Vol.111 02年10月12日号 週刊あんばい一本勝負 No.108


秋晴れの石井さんの田んぼ

 ずっと今週に入って雨模様のうっとうしい日々が続いていたのですが、週末に入ってようやくからりと晴れ上がりました。秋晴れの陽光の中に輝いている刈りいれの終わった田んぼはいつ見ても美しいと思います。春先の土起こし後の水が入った夕焼け田んぼの光景と匹敵します。年々、住宅地に囲まれて石井さんの田んぼも縮小する一方ですが、せめて私どもが生きている間は、このまま残ってほしいというのは単なるエゴでしょうか。

秋の田んぼ
 田んぼに囲まれ、緑や土の匂いのする場所で本を出し続けられる幸運も、そう長くは続かないのかもしれない、と思うのは限りなくさびしいものです。
(あ)

秋のDMと新聞広告による販促

 恒例の、といいますか春と秋の2回実施しているわが舎にとってもっとも大きな営業イベント「DMと新聞広告月間」が始まりました。ここ数ヶ月間に出た(出る)新刊を中心に、東北6県の地元紙、朝日新聞の各6県版に全3段の広告を出し、全国版の朝日や日経の1面38広告も打ちます。案内チラシも愛読者カードから1万通あまりをダイレクトメールで送ります。このための準備や広告料に数百万円かかるため年2回が限度なのですが、これまでの売上結果をみると平均200万円前後ですのでペイしているわけではありません。それでも続けているのは、ここでしか読者との直接のつながりがないからです。返ってくるDMには、これからの出版に参考になる提言や批判、問題点などもよく書き込まれています。赤字でもやるしかありません。
(あ)
東北6県に出る全3段広告

どなたでしたっけ?

 ラルートの取材で、古のみち・小安街道を探訪した折りのできごとをもう一つ。稲川町にある龍泉寺の住職は、わたしの高校時代の同級生です。高校卒業以来、会うことはなかったのですが、寺に伝わる「能恵姫伝説」の取材で住職と会っている鐙編集長の話しから、わたしの前の席に座っていた元気あふれる男がこの寺の住職らしいことを知っていました。むかしの道を教えてもらうために龍泉寺の玄関のベルをならしたら、出てきた住職はまさしく同級生でした。「37年前、高校で同級だった渡部です」と名乗ったら「どちらさまでしたっけ。おぼえがないのですが」。じっとわたしの頭をみながら言うので、同級生の話しはそこで打ちきりで本題へ。なんだか、故郷に戻った浦島太郎のような心境でした。
(七)

同級生が住職の龍泉寺

今週の花

 今週の花はシャロンケイトウ、カンガルーポー、赤いカーネーション、黄色いスプレーマム(スプレー菊のこと)。カンガルーポーは初めて見た時には驚きましたが、事務所ではもうお馴染みの花になってしまい何の感慨もありません。この4種類で目新しいものといえばシャロンケイトウです。他のケイトウは花壇に咲いているのが似合いますが、このシャロンケイトウは野原や川原に咲いているのが似合いそうだと考えていたら、「野ケイトウ」というタイプでした。個人的には、よく見かける「トサカケイトウ」にも、球形の「久留米ケイトウ」にも、いい印象がありません。トサカケイトウは色や形だけでなく毛の生え具合まで本物のトサカのようでブキミだと思いませんか?久留米ケイトウもどことなく生物を連想してしまいます。その点、こんなスマートなケイトウなら大歓迎です。すっかりこのシャロンケイトウが気に入ってしまいました。
(富)

No.108

調理場という戦場(朝日出版社)
斉須政雄

 「日本のフレンチレストランの最高峰」という触れ込みを信用していいのかどうか、食べたことのない私にはなんともいえないが、本書に写真入で登場する著者を見、この本を読む限り、そのコピーに偽りはなさそうだ。あのテレビに出てくる「鉄人何とか」というシェフたちの知性の欠片もない卑しそうな顔を見ると、とても料理を食べたいという気はうせるが、この本を読むと著者の経営する「コート・ドール」へ行ってぜひ食べてみたい、という気になる。「料理人とグルメだけがよむのはもったいない」と、この本を企画した糸井重里氏はコピーに書いているが、その言葉も説得力がある。たとえばこんな具合だ。「理屈じゃないフランスを自分の体内に埋め込みたかった」「実力が違えば平等ではないということは、当たり前でしょう? 何かを宿している人の仕事に対して、何も宿してない人が口出しできるはずがない」「ジャーナリストの誘惑からなるべく逃げてきたのも、一過性のものになりたくなかったから」「組織はマニュアルを作るから弱体化していく」……料理人らしからぬエスプリに富んだ言葉がちりばめられて、その風貌はどことなく元蕎麦「翁」の高橋名人に似ていなくもない。

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