Vol.842 17年1月28日 週刊あんばい一本勝負 No.834


八戸に市営の書店ができたそうな

1月21日 年末に大先輩でもあった岩波ブックセンターの柴田信さん(86歳)が亡くなった。そのことでバタバタしてスルーしてしまったのが八戸市の「八戸ブックセンター」という市が運営する書店のこと。ずっと気になっていたのだが、なんとか来週には時間ができそうなので取材に行くことにした。年末にオープンしたこのブックセンターは、こともあろうに税金で赤字を補てんしながら(最初から年間4千万円ほどの赤字を覚悟している)維持運営する市営書店である。市長の選挙公約でもでもあるらしいのだが毎年4000万円の赤字負担に行政は何年もちこたえられるのだろうか。市長が代われば書店も消えるのか。本で町おこしなんて可能なのだろうか。表現の自由と税金の関係は……と確認したいことは山ほど。とにかく行って自分の目でみてくるしかない。

1月22日 飛行場横の中央公園をスノーハイキング。平坦な道ばかりで楽勝のつもりだったが積雪が思った以上に濡れ雪で、重い。足がパンパンに張ってしまった。地元教養大(中央公園の隣にキャンパスがある)のH女子も参加。彼女は年寄りたちに交じって何度も一緒に山を登った若者だが、それも今日で終わり。就職で秋田を去ることになったのだ。就職先は飛ぶ鳥を落とす勢いのリゾート開発企業。リゾートの勉強をしたいわけではなく、いずれ機会があれ自分でば田舎で民宿でもやりたい、という変わり種だ。へらへらしたところのない意志の強そうな女性だ。

1月23日 ベッドに入ったのは8時前だから11時間近く熟睡。これだけ長時間寝ていられるのだから、まだまだ捨てたものではない。トイレには2回起きたが、あとは何も覚えていない。昨日の中央公園のスノーハイクはけっこうきつかったので、その疲労だ。でもそれ以上に誤算だったのがウエアー。ユニクロの「インナーになるダウン」を着用したのだが、これが暑すぎ。蒸れて汗がダウンに溜まって不快。アウトドア用衣料がどれも高額なのは「活動時に汗の吸収や速乾をどうするか」という難問に特化した対策がとられているからだ。このインナーダウンはアウトドアでは使えない。

1月24日 友人と会う時、あらかじめおしゃべりする要点をメモしてから会いに行く。その場で個人名や固有名詞が出てこないからだ。「ほら例の、あの話題の、あれ、なんとかっていう、あれ、だよ」というシュールな会話予防策である。もう一つ。若い人が起業して頑張っているのを見ると無性に応援したくなる。そのため欲しくもないモノや作品を買ってしまうのだが、「後々まで大切にしたい」ものにはほとんど当たらない。未熟さやヘタさは我慢できるが、実は応援された若者当人もさして喜んでもいないケースも少なくない、ということに気が付いた。昔、自分も「就職しない生き方」を選んだ。そのときの孤立感や焦燥感がわかるだけについつい「余計なこと」をしてしまう。

1月25日 福岡の葦書房の元社長で名著『逝きし世の面影』(渡辺京二)などを世に出した三原浩良さんが亡くなった。享年79。去年、自伝である『昭和の子』を上梓したばかり。同じ時代を地方の編集者として生きた「同志」だが三原さんの前歴は毎日新聞記者。水俣の取材などを通して退職し葦書房の経営に携わることになった。同じ日、元学習院大学教授だったフランス文学の佐伯隆幸さんの訃報も。こちらは76歳。直接お目にかかったことはないが劇団黒テントの創立メンバー。三原さんと佐伯さんに直接の関係はないが、どちらも晶文社の名編集長・津野海太郎さんの盟友。こうして私のひと世代上の方々が次々と鬼籍に入っていく。

1月26日 八戸はいつ行っても不便。駅から繁華街が離れすぎていてホテルをどうするか、悩みの種。今回は三沢市に移動しなければならなかったが、こちらもアクセスが悪い。寺山修司記念館を見たかったのだが八戸から行って帰ってくるだけで1万円の交通費がかかってしまった。八戸の中心街から三沢空港まではバス1400円。空港から記念館までは公共交通機関がないのでタクシー往復5000円。帰りは三沢駅までタクシー(1760円)。八戸駅から電車570円で、八戸駅について中心街のホテルまでタクシー2000円。マジッスカ。寺山修司記念館に地元の人はほとんど関心がなく行くのは県外客ばかりだそうだ。タクシーの運ちゃん曰く、「空港から記念館まで長い道路をつくれるから政治家が遠くに作ったんだよ」。

1月27日 八戸から仙台に移動。3時間ほど市内を歩いて久しぶりの都会の雑踏を満喫。青空と雪のない街の景色が新鮮だ。午後からは東京へ。夕方6時から元弓立社のMさんと待ち合わせ。たった一人で吉本隆明さんの本を出し続けた伝説の編集者だ。弓立社はもう後輩に譲ったが、今も個人で吉本さんの全集や対談集、インタビュー集などを企画し仕事を続けている尊敬する先輩だ。先日亡くなった学習院教授の佐伯隆幸さんとは大学の同級生で訃報がだいぶショックだったようだ。神保町を3軒ハシゴ。次はいつ会えるかわからない。
(あ)

No.834

抱きしめられたい。
(株ほぼ日)
糸井重里

 「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載しているブログを、社員がその1年分の印象に残った文言(フレーズ)を抜き出して編集、再構成したものだ。毎年1冊が出て今年で10冊目。小生は10冊すべてを購入して読んでいる。糸井重里は「われらが同世代の生んだ尊敬できる詩人」という評価が私にはあるからだ。テレビに出たり、派手な芸能界と交流が盛んで誤解されやすい人だが、その発せられる文言とじっくり向き合えば、この人が「言葉の類まれなる達人」であることがよくわかる。この10年の活動を集成した本シリーズには、その彼の才能あふれるエッセンスが込められている。10冊目の本書がいつものシリーズ本とちょっと違うのは、2015年7月11日に亡くなった任天堂の岩田社長へのオマージュにかなりの紙枚を使っている事だ。よほどショックだったことがうかがえる。吉本隆明さんの死に関しても冷静な対応をとった同じ人とは思えない、動揺が文章から読み取れる。そんな沈痛な思いあふれる文章のなかでホッとしたのは、妻である樋口可南子さんに「来生も一緒にいたい?」と訊いた時のことだ。女優は即座に「一飛びあとでね」と答えたそうだ。樋口可南子ってすごいね。まあこういうことをスラリとブログに書いてしまえる著者の力量もすごいのだけど。

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