Vol.850 17年3月25日 週刊あんばい一本勝負 No.842


駅構内の立ち食い蕎麦

3月18日 秋田市の卸売市場に行ってきた。正式な名称は秋田市農林部中央卸売市場で、青果、花卉、水産の3部門からなる。今日は月1回の市場開放日、ごった返していた。ふだんは特別な免許を持ってないと入れない場所だ。お目当ては生マグロとウナギのかば焼き。買い物上手のSシェフと一緒なので、迷ったり悩んだりだまされたりする心配のないのが心強い。思った以上に安くて新鮮で、そそられたのが青果部門。リンゴやダイコン、ショウガやニンニクをどっさり買ってしまった。食材の買い出しは「知識と経験」を持っている人と一緒だと楽しいが、知らずにはいると値段や大きさや口先でコロリとだまされてしまう。そういう意味では一人で行ってはいけないところだ。

3月19日 鳥海山を源流に持つ法体の滝をスノーシューで歩いてきた。秋田県では有名な天然記念物第一号の滝だが訪ねるのは初めて。青空と白い雪のなかに顔を出した滝は思っていたよりずっと小さく拍子抜け。同じく山形県側の鳥海山にある「一の滝」と「二の滝」はものすごい迫力で、ビックリした記憶がある。片道1時間のお散歩コースだったが、滝の目前で雪穴を掘りランチ。ひとっこ一人いない雪原で食べる「孤独なおかゆ」はおいしかった。

3月20日 ビールやハイボールといった冷たい飲み物を飲むと夜に胸焼けするようになった。ここ数年、ハイボールでウイスキーをよく飲むようになった。それに加えて数か月前からビールもよく飲むようになった。ビールは苦手だったのだがキリンの「クラッシック・ラガー」を飲み始めたら複雑な雑味があってはまってしまった。大手の日本のビールは加熱処理をしない生ビールが主力。このキリンのラガーは熱処理した生ではないビール。日本のビールの濾過処理能力は高度で、微細な細菌もフィルターで漉しとってしまう。そのため雑味もきれいに漉され、みんな同じような味になってしまう。

3月21日 近所で下水道の大掛かりな工事が続いている。地鳴りのような振動が続き仕事に集中できない。振動が静かになると上空から渡り鳥のグエグエ、ギャーギャーという「汚い」鳴き声。断末魔の叫び声にも似た耳障りな音だ。音に過剰に反応するのはストレスからだろう。そのストレスの原因をつくっているのは忙しさだ。13冊の本(2冊は増刷)のうち3月まで刊行できたのはやっと5冊。残り8冊が進行中。けっきょく全部の決着がつくのは5月GWあたりか。とてもそれまでは集中力が持たない。

3月22日 毎年毎年、自宅や事務所の改修工事を続けている。去年はかなり大掛かりな外壁全面補修。全面内装というのも数年前にやったし、屋根の塗装も10年にいっぺんはやっている。稼いだ金の大半をリフォームに費やしているような消耗感もあるが、自前の建物なので老朽化を座視できない。建物も自分の人生の一部である。今年こそ何もしないつもりと決めているのだが、床の損傷がはた目にもわかるほどひどい。どのくらいお金がかかるのか業者に相談しなければならないが、業者に声をかけた時点でもう作業はスタートする。慎重になって考えよう。床より階段に手摺りをつけるほうが緊急案件だ。

3月23日 調べものがあって図書館へ。3つほど調べものがあったのだが2つはすぐにわかった。最後のひとつがわからない。江戸末期に北東北を旅した江戸の落語家の紀行本を探していたのだが、その肝心の書名を思い出せない。「江戸」や「紀行文」「落語家」「秋田」とキーワードを入れてもヒットしない。あきらめて事務所に帰り郷土史研究家にメールで教えてもらった。船遊亭扇橋『奥のしおり』(アチックミウゼアム)。今日もその本を見るために再度図書館に足を運ぶ羽目になった。

3月24日 駅中に蕎麦屋ができた。本格的な手打ちではない。300円台で食べられる立ち食いそばだ。駅構内に立ち食い蕎麦屋ができただけで県内メディアは大きなニュースとしてとりあげている。立ち食い蕎麦屋がニュースになる県というのも珍しいが、蕎麦屋は観光地を除けばほとんどないのが秋田県。蕎麦を食べる食習が薄い地域なのだ。散歩の途中にその駅中蕎麦屋さんに寄って食べてみた。予想以上に美味しかった。まったく期待していなかったからかもしれない。今日はうどんを食べてみた。こっちは汁が辛すぎて関西の人が食べたら卒倒すること請け合い。あまりうまければ散歩の途中ヒンパンに寄り道してしまうから、このぐらいがいいのかも。
(あ)

No.842

ロマネ・コンティの里から
(中公文庫)
戸塚真弓

去年、ブルゴーニュを友人たちと旅してきた。ロマネ・コンティの畑を「見る」のも目的のひとつだったが、ロマネの畑といってもわずか1・8ヘクタール。できるワインは6千本余で、1本当たり最低100万円はするから、およそ6億の年商になる。15年前同じ場所を訪ねている。そのときは収穫後の落ちたロマネのブドウを拾って食べることも可能だったが、もう畑に入ること自体が厳禁になっていた。旅の目的のもう一つ。仲間の2人(料理や主人と弁護士)が、クロ・ド・ヴィジョの城で開かれる「利き酒騎士の会」の晩餐会に出席する。その晩餐会に私たちもオブザーバーとして同席を許されたのだ。ブルゴーニュのワイン宣伝大使の任命式で、フランスでも最も有名な豪華な晩餐会だ。もちろん我々もブラックタイ着用、豪勢な食事をしながら一晩中大騒ぎしてきた。ほとんど夢のような一夜だった。本書を読んでいたら、この晩餐会の光景が詳細に書いていた。晩餐会のメニューまで載っていたのには驚いた。著者は裕福なフランス人と結婚し、パリ以外にもこのブルゴーニュに別荘を持ち、ロマネ・コンティの経営者らとも親しい日本人女性だ。こんな日本人もいる。ワインは金持ちでなければ論じるのは不可能な世界なのだ。

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