Vol.700 14年4月19日 週刊あんばい一本勝負 No.693


なんとなく、どことなく、緊張感のない、春ですねえ。

4月12日 丸々1日を使って古いアルバムを見なおす。自分のアルバムである。地元新聞社が使いたいというので何枚かの写真をセレクトしなければならなくなった。自分の過去を振り返るのは苦痛以外の何物でもない。カミさんや子供たちの若いころの写真にそれほど抵抗はないのだが、自分の写真となるともう駄目。拒絶反応がもろに出てしまう。もともと懐古趣味がまったくない。昔の話をされるのも嫌だし、写真を見るのもいや。過去を思い出すのさえいやなタイプだ。それがあろうことか丸一日、倉庫で埃をかぶっていたアルバムを引っ張り出し、1枚1枚を丁寧に見直さなければならなくなったのである。一夜明けた今も気分は暗いまま。どうしようもない。
 
4月13日 先週と同じ太平山・中岳。登山口はオーパスルート。天気は良かったが、とにかくなんだか疲れてしまった。朝、山に出発する直前、町内のドブ掃除日だったことに気がついた。まったくのノーマーク、いやはや町内の皆様にはお詫びするしかない。もう一つ、今日から新しくなったHPのトップ写真は、鹿児島市内にある西郷公園。庄内藩重臣の管実秀(すげさねひで)が藩の救済を西郷隆盛(背中の人)に頼んでいる会談の銅像です。これとまったく同じものが酒田市内にもあります。数年前、鹿児島に行った折(屋久島登山だったかな)、西郷の実家につくられた公園の桜がきれいだったので撮ったスナップです。

4月14日 新しい週がはじまった。新鮮な気持ちを持ったまま、なんとか1週間をつつがなく終わりたいものだ。胸に手を当てて、無事に時が過ぎますように、と祈った。今週はいろんな予定がある。水曜日は休みをもらって山行。木曜日は本荘出張とSシェフに来ていただいて妻の実家の伐採作業。大きなイベントがあり本販売もしなければならない。この間に細かな仕事の予定がちょこまかと入っている。車が1台しかないのが問題だが、何とかなるだろう。もう1台車を購入するとなれば、軽トラがほしい。電気自動車がなんぼのものじゃ、と最近は本心で思っている。軽トラがあれば下り坂人生のいろんな部分に曙光がさす。軽トラを乗り回す人生に、今はあこがれている。

4月15日 ひとり人員が増えれば仕事は楽になりそうなものだが逆だった。一から教えなければならないことが多く、その「教育」に思った以上時間がとられる。朝の小一時間、新聞を読んだり、ブログを書いたり、コーヒーを飲みながらゆったりできるサイコーの時間帯だったが、今は仕事の打ち合わせと、そのやり方(手順と方法)にたっぷり時間がとられてしまい、いつもの朝の余裕はどこかへ霧散してしまった。打ち合わせが終わると10時だ。来客や郵便、電話やメール処理でバタバタ。前日の仕事終わりに、翌日の打ち合わせをしておくのがベストなのはわかっている。翌日の仕事の段取りはたいがい夜の散歩のときにメモする習慣なのだ。新入舎員のおかげで何十年も続いてきた、わが日常のルーチンがいろんなところからほころび始めている。

4月16日 水曜日だが、本荘市にある八塩山に登ってきた。直登ルートだったのでけっこう疲れた。3時には事務所に戻ったのだが、案の定、仕事のほうも「山」になっていた。仕事はしないつもりだったが、その「山」を目の前にすると登りたくなった。これはもうどうしようもない。明後日からはじまる北前船フォーラムの販売ブース準備、鳥海山稲倉山荘オープンに伴う納品の準備、東京池袋ジュンク堂ではじまる「秋田八幡平ブックフェアー」の納品と、まとめて大きな納品が3つもまとまって入ってしまった。今週はほとんどこの準備で忙殺されそう。

4月17日 昨日に引き続いて今日も本荘行き。昨日は山遊びのズル休みだが、今日はシルバーカレッジの講師センセイ。自分の本もしっかり売ってくるから、りっぱなお仕事だ。実は昨日の八塩山がよほどきつかったのか、温泉の脱衣場に洗面道具とタオル一式を忘れてきてしまった。温泉は黄桜温泉「ゆらり」。ここは日帰り温泉では栗駒山荘と並んで好きな温泉だ。好きといっても泉質や温度、効能といったことには興味がない。もっぱら雰囲気で、建物や調度品が落ちついていて、全体にシンプルで清潔なところが好きな理由だ。カレッジの帰りに今日もここに寄り、忘れ物を取ってきた。いや、恥ずかしい。

4月18日 毎日好天続きで、これだけで気分がいい。一年中こんな陽気だったらいいのになあ。仕事のほうは「事務・販売」系から大きく方向転換、「編集」系に舵を切りつつある。毎日、新しい本のゲラが届き、それを校正、著者や印刷所に返してやる。あるいは新しい原稿を読み、チェックし、著者や印刷所に送り返す。この繰り返しの単調な日々。原稿が送られてきても本になるのは五分の一程度だ。年々ボツ比率は高くなっていく。1か月前に入社した新入社員は、県立大学で開催中の「北前船フォーラム」で本売り出張。売り子の力量が試される場だ。一冊でも多く売ってほしいが、あまり期待はしないようにしよう。なんとなく、どことなく、緊張感のない、う〜ん春ですねえ。
(あ)

No693

食彩の文学辞典
(講談社)
重金敦之

 食べることと読むことの愉しみを1冊で満足させてくれる。著者は1939年生まれ。朝日新聞社に入社、「週刊朝日」などで食文化や外食産業について執筆してきた人だ。幼児期に食べるものが十分になく「ひもじい思い」を体験した世代だ。そんな幼児体験が小説の中の食べ物について注目するようになった要因だという。文学作品は、食べることを書くことで人間の生き方を表現するケースが少なくない。でも他人の食の意好みをあげつらうようなことはしたくない。過剰な美食談義や思い込みの強い文学表現に対しては眉に唾付ける。それが著者の流儀のようだ。取り上げた小説の多様さにも驚く。谷崎潤一郎や開高健、池波正太郎といった食の定番作家はむろん、ごく最近の芥川賞や直木賞の若手受賞作家の作品にも大家たちと同等の紙幅を割いている。このへんの著者の柔軟性と目くばりの良さが本書の特徴だろう。かと思うと名著の誉れ高い丸谷才一の『食通知つたかぶり』の間違いをさりげなく指摘する。「目には青葉 山郭公 はつ松魚」を取り上げた「鰹」の項では、永井荷風や檀一雄といった大作家までもが「目に青葉……」と誤引用していることに首をかしげる。落語の「時そば」は、実は上方落語の「時うどん」の焼き直しだった、なんて知らなかったなあ。

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