Vol.840 17年1月14日 週刊あんばい一本勝負 No.832


「春に散る」を一気読み。

1月7日 バンコク最終日。チェックアウトして集合場所のペニンシュラへ。ここで荷物を預け、リバーサイド周辺で昼食、買い物、足つぼマッサージ。移動は水上タクシー。夕食を食べているときに気が付いた。私だけ帰りの飛行機の出発時刻がみんな(関空組)より1時間早かった。どう急いでも2時間前に飛行場に到着は無理だ。焦りまくったがマイクロバスの運転手が急いでくれたおかげで出発1時間半前に空港着。間一髪深夜便に乗ることができた。なんだか今回は出発から帰国までミスばかりだ。猛省である。機内では深夜にもかかわらず一睡もせず「ブリジット・ジョーンズ」と「マダム・フローレンス」の映画2本立て。コーフンしていたせいか一睡もせず。

1月8日 羽田着は朝の時半。トイレで夏用の衣服を防寒冬用衣類に着替える。新幹線のなかは熟睡。東京も秋田も青空だ。秋田にも雪はほとんどない。旅装を解いて(洗濯物を出して)、事務所で残務整理。猛烈に眠くなる。食欲もない。夜8時には就眠。寝床に入って旅行が終わったことと実感。身体だけは正直だ。

1月9日 体重計に乗ると行く前と同じ数字。辛いタイ料理が良かったのかもしれない。タクシーや水上バスばかりで歩いていなかったから不安だったが、まずは一安心。今日は旗日だが普通通り仕事。今月は新刊原稿が5本ぐらい入る予定だ。ヒマよりは忙しいほうがいい。タイとの時差は2時間。今のところは何の問題はないが少し不安でもある。何らかの身体上の変化はあるかもしれない。雪のない1月は楽だが明日あたりから雪になりそうだ。

1月10日 実質的に今日が仕事始め。朝から気合が入っている。今月は新原稿の入稿が続き、忙しくなるのは目に見えている。同時にしばらく新刊がなかったため資金繰りに四苦八苦しそう。そういえば昔こんな資金繰りの綱渡りをよくやっていた。銀行とはもう親しくなりたくないが、いつ何かあるかもしれない環境に身を置くと、彼らの甘い誘惑に身も心もゆだねそうになる。現役で仕事を続ける限り資金繰りと無縁になることはないのかもしれない。

1月11日 昨日は2本の入稿と著者との打ち合わせ。文字通り「仕事始め」にふさわしい一日だった。このスタートは吉と出るのか凶と出るか。往々にしてスタートが良すぎると後半は失速する。とにかく今年のスタートはちょっと異常だ。一年に作る本の半分以上がまとまってこの時期に入ってくる事態だ。何もないときは数か月何もないのに、来るときはこんなふうにまとまって入ってくる。時の運というやつだ。今年もまたこの「時の運」の背中に乗って計算の出来ない旅をすることになる。

1月12日 猛烈な寒波。タイミングを合わせたように石油タンクが燃料切れ。我が家はひとつのタンクで家と事務所兼用だ。ストーブなしの一夜を過ごし、ひさしぶりにあの震災の日を思い出した。寒いので8時半には寝床に入り沢木耕太郎『春に散る』(朝日新聞出版)。けっきょく2時過ぎまでかかって上巻読了。新聞連載小説をまとめたものだ。主人公は高倉健を想定して書いたものなのだろうか。沢木と高倉は頻繁に会っていた。年末には石井妙子『原節子の真実』(新潮社)を半分読んで、その後の展開が読めたので読むのをやめてしまった。これ以上おもしろくならないなという「見切り」をしたのだ。これがけっこう外れるケースが多い。でも無限に時間があるわけではない。

1月13日 外が猛烈に荒れていると逆に外に出たくなる。偏屈というかアマノジャクな性癖だ。吹雪や大雨や台風はけっこう好きなのだ。昨日も吹雪の中、駅前に出て喫茶店で沢木耕太郎『春に散る』下巻を4時間で読了。面白かったがあまりに劇画チックな内容に戸惑いも。高倉健を主役にした映画の構想を小説化したもの(あくまで私の想像だが)だとすれば、これもしょうがないのかもしれない。喫茶店は集中して何かをするときには有効な空間だ。堅い木の椅子に4時間座り続けるのはしんどいが、家で横になってリラックスしながらの読書は途中で確実に寝てしまう。
(あ)

No.832

奇跡の醤
(祥伝社)
竹内早希子

 私の住む秋田県は被害が少なかったが、同じ東北の人間として東日本大震災関連の書籍には複雑な思いがある。うまく言えないのだが微妙な抵抗感が、読者としても編集者としてもあるのだ。 竹内早希子著『奇跡の醤』(祥伝社)もそうした震災本のひとつだ。でも震災本と言い切ってしまうのは何かが違う。その「何か」は本書を読んでもらうしかないのだが、プロの作家ではない著者と、その取材者(被災者)の間にある距離感に、その答えがありそうだ。
本書は、津波で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市で200年以上の歴史を持つ老舗醤油蔵、八木澤商店が舞台だ。津波で醤油の命である杉桶や「もろみ」を失い、誰もが「終わった」と思った企業が、若い社長や社員、地域の人たちの奮闘で復活する再生の物語だ。何度か繰りかえされる印象的な文言がある。「200年以上続いている企業の数は日本が世界一」。その企業には醤油や味噌、酒や酢など微生物の力で農産物を発酵させる商品が多いのが特徴だ。地元のお百姓さんが収穫した農産物を加工し商品をつくる。農業を大切にし、地域の輪の中で生きてきた旦那衆が継続させてきた地場産業だ。
若き経営者・河野通洋とその家族、社員と地域の人々が直面する困難と著者は微妙な距離感を保ち、物語を感動的な悲話や奇跡を生むドラマに安易に仕立てない。登場人物たちと伴走するように苦闘や喜怒哀楽と静かに寄り添っている。

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