辺に暮らす30代の平凡な女と男のありふれた恋を描いた物語。物語はプロローグとエピローグに仕掛けが施されている。どうやら連載中はこの仕掛けはなかったようで、単行本にする際に新たにこの両端の物語を付け加えたもののようだ。最初と最後を付け加えることで物語に厚みが増し、深く時間を意識させる構成に成功している。 1月15日 去年、耳にした言葉で最も印象に残っているのはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの「落ち着け、トランプ」という言葉。いわゆる本家どりで、自分を揶揄した言葉をそっくりトランプ本人につき返したもの。もう一つは三重県のある町の地域おこしポスターのコピー「誰が、鹿や」。これも秀逸だ。カモシカは誤解されているが鹿とは関係ない。ウシ科の動物だ。そのへんの誤解の核心を見事についたコピーで、ポスターの絵柄は大きくカモシカの顔面写真だ。町役場や町民が考えたにしてはちょっとあか抜けすぎているなあと思って調べたら、コピーを作ったのは名古屋大学の学生だった。去年はこの二つの言葉に大いに癒され、励まされた。ありがとう。 (あ)
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