| Vol.1316 2026年3月21日 | 週刊あんばい一本勝負 No.1308 |
| プロ野球の影の男たち | |
3月14日 接写レンズで散歩道のガラクタ類を撮った「拙者の散歩道」を、ZINEっぽい感じで本にしようと編集作業中。でも自分はどうしてこんな「わけのわからない、ド派手な色彩の、抽象絵画のような図柄」が好きなのだろう、と考えた。答えはすぐにわかった。日本人移民の取材で通い続けているブラジルに源があった。ブラジルに行くたび、自分用に日系人画家が描いたシルクスクリーンの作品を買い求める。好きな画家はマナブ・マベや大竹富江といった人たちで、特にマナブ・マベの絵が好きだ。家にも仕事場にも彼の絵が飾られている。この絵と私が散歩道で接写している「ゴミ」の絵柄とそっくりなのだ。世界的芸術家と路上のゴミを一緒くたにするのもなんだが、構図的には驚くほど似ていて、源がこれかと気が付いた。昔、東京で開催されたマナブ・マベの展覧会のカタログが欲しくなった。ネット古書店で検索すると1000円で売られていた。
3月15日 去年の秋ごろ靴を三足買い替えた。足に靴が合わず、しばらく足痛に悩まされた。雪が降ると滑って転んだ。ワープロを打つのも辛いほどの痛みだった。真冬のさなか、今度は血圧が高くなり、降下剤を服用するようになった。副作用なのか何度も頭痛に悩まされることになった。靴はゆったり横幅のあるものに替え、手首の痛みも消え、頭痛も収まった。春とともに身体はようやく「普通」に戻りつつある。 3月16日 大相撲をよく見るようになった。相撲が面白いのはシンプルな格闘技だからだ。あの一瞬に、怪我をするリスクと向き合いながら、ぶつかっていく。怪我をしないために体を鍛え、無理やり体を大きくする。安青錦のあまりの強さに度肝を抜かれたが、次の場所にはその弱点を研究し、もう簡単には勝てなくなっている。この研究努力も大相撲のすごいところだ。だから誰も楽に勝てないし、誰もが明日怪我で欠場するリスクを背負っている。リスクヘッジをしながらギャンブルしているようなものだ。そこが面白いと感じるのだろうか。 3月17日 昔は(このフレーズをよく使うようになったなあ)、根詰めて仕事をして、耐えられなくなり、雄和にあった藤原優太郎さんの「山の學校」へよく息抜きに出かけた。山の中で優太郎さんはいつも笑顔で迎えてくれた。茶飲み話をし、本よ読み、昼寝をさせてもらい、心身ともリフレッシュして仕事場に戻ってきた。冬場は雪があって行けないのだが、春になると真っ先に「山の學校」に駆け込むのが、雪解けの楽しみでもあった。彼がいなくなってから「山の學校」には行かなくなった。だからその跡がどうなっているのかも知らない。こうやって一つ一つ、居場所も友人も思い出も消えていくのだろうか。 3月18日 午前中はほぼデスクワークで終わる。ルーチンとしてやるべきことをやるだけで時間は過ぎてしまう。午後からは昼食を自分で作って食べ散歩に出る。帰ってからは資料調べや雑用をこなし、夕食後は、仕事場に戻って原稿を書く。やることがあるのは幸せなことだ。好きなことだけをして老後を過ごすのは理想だが、好きなことや幸せの裏には、反対の現実も張り付いている。「好きなこと」と「しんどいこと」は合わせ鏡だ。 3月19日 檀家が壊滅し、「派遣」で葬儀に出かける僧侶の日常を描いた松谷真純『葬式坊主なむなむ日記』は知らないことばかりで、面白い本だった。この著者は(もちろん仮名だが)は、東北のある地方都市の寺院の僧侶だが、東京にアパートを借り、そこを「協会」と称し、派遣僧侶をはじめている。それだけでは食べられず配送会社で宅配の裏バイトまでしている、というのだからリアルだ。葬式で得る収入の半分は派遣会社に入るのだそうだ。その現実にも驚くが、これが今の時代の僧侶の現実なのだそうだ。この本はベストセラーになっている三五館シンシャ刊の「職業と人生を読むドキュメント日記シリーズ」の一冊だが、このシリーズは「中身が薄い」ものが多く、読むにたえないものも少なくない。何度か書名にだまされて、苦い目にあっているのだが、この本は正解だった。「僧侶のフトコロ事情」という業界の内部が正直に描かれている。2時間ほどもあれば読めてしまう内容だが、書かれている中身は重くて濃い。 3月20日 センバツ高校野球が始まったが興味はない。プロ野球は好きだが、最近は大谷フィーバーで少々うんざり。そんな中、後藤正治『スカウト』(講談社文庫)を読んだ。94年夏から3年間、広島カープの木庭教という老スカウトを追っかけたノンフィクションだ。いわばプロ野球の裏面史で、スカウトという仕事の内幕を描いたものだ。村山首相が誕生し、松本でサリン事件が起きた頃の物語だが、意外だったのは、当時のスカウトたちの目玉選手は超高校級といわれた秋田経法大付高のO投手だったことだ。左腕で140キロの球を投げる逸材だったが、その後、ノンプロの日石に入社、オリンピックでは銀メダルを取り、ドラフトで巨人に2位指名された。のだが、けっきょく芽は出なかった。実は彼は去年、酒を万引きし逮捕され、その常習性で話題になった人物でもある。あえてイニシャルにした理由だ。あの落合への記述もあった。「守備はへた、肩が弱くて、鈍足」という評価で、ロッテの指名は3位、年齢は25歳だ。あの江川の「空白の一日」大騒動と落合の指名が同じ年だった。歴史上もっとも凄い投手は? というのは誰でも知りたいところだが、断定はしていないものの、尾崎、池永、江川といったあたりでスカウトたちの評価は一致しているようだ。戦後プロ野球史を読むような気分だが、それを支えた「影の男たち」にもスポットを当てたところがミソだ。 (あ)
| |
| ●vol.1312 2月21日号 | ●vol.1313 2月28日号 | ●vol.1314 3月7日号 | ●vol.1315 3月14日号 |