Vol.853 17年4月15日 週刊あんばい一本勝負 No.845


週末は庄内に通って息抜きだ

4月8日 『沖縄うりずんの雨』というドキュメンタリーがおもしろかった。沖縄の差別の歴史をアメリカ側の映像資料や地元民の証言などで構成したもの。ナレーターは片言の日本語の外国人だったので、てっきり外国作品だと思っていたら製作はシグロの山上徹二郎。懐かしい名前だ。音楽も素晴らしかった。小室等と谷川賢作だ。雑誌はほとんど読まない主義だが『SWITCH』3月号が「ほぼ糸井重里」という特集を組んでいて面白かった。2冊分くらいの単行本を読んだ満足感。編集長の新井敏記は熱烈な糸井ファンで、その個人的趣味と情熱で、自らの雑誌の特集にまで昇華させてしまった。

4月9日 3週連続で早起き酒田行き。庄内の人たちが「庄内アルプス山脈」と呼ぶ日本海沿いに隆起した荒倉山登山。あのクラゲ水族館のあるあたりだ。先日登った八森、高館に連なる山で標高305m。あいにくの雨で階段は落ち葉でツルツル、急坂が多く汗をかいたせいで身体が芯から冷え切ってしまった。山を下りて7号線沿いの「大松庵」で蕎麦。温泉は湯野浜温泉まで出張って「龍の湯」。高級温泉旅館なのに日帰り温泉も630円でOKという珍しい旅館だ。すばらしい環境の温泉だったが、やはり山形の温泉は「ぬるい」。熱い湯が苦手な私が言うのだから間違いない。山形の温泉では身体の芯まで温まらず、いつも欲求不満になってしまう。

4月10日 朝9時に酒田のホテルを出て10時半事務所着。今週は10日(今日)「地域の食を守り育てる」、13日「蘆名騒動」、15日「山の神・鮭の大助譚・茂吉」と3冊の本が出来てくる。なのに週初めの月曜日に遅刻出勤。日曜日に帰っていれば問題ないのだが土曜日は町内会の初総会があった。町内会では調子に乗って酒まで飲んでしまい川反までフラフラ漕ぎ出してしまった。

4月11日 大量に作った餃子を毎日食べている。でも焼き方がヘタでパリッと仕上がらない。水で蒸す、その水の量が問題なのだろうか。自分で食べる分はカミさんはチンして熱してから食べていた。屈辱だ。そういえば先日、ふとしたことで川反にあるうなぎ屋へ。老舗の有名なうなぎ屋の支店だが、若者も入れる現代的なおしゃれなお店だ。うなぎの様々な部位の串焼きを注文、さらにうまきにうざく、最後にうな重まで食べ大満足。老舗には全く興味がなかったが、この若者向けうなぎ屋はいい。構えていないカジュアルさがサイコーだ。これからも通うことになりそうな予感。そういえばうなぎも餃子も焼き方が命。

4月12日 忙しいと企画が湧きだしてくる。じっくりとものを考えられないような環境になると逆に決まって面白いアイデアや新鮮な企画が閃くのは不思議だ。ここ数日、4本ぐらいの企画を思いついている。その下調べをしたり、関係者と電話連絡を取ったり、関連資料を読み込んだり。この段階で金銭的に不可能なことが判明したり、著者の承諾が得られなかったり、過去に類似本が出ていたりで、半分はボツ。でも、企画を思いつき可能性を探って前に進んでいるとき編集者のアドレナリンは出っ放しで快感だ。

4月13日 すさまじい風が吹き荒れている。2階の仕事場から見える電線が縄跳びのように揺れ動く。昨夜も何度か吠えるような風音で目が覚めた。山で一番怖いのは雨でも雪でも雷でもなく風だ。風が強くなると一歩も前に進めない。足下から吹き上がってくる風で身体がフワリと浮き上がる恐怖は体験したものにしかわからない。横風で登山道から谷側に振り落とされそうになったこともあった。冬の鳥海山と駒ヶ岳で「風の怖さ」を体験してから、平地の風も怖くなってしまった。本気を出せばちゃちな住宅の屋根ぐらい、いつでも吹き飛ばせるぜ。あの唸るような風音はそう叫んでいる。

4月14日 先日、精神科医と本の打ち合わせ。途中で検察から犯罪者の精神鑑定依頼が入り打ち合わせは中断。その後、雑談タイムになり、秋田の自殺率の高さや春に事件が多くなる原因などについて「驚くようなエピソード」の数々をレクチャーしてもらった。2日後、一緒に山に行ったこともある若い女性が先日、自殺していたことをSシェフから聞き、言葉を失った。うつ病だったらしいが、一度でも会話を交わした人の突然の死はショックだ。春先や晩秋に精神に障害を持った人の自殺や事件が多くなるのは、自然のバイオリズムと密接に関係があるそうだ。春先に妙にテンションが高くなったり、晩秋に深く落ち込んだりするのは、確かに自分にも当てはまる。ずっと社会的弱者のために役に立つようなことをしたいと思ってきた。でも現実はいつも自分にだけかまけ、自分を守ることに手いっぱい、身勝手な日々を重ねて今日まで生きて来た。情けない人生だ。
(あ)

No.845

紙の城
(講談社)
本城雅人

 著者は元産経新聞の記者。前作の『ミッドナイト・ジャーナル』が話題になったが、読んでいない。いや産経の記者だったことも知らないまま、いきなり本書を読み始めてしまった。IT企業が新聞社を買収する、というテーマに興味を持ったからだ。買収される「東洋新聞」の購読者数は200万とある。とすれば産経新聞そのものだが、モデルとなった新聞社のことを気にすることもなく読了してしまった。それほど物語自体が面白かったわけだが、やはり組織内部の動きにリアリティがある。産経新聞にいなければ書けなかった事実なのだろう。新聞社と敵対するIT企業にはホリエモンや孫正義らしき人物も登場する。こちらは逆にイメージの固定化を恐れてか、ディテールやその背後にいる黒幕を設定することで、登場人物のイメージにふくらみを持たせている。主人公はパソコン音痴の社会部デスク。「紙とペンの時代は終わった」と宣告された斜陽産業の記者だ。IT企業と徹底抗戦する記者たちの戦いにはリアリティと同時に感情移入しやすいポジションだ。読みながら、どこかで見た風景だな、という感じが抜けなかった。そうか、「文庫本X」のあのテレビマン・清水潔の世界とそっくりなのだ。まるで違う本が「記者魂」という位置でつながった。

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