Vol.874 17年9月9日 週刊あんばい一本勝負 No.866


まるごと東成瀬村だッ

9月2日 東成瀬の村を歩いていたらヘンなボックスカーと遭遇。真っ赤に塗りつぶされた派手なワンボックスカーで車体腹には「こまちゃん号」のかわいらしい文字。車に近づいて一周してみるが何の車かわからない。ドライバーが下りてきて後部ドアを開けると、中にはシンプルなカウンターがしつらえてあり、若い制服姿の受付嬢がいるではないか。銀行だったのである。お金の預貯金や払い出しができるJAバンクの移動金融車だった。高齢者や山間部の不便な場所に住んでいる人のため銀行も移動しながら営業する。いろんな商用車を見てきたが移動銀行まであるとは。

9月3日 今年も青森の印刷所(製版)から嶽キミ(トウモロコシ)到着。大量なのでSシェフやA長老におすそわけ。味の評判も上々で「今年はうまいねぇ」と賛辞をいただいた。嶽キミよりもさらにおいしい品種の改良が進んでいて、「来年はもっとおいしいキミを送りますよ」と印刷所も自信満々だ。小生、大のトウモロコシ好き。これにナスガッコがあれば何もいらない。ナスガッコもSシェフが定期的に丸ナスの漬物を届けてくれる。最近これらとともにモッツァレラチーズが食卓の常連だ。トマトとあえて塩コショウ、オリーブオイルで食す。ワインのツマミにはアボガドもいい。スライスしてわさび醤油で食べる。アボガドは1個100円ぐらい。この値段で中トロの味がたっぷり堪能できる。

9月4日 東成瀬村で驚いたこと、その2。道路をそれ田畑のある場所に移動したら突然、目の前にワインレッド色の大きなトンビが現れた。田畑のいろんなところでトンビが飛んでいる。鳥などの害獣除け案山子(凧)だった。「去年あたりから爆発的に増えた」と村人は言うのだが、最初見た時は本物と間違えてびっくり。風に舞う凧はトンビそのものだ。もともと「トンビ凧」は東京大田区六郷の郷土玩具。その昔(大正時代)は海外にまで輸出されていたほど人気のある「凧」だったが第2次世界大戦で途絶えた。昭和50年代終わりに蘇ったのだが、まさか「案山子凧」として平成の東北の田んぼでヒットしていたとは大田区民も知らないのではないだろうか。

9月5日 東成瀬村で驚いたこと、その3。国道342号は村を貫く大動脈。この1本の道が村の政治経済文化の中心で、集落はすべてこの道路脇にかたまっている。信号はほとんどない。この342号の増田寄りの数少ない信号機での出来事だ。一人の小学高学年の少女が信号待ち。青になり信号を渡ると、くるりときびすを返し、私に一礼、対向車にも一礼して何事もなかったように走り去った。一瞬の出来事で何が起きたのか混乱した。いや、かっこいいなぁ、と素直に感動した。てらいも義務もない、少女のごく自然なふるまいが強烈だった。ドライバーにアメやモノを配って交通安全もいいが、こんな子供の一挙手一投足こそ人のおごりやゴーマンを戒める。こんな光景、めったにであえませんよ、ご同輩。

9月6日 東成瀬で驚いたこと最終回。村の道路沿いに一軒だけ蕎麦屋さんがある。古くから営業している店で、昼時に行くとコーヒーを飲む人たちもいて、けっこう混んでいる。地元の人というよりは村外や、他所から働きに来ている人が多いようだ。ここでひとりランチ。何気なしに壁に目をやると見慣れた女性が額装されて飾ってあった。目を凝らしてみると店主と一緒に写っているのはカミさんではないか。それも最近の写真だ。礼儀なので「うちのカミさんです」と打ち明けたら「ABS時代からのファンなので撮らしてもらった」とのこと。家に帰ってそのことを話すと、カミさんは「展示するなんて聞いていない」と、憮然としてからケラケラ笑いだして、また行こうかしら、とまんざらでもなさそうだ。

9月7日 東成瀬番外編。本を書くために読む「資料用読書」は苦痛以外の何物でもない。このところ東成瀬用の資料(史料)ばかり読んでいるのだが、漫画家・矢口高雄の本は例外だ。今は『蛍雪時代』(全5巻)に夢中だ。漫画だから面白いわけではない。作品の中に驚くべき新発見を何か所もみつけた。先日登った「仙北道」に関する歴史的な事実もその一つ。幕末の伊勢参りについても触れていて、これも郷土資料では見つけることのできない事実がさり気なく描かれていた。昭和20年代の西成瀬村の中学時代を描いた自伝的作品だが、郷土資料を何十冊読むよりタメになる。こんな資料なら何百冊でもOKなのだが。

9月8日 発売前の漫画をネットで掲載したとして秋田市の男女と、なぜか沖縄の男が逮捕。漫画は「ワンピース」で、「ネタバレ速報」なるサイトで発売前の漫画を載せていたという。アクセス数は1カ月で200万回以上、3億円以上の荒稼ぎだ。事件を捜査したのが熊本県警と鳥取県警で、なんとも現代的な広域犯罪だ。秋田にも頭のいい犯罪者がいるものだと感心したのだが、報道をよく読むと、秋田男は国内の同様のサイトから画像をコピーし、文字を消すなど加工し、セリフや内容を文章で添付していただけのようだ。これじゃあ単純な二次盗作の著作権違反にすぎない。いくらネット社会と言え、秋田でマンガ雑誌を発売前に入手することは困難だ。それに著作権や出版権に関して無知すぎる。それにしても沖縄とメール連絡を取りながら犯罪が成立する時代になったことには、なんだか老人はため息をつくばかりだ。
(あ)

No.866

雲奔る――小説・雲井龍雄
(文春文庫)
藤沢周平

 夜は藤沢周平の本を読んで暑気払い。というか読むものがなくなったら常備本から藤沢の本を引っ張り出す。暑くても寒くても藤沢周平はいい。その藤沢の時代物でも細かなジャンルがある(私が勝手に色分けしているだけだが)。実はエンタメ系時代小説はあまり得手ではない。江戸期に米沢藩や荘内藩で起きた本当の事件や人物、史実にスポットを当てた実録物が好みである。たとえば清川八郎を描いた『回天の門』、雲井龍雄の短い生涯を描いた『雲奔る』、庄内の百姓たちの「国替え騒動」の『義民が駆ける』、上杉鷹山の『漆の実のみのる国』といった本だ。その実録ものにも微妙に2タイプある。本書のように幕末の探索(スパイ)方を描いたものは資料記録がほとんどない。ないと人物を描くのが難しい。いきおい藤沢の筆はもっぱら時代背景に移って詳細を極めていく。だから退屈になる傾向がある。『義民が駆ける』と比べて読むとその落差は歴然だ。それにしても藤沢の本を読むたび、もし秋田に藤沢周平がいたらと思う。秋田藩士・戸沢小十郎が大活躍する時代小説を描き続けた花家圭太郎(角館出身)の早逝が悼まれる。

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