Vol.201 04年7月10日 週刊あんばい一本勝負 No.197


三戸先生の授業参観

 小舎HPに「ケンジョウシャに訊きたい!」を連載している三戸先生の授業参観があり、カメラマンのK氏と一緒に行ってきました。「重度の障害を持つ中学教師」というレッテルをマスメディアに貼られ、少々堅苦しいイメージが先行していますが、実は本人は陽性、ダジャレ好き、好奇心の塊という好青年です。なかなかその実態がうまく伝わらないのがもどかしいところですが、授業では彼の教師としての才能と人間性が見事にドッキングしていて大変ショックを受けてきました。3年生相手の数学ではテーマは「50音を点字で表そう」。文字通り点字の規則性から数字と文字の関係を考えさせるもので、謎解きの面白さにこちらまでが夢中になってしまいました。最後に点字で自分の名前を書かせるのですが、「濁点はどうするの」と何人かの生徒から手が挙がりました。三戸君は「そんなこと気にしなくていい」と答えていましたが、私も疑問に思ったので授業後にその質問をすると「実は僕も知らないんです」とニヤリ。2時限目の1年生の数学。先日、校舎裏の土手から車椅子で転倒、左手首にひびが入ったことを枕にして、授業のテーマは「(土手に)フェンスを作ろう」。サブタイトルは「三戸先生を救え!」だ。学校にフェンスを作るとすれば何本の鉄骨材が必要になるかという計算の法則性を考える授業である。考えさせる間も「手首だけでなく僕の心にもひびが入った」とおどけると、すかさず生徒から「もう割れてんじゃないの」と茶々が入る。数学大嫌いの私にも答えはすぐにわかったが、いく通りもの答えの出し方があるので、答えよりも考えるプロセスに重点をおいていて最後まで目が離せないスリリングな授業だった。う〜ン、この若者、ただものではない、というのが正直な授業の印象だった。給食の時間は生徒と一緒にとっていたが、カメラマンがどこにいるのか探すほど存在感が薄れていたのも不思議な感動を覚えた。
(あ)
西中での授業風景

十四代のシェリー

 スペインで作られる独特の酒のひとつにシェリー酒があります。案外知られていないようですがこの酒は白ワインで、スペインの南部、アフリカのモロッコに近いアンダルシア地方のヘレス周辺だけで作られる地域限定酒です。同じ醸造方法でもここ以外で作られるのはシェリーと呼ぶことは出来ません。この点はフランスのコニャックやシャンパンと同じですね。この酒の特徴に「酒精強化」という醸造工程があります。簡単に言えば途中でブランデーを加え、独特の香りや味の白ワインを作るのです。日本では辛口で軽いフィノというタイプの「ティオ・ぺぺ」が有名で、食前酒として飲まれたりしますが、シェリーは10種類以上のタイプに分類される奥深い酒でもあります。

これが高木酒造のシェリータイプの酒
 このシェリータイプの酒を、山形県村山市にある高木酒造が作っているという噂は以前から聞いていました。高木酒造は有名な日本酒・十四代の蔵元です。一度飲んでみたいと思っていましたが、秋田では入手困難なためそのうち忘れていました。それがこの前飲みに行った山形市内の居酒屋で、唯一販売しているという酒屋さんを教えてもらうことが出来、翌日買いに行ってきました。居酒屋の主人は「シェリーらしくない甘い出来で、はたしてどうでしょうか」、と言っていましたが、封を切って驚きました。ドライなフィノタイプではなく、きわめて濃い赤色をした甘口のクリームというタイプに似た仕上がりです。味も結構なもので、よく日本酒のメーカがこのような酒を造ることが出来たと感心しました。どうもスペインのヘレスからシェリーづくりの職人を連れてきて醸造したようです。高木酒造では米焼酎も作っていて、その焼酎をシェリー樽で熟成させていると聞いたことがありますが、多分この擬似シェリーの樽を使っているのでしょう。日本酒のみにこだわらない、酒造りへの情熱の一端を垣間見たような気がしました。
(鐙)

今週の花

 今週の花は4種類。光沢のある赤いホウがトロピカルな雰囲気いっぱいの「アンスリウム」、カモミールのような「マトリカリア」、グラジオラスの「グリーンアイル」という種類、紫のパフのような柔らかい花が咲いているのは「アゲラタム」。
 アゲラタムはキク科の多年草です。別名は「オオカッコウアザミ」。この場合のカッコウは鳥の郭公ではなく、「カワミドリ」というシソ科の植物のこと。このカワミドリを乾燥させたものが「カッコウ」という漢方薬になります。アゲラタムの葉がカワミドリの葉ととてもよく似ていることから、名前がついたそうです。ちなみにアゲラタムは、ギリシャ語で「不老」を意味します。春から秋にかけて花が咲き続ける、花の色がずっと変わらない、などの理由で「年をとらない」とか「古くならない」という名前になったとのこと。
(富)

No.197

空中ブランコ(文藝春秋)
奥田英朗

 前に出た『イン・ザ・プール』と主人公が同じ連作なのだが、こうしたお笑い系の本が売れるのは、書かれている内容にシンパシーを持ち、笑うことで癒されたいと思う人が現代人には数多くいるということでもあるのだろう。『イン』のほうは水泳やケータイ中毒、おかしな病気に悩む現代人たちをうまく戯画化して、トンデモ精神科医・伊良部(明らかに阪神・伊良部をイメージしている)との掛け合いが絶妙で、そのかみ合わなさで難題を次々と克服していくという爆笑パターンである(水泳中毒の話は小生も身につまされた)。伊良部シリーズ2冊目の本書は、飛べなくなったサーカスのブランコ乗り、尖ったものに恐怖を持つヤクザ、破壊衝動に悩まされる大学の精神科医、球が投げられなくなったプロ野球選手、書けなくなったベストセラー女流作家を取り上げている。もうこのラインナップだけで内容が想像できるが、2作目のほうが1作目よりもはるかに物語のグレードは高くなっていて、とくに林真理子をイメージした「女流作家」は面白い。しかし、物語が面白くなれば、そのぶん主人公・伊良部の存在価値は薄れていく、という矛盾も内包しているのだが、主人公のように見えて伊良部は実は脇役、というのが本書の成功(売れた)の秘密かも(伊良部が登場しなくても物語が成立する)。

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