Vol.843 17年2月4日 週刊あんばい一本勝負 No.835


久しぶりの長時間集中労働でグッタリ

1月28日 都会の青空や春のような陽気もうらやましいが、やっぱり秋田に帰ってきたときの、この身に斬りこんでくるような「冷気」がたまらない。この地で60年以上生きてきた身体が自然に気持ちよさを喜んでいる。八戸から仙台、東京と移動中、2冊の本を読んだ。どちらの本も「あたり」。1冊目は永野健二『バブル―日本迷走の原点』。日経記者によるルポだが、難しい経済用語をパスしながら読んでも十分面白い。2冊目は二宮敦人『最後の秘境ー東京藝大』。著者は若い小説家だが、奥さんが現役藝大生というところがミソだ。こんなルポの仕方(手法)があったか、と目から鱗。夫婦共作といっていいノンフィクションで、なんだか奥さんにお会いたくなった。

1月29日 今日は太平山中岳。最初から中岳に登るのではなく前岳まで行って調子が良ければ中岳まで、という情けない作戦だ。予想外に山は好天で無風。暑い。フリースを着たのは失敗。半端ないほど汗をかいた。前岳に着いたら2、3名の先人が中岳への踏み跡を残していた。ここでツボ足からカンジキに履き替え、中岳を目指すことに。でも中岳はきつい。何度も急斜度で立ち往生。踏み跡のない斜面がいかに足に負担をかけるか、登った人でないとわからない。ヘロヘロの状態でようやく山頂に。けっきょく3時間40分かかったから、夏山の鳥海山なみのハードワークだ。下山後に入った温泉(ザ・ブーン)では何度か足に痙攣。こんなハードな山は年に2,3回で勘弁してほしいものだ。

1月30日 朝から不快な電話。古本屋で買った艶笑譚に不明な言葉がある。意味を教えてほしいという。ヒマ老人の単なる嫌がらせかとおもったが一応丁寧に応対。調べればどんな辞書にでも出ている一般的な言葉ですよ、と優しく諭したのだが、意味を教えてほしいの1点張り。宮城県から電話しているというこの御仁、そんなに辞書を引くのが面倒なのか。本は買わないくせに電話代は惜しくないのか。それにしても古書店や図書館で読んだと言って、本の内容に質問してくる人がここ数年急増している。疑問があれば調べればいい。そうした常識が通用しない世の中になってしまったのだろうか。読書が日常でなく非日常になったことにその要因があるのかもしれない。本の未来は危うい。

1月31日 もう1月も終わり。今年は例年と違うスタートを切った。1月だけで10点の新刊原稿を抱える「異常事態」なのである。これが全部本になるまでは2,3か月かかるが、その間にも何点か原稿は入るだろうから、このペースだと月3点近い本を、前半期だけで出していく計算だ。恐ろしい。1年で10点前後の刊行点数が常態なのに、今年はそのノルマをわずか3ヶ月で消化してしまうのだ。いったい何がどうしてこんなことになったのか、自分たちもよくわからない。「常態」ではなく「異常」というスタンスで先を見ていくしかないが、出版依頼はある日突然パタリと止まる。3か月間なんの音沙汰もなくなったりする。いまは仕事があるだけでもありがたいとおもって、いい本を作ることに専念したい。

2月1日 2月になった。ようやく助走が終わり本格的な2017年がスタート、という感じ。いつもと変ったのは自動車のローンが去年暮れで終わったこと。ハイブリッドのフィットに乗っているのだが、かれこれ5年以上の長期ローンで、やっと自分のものになったわけだ。次は何に乗ろうか。でも当分は今のままだな。散歩途中にあるニッサンのデーラーでは毎日電気自動車の給電風景を見ている。こちらが思っているよりずっと電気自動車は普及している。ハイブリッドの時もそうだったが、電気自動車も何かのきっかけで一気に普及する可能性がある。所得水準の低い秋田で爆発的にプリウスが普及したのは燃費のランニングコストのせいだ。環境的な配慮とかはまったく関係ない、とあるデーラーから聞いたことがある。電気自動車も結局は「得か損か」で決まっていくのだろう。でもニッサンの矢沢永吉を使ったCMは大嫌い。

2月2日 夜中12時過ぎまで仕事。こんなことはめったにない。ある原稿に手を入れていたのだが思った以上に手直しが多く、半分まで終わったところで次の日になっていた。今日残りの半分を夕飯前に仕上げてしまうつもり。最近の傾向として原稿にはあまり手を入れない。手を入れれば格段に内容が良くなる、と判断した場合は例外もある。昨日はそのケースだが、手を入れないと、とても世の中に出せないというケースもある。いずれにしても手を入れるのは半端ない労力を要する。人様の文章を偉そうに直すのは著者のためばかりではない。このまま世に出ると無明舎の評判が落ちてしまう、と判断した場合も同様だ。これもけっこう厄介な作業でへとへとに疲れる。もう年なので編集者の負担が大きい仕事は勘弁してほしいが、おまんまを食べていくというのは甘くない。

2月3日 丸2日間、原稿の手直しに取られてしまった。ひとつの原稿と16時間近く向きあったのだが、さすがに終わった時はフラフラ。頭がボーっとして何もする気が起きなかった。昨夜は5時半からSシェフのシャチュー室料理教室。直前に原稿チェックをどうにか終えたが、身体がだるく手伝うこともできずソファーで横になっていた。飲み始めると徐々に調子が出た。手作り餃子をぱくつき、とり鍋や手羽先焼きに舌鼓を打つうちに身体は元の状態に戻っていた。こんつめて仕事をしたことなどここ数年ない。その弊害がでてしまった。もう集中長時間労働は無理。後継者が早く育ってくれないかなあ。
(あ)

No.835

おもしろ秋田むかし考
(無明舎出版)
富樫泰時

 七座山登山帰りに鷹巣町の「伊勢堂岱遺跡」を見学してきた。縄文後期の環状列石が4つも出土した遺跡で、前から見たかったものだ。現場は埋め戻されて立ち入り禁止だったが資料館『縄文館』がオープンしていた。数日後、秋田市高清水にある秋田城跡歴史資料館へも行ってきた。縄文から奈良・平安の時代まで秋田にはシカもイノシシもいたことが両館で確認できた。ずっと江戸期の秋田に興味が集中していたが、ここにきて「秋田の古代」に興味が移ってきた。文献がほとんどないため想像力で補わなければならない時代に対しての魅力だ。本書を手に取ったのもそうした理由からだ。自舎の本なので仕事上何度か読んでいるが、純粋に自分個人の「趣味」から読むとまた違った感慨がある。青森の三内丸山遺跡の大発見によって秋田の縄文遺跡の影は薄いが、なかなかどうして、ちゃんと見ていくと日本的な規模で誇っていい発掘も少なくない。本書を読むとそのことがよくわかる。北海道と北東北は縄文遺跡の宝庫だ。この地域の遺跡群を世界遺産に、という運動もあるほどだ。世界4大文明といわれるものはそのほとんどが流域での農業を基軸にして文明を支えたものだが、北の縄文遺跡群は農業とは無縁で狩猟、漁労、採取によって栄えたもの。これだけでも世界遺産の価値は十分にある。

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