Vol.892 18年1月20日 週刊あんばい一本勝負 No.884


受賞式も終わって

1月13日 ベストセラーは、どうしても読みたければアマゾンのユーズドで安くなった頃を見計らい買う。基本的にベストセラーにあまり興味はない。『高倉健――七つの顔を隠し続けた男』(講談社)は去年の本だが最後まで迷いアマゾンで安くなっていたのを確認、昨日買うことに決めた。「注文する」をクリックするとほぼ同時に、うちの本の注文メールも入った。注文主の名前は「高倉健?」。いや嘘だろう。高倉健の本を注文したら高倉健から返事が来た。「健」の後にもう一字あって当然別人だが、でもすごいよね、こんな偶然。

1月14日 この季節は日本酒だ。酒の銘柄は酒店Aさんにおまかせ。先日、そのA酒店から見慣れない日本酒が。いつもの県内の蔵とは違う「磐城 壽 アカガネ」という山形のお酒だ。これがうまかったので追加注文。しかし、この酒名のネーミングのセンスのなさは味と反比例してチョーダサくないか。裏書を読んでも名前の由来はよくわからない。「アカガネ」は日本人に親しまれてきた金属・銅にあやかったというが、酒に金属の名前を付けるセンスはいかがなものか。長くて覚えづらいし語感が硬い。でもうまい。このうまさの前にはすべてを許してやりたくなる。

1月15日 昨夜読み終わった塩田武士著『騙し絵の牙』(kADOKAWA)も微妙な書名。大手出版社の雑誌編集者の奮闘を描いた小説で「出版業界もの」としては出色の出来。カバーから本文扉にまで写真集さながらに「主人公に扮した」俳優・大泉洋が人物モデルとして登場する。主人公は大泉のような男、と強要されているようで読者の想像力を著しくなえさせる。頭脳明晰、健康的で明るく、物分かりのいいやり手雑誌編集長が廃刊寸前の雑誌をめぐって社の上層部や作家、部下たちと攻防を繰り広げる。エピローグまで書名の意味は分からない。最後に大どんでん返しがあり、タイトルの意味が明かされる。この書名も賛否あるところだろう。

1月15日 午後出舎。このところ面白い本に当たり続けていて、遅くまで寝床の中で夢中で読書。寝不足と身体の冷えでちょっと体調を崩してしまった。風邪云々までひどくはないのだが少し体がだるい。2本の新聞原稿も昨日書き上げて油断があったのかも。2本の新刊(『大平山000日』『秋田市にはクマがいる。』)も入稿して、後は刷り上がりを待つばかり。こんな状況で精神的なゆるみがあったのは間違いない。

1月16日 九州の福岡県警サイバー犯罪課から電話。「お宅のHP内にウイルスのURLが検知された」とのこと。HPを管理してもらっている弟にすぐに連絡すると、やはり「ファイルの一部が書き換えられている」ことが判明。すぐに修復した。

1月17日 今日から東京。梓会出版文化賞授賞式に出席。新入社員も一緒。事務所の電話は留守電になりますが、よろしく。

1月18日 梓会出版文化賞の授賞式も無事終わった。いろんな方(出版界の大先輩たち)にお目にかかって、過分なお褒めの言葉を一生分いただいて、もう思い残すことはない(というのは大げさか)。今回は新入社員のお披露目の意味もあり一緒だったのだが、うまく重鎮がたの中に溶け込んで最後までお付き合いできたようだ。二次会の祝宴が終わった後、新入社員と2人で神保町のバーで慰労会。ついでに宿のそばの焼鳥屋もはしご。

1月19日 4時間近く電車の中に閉じ込められるのは苦痛だが、面白い本があれば退屈しなくて済む。でも当たる確率は3分の一程度。外れたらひたすら目をつむって眠るように努力するしかない。飛行機も電車も席はどんな時でも「通路側」を確保する。移動の自由がきくからだ。窓際に座ったときのあの窮屈さ、圧迫感が嫌。
(あ)

No.884

ユニクロ潜入一年
(文藝春秋)
横田増生

 この著者の書くものは「面白そうで退屈」というのが正直な印象だ。アマゾンや宅配の内幕ものも印象はまったく同じ。どうしてなんだろう。アマゾンもユニクロも宅配も、私たちの日常にも不可欠な存在である。「私たち」とぼかすよりも「私」とはっきり書いてもかまわない。自分自身にとっても欠かせない日常に利用しているものに関して、批判は簡単だが、だからといって使うことをやめることは難しい。その難しさと批判の簡単さを秤にかけ、いろんな思いに引き裂かれながらも便利を選んでいる。これが多くの庶民の実態ではないのだろうか。少なくとも自分はそうだ。宅配もアマゾンもユニクロもその急成長の裏には我々のうかがい知れないダーティな舞台裏があるのは誰でも想像できる。でもそのダーティ度は看過できないほどひどいものなのか、そこの程度が問題だと思うのだが、「大企業だから悪いことをしているに決まっている」という偏見から紡ぎだされる物語には眉に唾してみる必要がある。著者の取材は丁寧で信用できる。でも、どうしてそこに潜入が必要なのか、そのあたりの理由が本を読んでも今ひとつよくわからない。

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