Vol.873 17年9月2日 週刊あんばい一本勝負 No.865


長靴・サンダル・仙北道

8月26日 うまい書名だ。『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社)だ。宝くじの当選者のことだけを書いた本ではない。23篇の「末路に行き当たった人」の「事例」を当事者や関係者に直接インタビューした「まじめな本」だ。「友だちゼロ」「家を買わない」「自分探し」「留学に逃げる」「キラキラネーム」「禁煙しない」「体が硬い」といった人たちの例を挙げ、その末路を真面目にインタビューしている。目次構成だけを見ても記者(日経BP社員)の力量を感じる。米プロバスケNBAを引退したスターの6割は5年以内に破産しているのだそうだ。宝くじが当たった結果、固定費があがってかえって貧困化する事例も挙げられている。お掃除ロボットを開発したのが日本でなくアメリカだったのは意外だが、これには理由があり「ロボットが仏壇のろうそくを倒して火災になるリスクがあるため」日本メーカーはあえて商品化しなかったのだそうだ。めったに起こらない幸運を待ちわびたり、めったに起こらない不運を恐れるのはやめようね、と著者は結んでいる。

8月27日 朝3時起き。東成瀬まで1時間半だが、途中で大曲の花火の帰宅ラッシュと出くわすと危ない。不安だったが朝4時の道路は静かなものだった。7時に登山道(林道終点・姥懐)を出発。延々と歩いて登って下って9つの徒渉と2つの山頂を踏み8時間、旧胆沢町(奥州市)の大寒沢林道終点にゴールした。通称「仙北道」は2回目の踏破だが、この1か月間のエアロビ・トレーニングの成果かバテることはなかった。マイクロバスで東成瀬村に戻り、打ち上げ。宿は横手のホテルだったので頃合いで切り上げチェックイン。小腹が空いていたので「居酒屋日本海」でマコちゃんの「テキトー定食」。ヒロシさんもみえて、ついついビールをお代わり。楽しい一日だった。

8月28日 横手のホテルをチェックアウト。再び東成瀬に向かおうと思ったら、車のエンジンがかからない。バッテリーが上がっていた。車内ランプをつけたまま駐車していた。ホテルに助けを求めると、「できません」と断られた。若い研修中のホテルマンだった。横手でよく泊まるホテルなので、この対応は納得がいかない。急きょ昨日飲んだ「居酒屋日本海」の主人マコちゃんにきてもらい、バッテリーを充填。マコちゃんは居酒屋店主兼魚屋なので朝早くても大丈夫なのだ。東成瀬村で何人かの重要な人の取材があったので、ほんとに助かった。マコちゃんありがとう。村では教育長にインタビュー後、ジュネス栗駒にある「パークゴルフ場」へ。小中学生のゴルフ大会を取材。英会話教師のイタン君にバッタリ。この村にはユニークで面白くて不思議なフツーの人がいっぱいいて興味尽きない。帰途、十文字の「紅玉」で惣菜を買っていたら、野菜を納入しに来た東成瀬村の杉山彰さんとばったり。

8月29日 山行の時、登る前はいつもサンダル履き。登山口で履き替える。もうこのサンダルとは20年以上の付き合いだ。オール革製で当時は1万7千円もした。1700円は安い、と間違えて買ったものなのだが、とにかく丈夫で履きやすい。問題は泊り登山の時、仕事用の靴も持っていくので宿で履き替える時、そのまま忘れてしまうのだ。昨日も横手のホテルに忘れてしまった。すぐに電話をすると「ない」といわれた。客が帰ったあともう一度ベッドの下などを確認してもらうことにした。今朝ホテルから、清掃員が他の場所に移していた、すみませんと電話。小生にとっては宝物のサンダルだ。すぐに宅配をお願いした。宿にサンダルを忘れたのは、この10年で6回目ほどか。形が崩れ、泥と汗がしみこみ、くたびれ果てたサンダルといつお別れするか、この頃真剣に考えるようになった。旅先でなくしてしまうのは悔やまれる。

8月30日 新聞の切り抜きをするのが日課だが、今日は朝日も地元紙も切り抜きが多く新聞がスカスカになった。関心のある記事や仕事上必要な記事が重なって押し寄せてきた感じ。地元紙はコラムから社説、地域から教育まで、ほぼ「学力テスト」一辺倒だ。テスト問題まで丸々3面ぶっとうしで掲載。朝日は「北朝鮮のミサイル日本通過」が一面だが、県版は「創世記の甲子園物語」でのんきなもの。全国版には子供に関する面白い記事が二つあった。オピニオン紙面で「子供のためって、どうなの?」という識者のインタビューを3本載せ、投稿欄では「学校での排便問題」を特集。ほかに寿司の全国チェーン(秋田にはない)が酢飯の代わりに糖質オフの野菜を使った寿司やラーメンを始めた、という記事も時代を反映していて面白い。先日の大雨の被害状況もまとまって記事になっていた。

8月31日 山用のスパイク長靴を新調。先日の仙北道踏破で9カ所ほど徒渉したが、ガンガン水が入ってきた。もう10年も履いているので限界だ。雪国の山登りをする人たちは登山靴よりスパイク長靴を履くのが冬は一般的。必需品なのだが石井スポーツで買うと2万円もする。ベクトランという防弾チョッキにも使われる新素材を使った「岩礁75」は特に人気が高く、開発したのは秋田の「みどり商事」の佐々木英夫さんという方。営林局勤務時代にチェンソー事故防止のために開発したもので、これが全国の林業関係者の間で大ヒット。山関係者も真似て使うようになった。チェンソーの刃もはね返す強靭な長靴だ。佐々木さんの会社は手形にある。昨日訪ねてお話を伺いながら譲っていただいた。靴には「ミツウマ」の表記があるが、これは佐々木さんが製造委託している会社名で、商品のほとんどは佐々木さんの会社から全国津々浦々に直接卸される。

9月1日 今日から9月。うちの決算月なので会社的には今日が正月のようなもの。そんな時期なので気分を一新するために衣替えした。ちょっと早いが半袖をしまい長袖を出すと、気持ちはしゃんとする。半袖だとちょっと寒いが、長袖だと散歩では汗まみれ。そのへんの調整がむずかしい。9月10月の2か月間、個人的には取材している東成瀬のルポ原稿を目いっぱい書く予定だ。負担になるスケジュール(山行や飲み会)は極力何も入れない。怖いのはケガや病気だ。この年になると明日何があるかわからない。朝の食卓では「○○さんが緑内障」とか「××さんががんらしい」といった話題ばかり。いつ自分が話題の主人公になってもおかしくない。
(あ)

No.865

あたらしい無職
(タバブックス)
丹野未雪

 最近よくある「若者の無職」という深刻な社会問題を扱った本ではない。女性フリーライターの仕事日記である。その半分は失業中の体験だから書名に間違いはない。出版の未来についていろいろ考えさせられる問題提起を多く含んだ本だ。書名の「あたらしい」は「無職の形態」だ。著者は能力もあり仕事をしようと思えば、エディターとして間違いなく引く手あまたの人材だ。でも納得のいく仕事がしたい。中途半端な仕事で自分の時間を奪われるのは我慢できない。職場のいい加減さに腹をたて、ストレスをためて、やめてしまう。そんなことで落ち込むぐらいなら、いっそ無職のほうがいい。と考えるタイプの人なのだ。出版業界の抱えている潜在的な問題や不透明な未来も、彼女の「無職」日記の合間から透けて見える。フリーエディターが今の出版界で長く雇用される経済的環境が出版界にはない。版元のタバブックスも初めて聞く名前だ。目録をみると以前『はたらかないで、たらふく食べたい』という本を買ったことがあった。途中でやめてしまったが、「仕事」をテーマにした本を出す出版社だったのか。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.869 8月5日号  ●vol.870 8月12日号  ●vol.871 8月19日号  ●vol.872 8月26日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ