Vol.856 17年5月6日 週刊あんばい一本勝負 No.848


鳥海山は遠かった

4月29日 義母の一周忌。朝一番の新幹線で帰るつもりが指定チケット売り切れ。どうにか午後の便に乗れたが、さすがGW。出張前から違和感のあった腰が一向に回復せず痛みが増すばかり。電車の中は耐えられたが法事の席ではたまらず退席。コルセットをつけることにした。デスクワークを続けてきたが、不思議と腰痛とは無縁だった。椅子だけはいいものを使ってきたから、と友人たちには自慢していたのだが、どうやらこの腰痛は「疲労性」ようだ。今年に入ってワーカーホリック状態が続いている。

4月30日 出張から帰ってくると事務所の階段にりっぱな手摺りが完成していた。手摺りは腰痛のために設置したわけではない。二か月ほど前、いつものシャチョー室宴会の折、酔った一人が鼻歌まじりで階段を下り、派手に転げ落ちた。そこで手摺りが必要ということなったもの。手摺りは「アベロード」と命名した。私の名前ではない。ずり落ちた本人の名前をとったもので、シャレて「アブロード」も考えたが、それでは本人の自覚を促さない。酔って鼻歌まじりに階段を下りたりしないよう、あえて本人の名前を付けて、広く世に知らしめたい。出張中だったので工事には立ち会えなかったが、一級建築士でもある「落ちた本人」が立ち会ってくれ、まずはひと安心。

5月1日 このところ「面白い本」と出合わない。新聞の新刊広告も時代物ばっかりで興味ひく話題作は皆無だ。それでも見栄で『サピエンス全史』上下巻は、苦行だったが下巻半分まで読み終わった。文庫本が出たので『火花』も読んだ。レヴェルの高い本だが荒っぽい。梶山季之『ルポ戦後縦断』は昭和30年代の事件や世相を斬りとったルポ。なかでも「皇太子妃スクープ」が抜群に面白かった。池澤夏樹『叡智の断片』はいわば引用句辞典のようなもの。

5月2日 腰の調子が良くない。行楽に出かける予定はない。寝ながら本でも読んでやり過ごすしかない。GW読書用にあつらえた本がようやく届いた。堀川恵子『永山則夫』、桐野夏生『夜の谷を行く』、多和田葉子『百年の散歩』……あれッ、3冊とも著者が女性だ。保険に高橋克彦のアテルイもの最新作『水壁』も確保。参考文献を見たらうちの『元慶の乱・私記』が一番にあげられていた。東北の歴史ものの本の参考文献にはほぼ確実にうちの本が参考文献に使われている。光栄だ。

5月3日 3連休とはいっても、こちらはいつもの通り、机の前に垂れ込めている。いつもと違うのは朝からBS・メジャー中継を見ながら仕事をしていること。やることはあっても肝心の印刷所も取次もお休み中なので、連絡したり、行動を起こしたりはできない。5日は恒例の祓川直登の鳥海山登山がある。この日に備えて体調を整えているのだが、腰痛は一向に良くなっていない。昨日は近所のいつもの整骨院でマッサージ、TVではヤンキースの田中が快調なピッチングを続けている。整骨院は午前中のみ。田中を見ているか、TVを消して整骨院か、迷うなあ。

5月4日 ケムシカジカという魚を食べた。と書くと嫌な顔をされそうだが、秋田では「すごえもん」というネーミングを持つ、男鹿のあたりで獲れる魚のこと。漁獲量が少なく、オコゼのようなグロテスクな魚顔で、市場に出回りにくいので貴重な魚だ。そういう事情なら「すごえもん」というネーミングの意味もよく分かる。正式名のケムシカジカでは誰もが二の足を踏む。この魚、いつか食べてみたいと思っていたが、昨日Sシェフがから揚げにして持ってきてくれた。さっそく初体験。これがなかなかの美味。ほとんど鱈のようだが、ほんのりフグを感じさせる弾力も舌に残る。くれぐれもネットで魚顔画像などを検索しないで食べるのが食べるコツだ。

5月5日 鳥海山祓川登山。残雪期の雪のしまった今しか登れないルートだ。ほとんどフラットなところのない急坂だけを4時間歩き続けなければならない。1年の山行でも1,2を争うきつい山。この日の出来で1年間の山行の体力や技術を占う大事な山でもある。去年は9合目手前で強風のためリタイア。これまでの戦績も4勝4敗か。七高山の山頂に立つのはなかなか私程度では難しい。天気はピーカン、無風で、山頂にも雲はない。今度こそ山頂にという気持ちは人一倍あったが、7合目の七ツ釜避難小屋で体力が続かないことがわかり、一人下山。悔しい、悲しい、もどかしい。腰痛もあったが決定的なのは体重が増えていること。ずっと身体が重く、腐れ雪が足にまとわりついて、まるで疲労を引きづって歩いているような感じ。リベンジは来年までお預け。待ってろよ鳥海山。
(あ)

No.848

帰郷
(集英社)
浅田次郎

 浅田次郎の小説は文句なしに面白い。でも本書は「ちょっと別」。と思えてしまうほどカバー写真のインパクトがすごい。出征していた外地から故郷に帰ってきた兵士とそれを迎える2人の子供が映ったモノクロ写真だ。なんだか、ただのエンターテインメント小説ではないのかも、というオーラを醸し出すリアルな写真だ。こんなに鮮明でリアルな日本兵士の帰還風景は初めて見た。それも道理、写真の撮影者は「米国国立公文書館」。日本人が撮れる写真ではない(当時のカメラの性能やカメラマンのレベルからいって)。テーマは戦争によって引き裂かれた男たちの運命を六本の物語に編んだもの。浅田得意の名もなき人々の矜持ある生を描いている。それも暗くて救いようのない傷を負った復員兵たちが主人公だから、さすがに笑って読み終える物語はない。それでも手練れの物語作家の力技。飽きさせることも、うんざりさせることもなく、物語の中にグイグイと読者を引き込んでいく。それにしてもカバー写真のインパクトが心に残り続ける。物語よりもこの一枚の写真が強烈だ、と言えば浅田は怒るだろうな。

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