Vol.869 17年8月5日 週刊あんばい一本勝負 No.861


味噌が好き

7月29日 朝からDVD。昼からビールを飲んだり、朝好きなだけ寝ていたり、といったことは自制しているのだが、その禁を破ってしまった。映画はオーストラリア内陸西部からインド洋の見える町まで3000キロを、若い女性がラクダ4頭と愛犬を連れて徒歩で旅をする『奇跡の2000マイル』(この邦題も最悪。原題は「トラックス」)。たいした事件は起きないのだが、砂漠とラクダと若い女性のロード・ムービーというは、もうそれだけで自分的にはOKだ。毎日32キロ、それを7カ月間も砂漠で歩き続けると人間の容姿はまるで変わる。でも映画はあまりそのことにはこだわらない。かつらや化粧でリアリティを担保する方法はあるだろうが、「7カ月」というのは微妙な時間でもある。

7月30日 フィットネス・ジムに通っているので山行は減った。山に行く機会はあるのだが欲求がついていかない。夏はそれでなくとも汗ばっかりかいて、山に水を運んでいるようなもの。空いた土日は取材ノートの整理に充てると決めている。取材したノートや集めた資料を項目ごとにワープロに打ち込んでいく作業で、原稿を書くとき、このデータを切ったり張ったりしながら文章をつくっていく。一度取材の終わったことを文章整理するだけだから新鮮味はないし単純だし不備ばかり目につく。そのため昨日も今日も仕事はほとんど進捗なし。

7月31日 さてさて月曜日。7月も今日で終わり。やることはいっぱい。クーラーのきいた仕事場で熱いコーヒーをすすりながら、この朝のひと時だけは、ゆったり、のんびり。これから8月のお盆まで、予期せぬ人の訪問があったり、家族関連の行事が目白押し。仕事は一段落しているのだが、やることがなくなることはない。今日は第2倉庫の草刈り(1m以上の草が生えている)で、新入社員だけでは対応できず、急きょSシェフに応援を頼んだ。昨日は日曜日だが、町内会の「敬老者名簿」の作成。その確認作業に半日取られた。近所のご老人(昭和18年生まれからだそうだ)のなかには施設に入所されて不在の方もいる。そうした人の所在をひとつひとつ親族の方に確認し、生年月日を照合していく。もうすぐ自分が探される立場になると思えば、町内会の仕事とはいえ、思わず探索にも力が入ってしまった。

8月1日 暑い日が続いている。ジム以外はほとんど外に出ず、冷房の効いた仕事場にこもっている。快適だが、居心地がいいと逆に仕事ははかどらない。なんとかの法則のようなもので、これはかなり汎用性のある事実だ。とくに原稿書きは時間がたっぷりあり環境も整うとやる気は失せてしまう。忙しく動き回り、時間も場所も確保できず、やむなく便所に逃げ込んで、トレペにメモ書きのつもりで文章を書いたらスラスラ、という世界だ。原稿依頼するとよく「忙しくて無理」と断られる。「いや、忙しい時しか長い文章なんか書けないですよ。チャンスです」などとたきつける。そのくせ自分自身のこととなると途端にその法則性もあやしげになる。

8月2日 かなりバタバタ、コミイッタ予定でいっぱい。夜は3連続で飲み会が続く。こんな時に限って、新聞スクラップの整理だとか、フローリングのモップかけとか、夏服の処分とか、昔の取材ノートの整理とか、今やらなくても的なことを無性にやりたくなる。1日がスケジュールで埋まると、その隙間に別の用事を入れ込むのは貧乏性が根っこにある行動だ。忙しい日々が過ぎ去り、余裕とヒマが訪れると、もうそんな些末な用事はいっさいやりたくないし、頭の中からも消えてしまう。今月はじっくり腰を据えてやる明確な「目標」がある。ひとつはエアロビがうまくなること。もう一つは取材中のルポの資料整理をちゃんと完成させること。目標があればゴールは身近だ。

8月3日 週3回のエアロビクスと取材ノートづくり(今度書く本のための)と、2本柱のリズムがだいぶ身についてきた。このままずっとこのペースで夏場を乗り切りたい。ちょっと不満なのは読書の時間がめっきり減ったこと。村上春樹の「騎士団長」はほこりをかぶったままだし、今年の直木賞『月の満ち欠け』は事前に賞をとりそうだったので買っておいたが、まだ読めないまま。最近読んで面白かったのはコンビニで買った『まんがでわかるサピエンス全史の読み方』(宝島)。本体の『サピエンス全史』を読んでいるのが前提の企画だから、この本はそんなにポピュラーだったのかと驚いて購入したものだ。本体はけっこう読みにくいし難しい本だ。若い人はこれをすんなり読破できるのだろうか。人類進化のミステリーを漫画で読み解く、という企画はそれだけでも面白い。。

8月4日 二日酔いの朝や、山でヘトヘトになった時、無性に味噌がほしくなる。昨夜も「和食みなみ」でウイスキーのハイボールを、もろきゅう用の味噌をナメながら呑んだ。調味料を練り込んだ味味噌だったが、味噌って洋酒にも合うんですよ、これが。そのせいか今日は二日酔い。食欲はなかったので自分でジャガイモの味噌汁をつくった。お代わりして、もうそれだけで満足、昼はエアロビで汗を流し、塩分補給のためまた味噌をなめている。味噌汁の具ではジャガイモが圧倒的に好き。料理研究家の土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』という本は革新的でビックリしたが、「一汁」というのは具たくさんの味噌汁のこと。卵まで入れてしまうもので、近いうちこれはやってみようと本気で思っている。
(あ)

No.861

寂しい生活
(東洋経済新報社)
稲垣えみ子

 東日本大震災の原発事故を機に「節電」を始めた著者が、便利に慣れ切った自分がどこまで不便に耐えられるか、自分自身を実験台に、深刻ぶらず前向きに実践した、本書は「冒険記」である。あえて「冒険」という言葉を使ったが、その言葉に値する日常生活の記録だと思う。アマノジャクで東日本大震災に関する本をほとんど読んでいない。自分の出版社でも「よほどの事情がない限り」出版はしないと決めている。便乗商法に嫌悪感があり、被災者に失礼という思いも強くある。本書は震災本ではないが、内容は限りなく震災・原発本といっていい。静かに一人で始めた節電生活が、掃除機、レンジ、エアコン、冷蔵庫と捨て続けるうち、いつのまにか電気代150円の暮らしに辿りつく。そしてはては朝日新聞記者までやめてしまう。著者の姿を現役記者時代に何度かTVで見た。アフロヘア―の名物女性記者だ。その記者がはじめた「節電生活」は、なんだか仕事がらみの「やらせ実験台」のようで信用できなかった。それが、記者までやめる選択=冒険に踏み切ったことで本気だったことに驚いた。夏の蚊がおこす羽根の風を、涼しいと感じる著者の感性がうらやましい。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.865 7月8日号  ●vol.866 7月15日号  ●vol.867 7月22日号  ●vol.868 7月29日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ