Vol.776 15年10月17日 週刊あんばい一本勝負 No.768


いい靴を履けば、それだけで気分はいい

10月10日 連休も結局は休めない。天気も良くなさそうなので山行もやめ。自棄になっているわけではない。『秋田の村に、移住しました。』というコミックエッセイが今月末に出きてくる。その販促のためのチラシ制作や事前雑務を連休中に片してしまう必要が出てしまった。最近は本が出る前に書店や取次、読者やマスコミ関係者に入念に「刊行予告」を徹底するのが販売戦略の基本だ。ネット書店で事前予告を出すと結構な数の予約注文があがってくる。出てからでは遅い。老兵にはこの時代のスピードについていくのがやっとだ。人が休んでいるときに仕事をして、どうにかほかの人と同じ仕事量になる。情けないったらありゃしない。

10月11日 エバっているわけでも僻んでいるわけでもないが今日も仕事。外は雨。事務所は静寂に包まれ絶好の仕事日和。足裏の「たこ」は登山靴をはかない限り何の問題もない。痛風の兆候はどこへやら。体重過多をのぞけば何の問題もない。ちょっぴり不安なのは2か月以上、首周辺が時折かゆくなること。山で漆にかぶれたのかなと思っていたのだが、それにしては何時まで経ってもかゆみが止まらない。帯状疱疹の予兆とも考えたが、それにしては一向に「本体」の症状がやってこない。いずれにしても過労からくるストレスが原因の症状なのは確か。身体は疲労してくると、どこかに居場所を定め、危険信号を出す。そのシグナルなのかなあ。

10月12日 すごい雨。集中的に大量の水が空から落ちてきて気まぐれにピタリと止む。この繰り返し。昨夜で予定していた仕事はあらかた終了。今日はこんな天気だし思い切って外に出ることにした。車は新入社員が遊びに使っているので、電車でどこかに出かけよう。雨の中を事務所に閉じ込められていると、身体にカビがはえてきて精神衛生上もよくない。雨の中を歩き回るのはそう嫌いではない。それにしてもこの雨力(造語です)、傘が壊れないだろうか。

10月13日 「体育の日」だったのか、知らなかった。仙台まで出かけてきた。どこも人でいっぱいだった。行き帰りの電車で本が読めるだけでも遠出は「得した気分」。行きは吉野弘著『詩の一歩手前で』、帰りは駅ナカ書店で村上春樹『職業としての小説家』を買って読了。どちらも面白かった。アウトドアショップ店員さんと1時間以上デスカッションして、ようやく自分に合った登山靴を買うこともできた。駅前居酒屋で焼き鳥とおいしいバーニャカウダ(蒸し野菜)、文具屋さんをはしごして来年のカレンダーや手帳、本屋さんを3軒回って、夜11時ころに帰宅した。いろいろ散財したが、逆に言うと秋田ではほとんどお金を使うことのない日常を送っていることに気が付いた。仕事をしていると食材以外、ほとんど買い物はしないんだよね、年寄って。

10月14日 本荘市へ。明日は能代市だし週末は八幡平・焼山に行く予定。外に出るのは嫌いではないが、どうしても暴飲暴食のリスクを背負うことになる。増えた体重を減らすのに10日は掛かるから、出歩くのに抵抗がある。1.5キロの増減は誰にでもあること、といわれるが、私の場合はいきなり「2キロ増」がある。真剣にダイエットしても2週間元に戻らない。旅先で自己節制して空腹のまま自宅に帰ってくる、という子供でもできそうなことができない。そんな老人というのも不気味。

10月15日 「女川ポスター展」という本を書店で見かけて買ってきた。題名通り女川商店街のポスターを並べただけのもの。東日本大震災の河北新報社復興支援「今できることプロジェクト」の一環で制作されたものだ。仙台の広告クリエーター87名が女川町内の42の店舗のポスター200種類をボランティアで制作した作品集だ。焼鳥屋のオヤジが「ツイッター? やってないけど、つぶ焼くよ。」とつぶ焼きの串を持った写真は吹き出してしまったし、中華料理屋のお兄さんの「味に自信。オレ独身。」といったダジャレコピーが延々と続く。モデルはすべて女川の商店主自身。カメラマンやコピーライターはプロたちだが、あまりの力作ぞろいに脱力してしまった。次の仕事への意欲がわいてきた。

10月16日 おニューの登山靴を履いて散歩をしている。1年半前に軽くてかっこいいイタリア製の靴に買い替えたのだが、親指爪の内出血や魚の目(たこ)騒動など足のトラブルが絶えなかった。靴があっていないのだ。そこで少し重くて見栄えはごついが、大きくて頑丈な登山靴にまた買い替えてしまった。その試し履き散歩だ。重いので普通の道路は歩きにくいが、足への圧迫はない。岩や石の道では活躍してくれそうだ。靴は大事。ふだん履く靴と散歩用も同じ靴だ。出張も海外も同じ靴を履いていく。ミズノのウォーキングシューズだ。1年でソールを交換、2年で新しいものに履き替える。毎日の散歩だけで5キロ歩く。妥当な消耗期限だと思う。靴が足にフィットしていると散歩でも登山でもこれに勝る快感はない。いい靴と出会えれば、老後は幸せになれる、ナンチャッテ。
(あ)

No.768

GHQと戦った女沢田美喜
(新潮社)
青木冨美子

 女性ジャーナリストからみた一種の沢田美喜「礼賛本」だと思いながら手に取ったのだが、そうではなかった。そもそも書名が絶賛体制ズブズブなの誤解されてしまう。帯文も「進駐軍は、恥ずかしくないのですか?」とちょっと正義感丸出しで、うさん臭さまで感じてしまった私が悪いのか。悪い思い込みは外れた。いっけん礼賛本に見せているが、そう単純な本ではない。それが読み進めながら明らかになっていく。従来のエリザベスホーム開設までの物語はこれまで書かれた事実関係を踏まえて軽く触れられているだけ。ほとんど書かれることのなかった沢田と進駐軍の関係にフォーカスは絞られている。三菱・岩崎家は戦争に負ける前、巨大な家屋や土地を所有していたが進駐軍に接収される。この土地を取り戻すために果敢に進駐軍と戦ったのが沢田美喜だった。進駐軍が戦犯裁判の資料収集のための基地としたのが麹町の沢田邸だった。ここで沢田は進駐軍の将校ポール・ラッシュと出会う。そこに聖公会という宗教が重なりサンダースホーム設立の道が開けていく。なぜ沢田はボランティアのような事業を始めたのか。その謎を解くために本書は書かれたのだ。

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