Vol.848 17年3月11日 週刊あんばい一本勝負 No.840


風邪を撃退、繁忙真っただ中

3月4日 昨日まで春の予感がする陽気だったが今日はまた冬に逆戻り。陰湿な雪が降り続いている。風邪との戦いはどうやら「負けず」に推移しつつある。自分でも信じられないが市販の薬と栄養剤で徹底抗戦。いやまだ油断はできない。明日あたりどっと熱や寒気が出たりする可能性だってある。そんなわけで今日予定していた山行は取りやめ。河辺にある「一の沢山」だったが、ゆっくり一日休養に。とはいっても二つの印刷所からゲラが3本返ってくる。そのチェックをしなければならない。

3月5日 山行のない日曜日は朝から青空。県南地区で開催されている「雪よせ世界大会」というイベントを見学に。「雪よせはスポーツだ」というのがコンセプトで面白い発想だ。スコップもスノーダンプも貸し出し可能だが「有料」だそうだ。横幅3メートル幅の雪を制限時間(90分)内に何メートル雪よせ可能かを競うゲームだ。ネットでは「屋根の雪下し」をダイエット・パフォーマンスとして推奨するものもある。午後からは町内会の新班長さんの顔合わせ会。今年は役員(副会長)になる年、何かと忙しくなりそうだ。

3月6日 ヒマなときはずっと「忙しくなってくれないかなあ」とため息をついていた。いざ忙しくなると「こんな人生もう嫌ッ」とだっだっ子みたいにグチばかり。忙しくなると24時間緊張感というかストレスが持続してしまう。本が出来てくる前後というのはいろんな重圧がある。ひと月に5本も6本も新刊ができてくると息を抜ける時間が無くなる。若いころはこういう緊張感もいい刺激になって逆に酒がうまかったりもした。でも今はもうダメ。唯一、ストレスが解消できて、未来が輝き、身体に活力がみなぎるのは「刺激的な新しい原稿」が入ってきたとき。う〜んダメだこりゃ。

3月7日 いつも朝一番で日記を書くのだが、今日は何だかずっとダメ。ダラダラ本を読んだり、散歩したり、買い物に出たりで時間をつぶす。夕ご飯を食べてようやくパソコンに向かった。が頭の中は真っ白で何も書くことがない。立て続けに『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか』(武田徹)と『紙の城』(本城雅人)を読了。予想以上にどちらも読みごたえがあった。前者は、書名はスキャンダラスだが中身は至って真面目。ネット時代のメディア戦争について書かれている。『紙の城』はネット会社に乗っ取られた新聞社の攻防を描いた小説だ。これも勉強になった。知らないことを知るために小説は役に立つ。

3月8日 本が完成するまでは何度も校正作業をする。大丈夫と思っても必ず刊行後に校正ミスは発見される。誤字誤植はなくせない。本文ではなく「付き物」といわれる表紙や扉や奥付で肝心の書名そのものを誤植してしまうケースもたまにある。これまでも2、3度、書名を間違えたまま世の中に出てしまった本がある。来月出る予定の『探究の人 菅江真澄』という本も「探究」を「探求」と誤植のまま表紙を組み上げてしまった。今日、著者からの指摘で命拾いした。本文は必死でもカバーや広告の書名までは誰も熱心に見ないから、こうしたミスが起きる。

3月9日 しばらく山にも酒場にも行っていない。遠出もない。夜はもっぱら読書と録画しておいた映画やTV番組。TVで面白いのは「グレートレース」。砂漠やアルプスの山中、熱帯のジャングルを何日もかけて走り回るやつだ。これが一番ワクワクドキドキする。映画はなかなかこれというものに出あえない。本もこのところ不作。村上春樹の『騎士団長殺し』は、アマゾンでは珍しく翌日配達にならなかったから売れているのだろう。騒ぎが治まってからゆっくり読むつもり。積読(つんどく)から選んだ『赦す人』があたりだった。団鬼六の生涯を描いた本。彼のSM作品は読んだことがないが、なんとも魅力的な人物で好感が持てる。しばらくは積読本を読みながら時間をつぶす日々になりそうだ。

3月10日 昼はもうずっとリンゴと寒天のランチだが、真冬のリンゴはまずくないの? とよく訊かれる。これがうまいのだ。ヘタをするとシーズンの秋の旬のリンゴよりうまかったりするから、世の中面白い。スーパーで5、6個一梱包で売られている小さな「サンふじ」という秋田産の品種で、値段は1個100円ちょっと。甘みもあるし酸味も抑えられている。冬のリンゴは旨いと断言してもいい。リンゴと寒天のランチを始めて5年以上たつ。いまだに飽きが来ないのだから、我ながらすごいと思う。寒天はもともと好きだったから問題ないが、リンゴのオールシーズンの「うまさ」は予想外だった。ここに救われた感が強い。夏はけっこう味的には厳しくはなるが贅沢は言わない。もう少し待てば旬のリンゴが食べられる。なにもかも農業の技術革新のおかげだ。このランチが長く続いているのは近所にラーメン屋やチェーン店の美味い店が皆無というのもある。近所にうまい定食屋や蕎麦屋があれば、多分もうリンゴと寒天なんて、とっくに捨てていたのは間違いない。
(あ)

No.840

後妻業
(文春文庫)
黒川博行

複数の男性を青酸カリで毒殺し、8億円ともいわれる財産を相続した筧千佐子の事件は、生々しくショッキングで、いまも記憶に新しい。が、本書はあの事件の「前」に出た本である。まるで筧の犯罪を先取りし、そっくり再現してみせた本と話題になった。本書を読むと、大阪では以前から結婚相談所と組んだこの手の「後妻業」は当たり前のようにあった「職業」のようだ。結婚相談所がミソなのである。ここに目をつけた著者の着眼点はさすがというしかない。それにしてもテンポのある極道たちの大阪弁はスルスルと東北人にも入ってくる。もしかすれば本書は黒川作品の背景をなすノワールの最高傑作かもしれない。筧の事件が世間を騒がせたとき、すぐにこの本を読もうと思ったが、やめた。本よりも事件のほうがリアルだったら小説家に対する失望が大きくなるからだ。時間がたった今読むと、やはり作家の想像力というのはすさまじい。黒幕というか共犯者の結婚相談所所長の元ヤクザ・柏木がよく描かれているから不気味な後妻・佐夜子のキャラクターを引き立っている。主役よりも脇役のちょっとしたリアリティが物語に厚みと深みをもたらしているのだ。誰にもまねのできないアップテンポの歯切れのいい極道の大阪弁は不滅だ。この人が高校の元美術教師というのだから、人間はわからない。ひさしぶりに小説の楽しさを満喫した。

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