Vol.1031 20年10月3日 週刊あんばい一本勝負 No.1023

奥田英朗の小説にハマる

9月26日 週末の夜、奥田英朗『港町食堂』読了。今日届いた本は、フィンランドで暮らす日本人女性の書いた『ほんとはかわいくないフィンランド』と、女ひとりスペイン巡礼をする旅紀行『カミーノ!』。どちらも楽しみなのだが、最近読む本は「旅」をテーマにしたものが多い。自粛モードにならされた心身がバランスをとろうと悲鳴を上げているのだ。

9月27日 ベネチア映画祭で黒沢清が賞をとったといえば、その日のうちにアマゾンプライムで過去の黒沢映画を即座に見ることができる。昨日は『岸辺の旅』を観た。いま話題の映画監督と言えばクリストフォー・ノーランだ。彼の過去作品も見放題。バッドマンシリーズの『ダークナイト』から『インセプション』まで続けて鑑賞。昔話をすれば笑われるが、本も映画もわざわざ仙台や東京まで見に行った時代が、ちょっと前までアリマシタ。

9月28日 もう月末。本当に1週間が早い。年のせいだろうと言われればそれまでだが朝の目覚めがシャッキとしない。身体の切れが悪い。睡眠も浅く、便通も悪い。身体の節々にすぐに故障が出て、その治りも遅い。四苦八苦とはよく言ったものだ。生老病死で四苦、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦でもう四苦で、合わせて八苦だそうだ。しみじみと身に応える言葉だ。

9月29日 コメの飯は朝ごはんだけ。昼はめん類、夜は晩酌でおかずのみ。慢性的に「コメを腹いっぱい食べたい」と思い続けている。唯一希望は山行の時。朝早く起きて冷凍おにぎりで卵かけご飯とお茶漬けを2杯。昼は大きなおにぎり1個で、夜も好きな中華や定食で腹を満たすことにしている。火曜日だが秋田駒ケ岳登山。8合目から男女岳に登ってくる通常ルートで山頂付近はもう紅葉真っ盛り。

9月30日 人は年に何回ぐらい「温泉」に行くのだろうか。身近なカミさんや息子を例にとれば年に1、2回といったあたりか。私は例外で、山行のたびにかならず最寄りの温泉に入ってくるから年間30回はくだらない。でも温泉が好きなわけでもない。山登りの汗を流すというだけの目的だ。昨日、秋田駒ケ岳のあと鶴の湯温泉の経営する駒ケ岳温泉に。客は皆無で、おまけにお湯がものすごくぬるかった。長湯してもなかなか身体が温まらず、不満たらたら帰ってきたのだが、なんとその日一晩中、身体の芯がポカポカ温かかった。やっぱり温泉ってすごい力があるんだ。

10月1日 10月だ。誕生月なので、なにかと事務的に煩雑な月でもある。10月の声を聴くとはず思うのは、「紅葉の山を一峰でも多く歩きたい」という強い希望だ。この時期に山に行かないと重大な損失を計上したような気分になる。来週あたりは栗駒山もシュンだ。去年は行っていないから今年は外せない。

10月2日 奥田英朗の本にハマっている。主要な話題作はほぼ読んだような気になっていたが、本丸の長編犯罪小説が実はほとんど未読だった。もともと犯罪小説というジャンルが苦手なので敬遠していたのだが、奥田には『無理』『最悪』『邪魔』という犯罪小説の長編傑作シリーズがある。文庫本で上下巻のいずれも大作だ。今週末、私はすべての時間を奥田の長編小説ために捧げたい、と思っている。上記3作品一気読みだ。すでにわが脳内は、怪しげな庶民たちのうごめく奥田ワールドに占拠されてしまっている。
(あ)

No.1023

落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ
(ちくま文庫)
頭木弘樹

 こんな著者がいることや、本の存在は知らなかった。それもそのはず書店の棚で初めて見たが、いわゆる文庫書下ろし本だ。著者は大学の先生でもなければ落語研究者でもない。文庫本のプロフィールによれば「文学研究者」とある。本書と同じ版元から「絶望図書館」と「トラウマ文学館」の著書がある。本書は雑誌「望星」に3年にわたって連載されたもので、単行本をすっ飛ばし、いきなり今年になって文庫本になったものだ。とにかく書名が秀逸だ。中身に関しては私自身も同じような思いを抱いていた。でも立川談志門下の落語家の本を読むと、そのあたりの理由がうまく説明されていた。落語は「笑いばなしではない」し、「赤穂浪士は47人いたが討ち入りに参加しなかったものも多くいる。この参加しなかった者たちを主人公にしたのが落語だ」という理屈だ。面白いことに本書には立川談志の名前は一切出てこない。とにかく「落語は面白くないのが当たり前」ということを前提に始まる、文学作品までも巻き込んだユニークな落語入門書である。ここで紹介されている落語家や、その落語のタネ本となった文学作品や映画も丁寧にガイドされている。巻末の「桂文我」の解説も実に説得力のある文章だ。思わぬ広いものをしたような読後感だ。

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