Vol.846 17年2月25日 週刊あんばい一本勝負 No.838


胃が痛くなるような日々が続いてます

2月18日 入稿ラッシュも一段落。新しく入るものはもう当分ないはず。年明けからずっとバタバタしていて、ここにきてちょっと気が抜けたような「ふぬけ状態」。とはいっても毎日のように印刷所や著者からゲラが返ってくる。10本の本が同時に進行しているから気が緩むと、どこかにかならずミスが出る。ふぬけになりながらも緊張がとけない。思い切って2泊3日ぐらいで温泉にでも行こうかと考えたが、家で本を読んでるのが一番、といつもの結論に落ち着いてしまう。温泉場で風呂に入り、おいしいお料理を食べ、ほろ酔い機嫌でぐっすり眠る……家でも毎日やってることじゃん。生まれて一度も体験したことのない新鮮な世界が待っているかもと期待させるような経験でなければ、もう年寄りのインセンティブは働かない。だいたいのことは行かなくても想像できる年になった。

2月19日 スノーハイクは五城目町・高岳山。これで「たかおかやま」と読む。近くに高岡集落なる地名があるので、ここから名付けられたものだろうか。なにせここは戦国時代に三浦五郎盛季の城のあった歴史上でも貴重な意味を持つ場所でもある。見どころも多く夏場には何度か来ているのだがスノーハイクは初めて。最初から40分間、うむを言わせぬ急峻な登り、それが山頂まで続く。あとはダラダラ、アップダウンを繰り返しながら浦城横を通り元の場所に戻ってくる2時間半。雪がしまってツボ足でも大丈夫そうだったが、途中からカンジキを履いたらウソのように歩きやすくなった。胸上のかゆみもいつの間にか消えた。帯状疱疹というのは過剰な杞憂だった。

2月20日 月曜日の朝は会議。会議と縁のない会社なのだが、新入社員とのコミュニケーションのため必要と判断、この1年欠かさず続けている。こちらが一方的にしゃべって終わるミーティングだが、準備などがけっこう面倒くさい。週末は会議用レヂメをつくる。その場で思いついたことを言うと近視眼的な会議になり、話題が説教臭くなってしまう。数カ月先の日程や、この1か月の予定、今週の仕事の課題と優先順位から今日やるべきこと……を主に話し合う。新入社員のほうからは今週の支払い報告や金融関係の数字の細かな報告がある。時間にすれば10分から1時間までさまざま。今週からは春のDM通信の準備に入り、3月初めに新刊が4本出る。てんやわやだが、こうした時だからこそミーティングが大きな意味を持つ。今週は緊張を強いられる日々になりそうだ。

2月21日 ようやくカミさんが夕食復帰。ずっと芝居の稽古で不在だったので、一人夕食だった。1カ月ぶりだが自分一人で食べるご飯よりはおいしいから不思議だ。3日ほど前、最後の一人夕食は豪華にすき焼きでもと張り切った。ところが砂糖の代わりに大量の塩を入れてしまった。それでも「ちょっと塩っ気が効きすぎかな」くらいの感じで肉を食べ続けた。肉を3分の1ほど食べ終わったころ、あまりの辛さに吐き気を覚えた。そこで初めて塩と砂糖を間違えたことに気が付き鍋ごと捨てた。一人で料理をすると緊張感がない。誰かに食べてもらうというインセンティブがないと料理はうまくならない。

2月22日 新入舎員は青森にある組版の会社へ研修に。いろんなことを自分でやらなければならなくなった。でも注文発送も伝票の書き方も梱包も発送も3年近く自分ではやっていない。もうやり方をすっかり忘れてしまった。昔は全部できたが、今は何もできない。仕事を任せることで早く技術を習得してもらおう、という戦術が裏目に出てしまった。もう一度一から事務処理を覚え直そうか。新入舎員が病気で寝込んだり、不意の事故や、出張などの時のためにも必要だ。でも、やりだすとあれこれ細かなことまで自分でやるようになり、口まで出しそうで、それも怖い。これからの自分の仕事は「後方支援」に徹するべき。とすればやっぱりサポートとして事務能力は持っていたほうがいい……思い千々に乱れるばかり。

2月23日 火事で燃えているアスクルから年2回送られてくる巨大カタログが届いた。タイミングがいいのか悪いのか。うちはヘヴィーとはいえないがけっこう利用している。いつもはまともに見ることのなかった巨大カタログを、今回だけは指に唾をつけ、1ページずつ丁寧に最後までめくった。全1272ページ。しかしまあこれだけの商品をよく管理維持しているものだ。これが燃えているのか。驚いたのは「デジカメ」のページ。2ページほどに10台内外のカメラがコンパクトに商品紹介。その少なさに驚いたが、少ないのにはワケがあった。アスクルはお遊びや玩具の通販ではない。カメラも建設現場などで使う「業務用」なのだ。防水、耐震、防塵を完備しているカメラのみなのだ。これは山で写真を撮る私個人の用途とも合致するから欲しいものばかり。ビッグカメラに行っても数だけが並んでいて選べない。さすがアスクル、すごい。

2月24日 3月しょっぱなに4本の新刊ができてくる。その日が近づくにつれ緊張で胃が痛くなってきた。同じ時期に春DMの印刷発送が重なっているからなおさらだ。新刊が出ると広告を打たなければならない。マスコミ対策も必要だ。書店や取次への配送準備も大変なのだが、今回の新刊にはサンパウロ在住の方の本もある。航空便と船便で地球の反対側まで200冊近い本を送る手続きもある。毎日、その日の仕事の優先順位をミーティングし、併せて月末の資金繰りの算段も。忙しいのは幸せなことだが、こうもいろんなことが重なると「不幸」の味のほうが勝ってしまう。早く胃の痛みから開放されたい。
(あ)

No.838

原節子の真実
(新潮社)
石井妙子

原節子は私の「同時代人」ではない。小津の映画で初めて知った存在にしか過ぎない。引退して世間から姿を消した経緯も知らないし、その後の暮らしぶりにも興味はない。それでももやはり、この時代の「美しさ」は同時代人でない私から見ても女優として一頭地を抜いている。こんな人がなぜ一切世間と絶縁しようと決めたのか、その心の裡は一人の男性として興味がある。本書は私のように絶頂期や引き際をリアルタイムとして知らない人にもわかりやすく書かれている。原節子はどこにでもいる頭のいい、本好きな、内気な少女だったそうだ。映画に出るきっかけは姉の嫁いだ義兄が、熊谷久虎という映画監督だったことによる。この人物こそが「本書のキーマン」である。原節子を生み育て、その後の生き方までを決めたのが義兄の存在だった、というのは新事実だ。だから死ぬまで住み続けた場所は、この熊谷の家族と同じ敷地で、熊谷の家族たちの庇護によって、やさしく守られるように原はその場所で残りの半生を終えているのだ。こうした生き方を決めたのは、良くも悪くも熊谷久虎という存在だった。マスメディアによってつく「つくられた神話」のほとんどは本書を読めばまさに作り話であったことが判明する。現役時代から原は都内に複数の土地を買い老後に備えていたという。

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