Vol.434 09年1月10日 週刊あんばい一本勝負 No.429


よろしくおつきあいのほど

 新しい年になってはじめての「週刊ニュース」です。
 今年も、あいもかわらぬ、どうでもいい半径500メートル以内のご町内情報だけですが、よろしくおつきあいのほどお願いします。
 今年になってから、手帳に毎日、「うれしかったこと、楽しかったこと、もうけもの」なことを一個だけ、かならず書き付けることにしました。
 そんな楽しいことなんか、しょっちゅうねぇよ、とウソブイていたのですが、これがけっこう、見つけようとすれば見つかります。
 ようは気持ち次第ですね。思わぬ媒体から原稿依頼を受けたとか、たまたま路上で面白い音楽を聴いたとか、ダメかと思っていた自費出版が決まったとか、スーパーのつり銭が多く間違えられたとか、けっこうあります。
 今週はなんと塩野米松さんの長編小説『ふたつの川』増刷決定、でしょうかね。
こういうまっとうな物語がちゃんと売れている、というのは版元として希望が持てる出来事で、ちょっと他の本とは喜びが違います。
 活字文化ってすごいんだぜ、という版元の(静かな)啖呵を、やはり読者が静かに、当たり前ののように受け止めるくれる――まだまだ捨てたもんじゃない、という気にさせてくれます。
 もうひとつうれしかったこと。7日夜8時から110分にわたって放映されたBShiのテレビ・ドキュメンタリー「ナオキ」。サブタイトルには「英国人鬼才監督が記録した'ある同せい;」、この番組はここ数年で観たテレビ番組のなかで最も心に突き刺さってきた印象深い作品。
 この「東京モダン」というシリーズは、世界の第一線の監督が日本をカメラで切り取るという企画で、NHKの呼びかけで実現した国際共同制作のシリーズ番組。本編はそのうちのひとつで、BBC(英国)のエース、マカリスター監督が指揮をとりインタビュアーまでつとめたもの。
 彼は日本で心を開いてくれるサラリーマンを捜し続け、山形市に暮らす56歳の男"ナオキ"をやっと「発見」する。一緒に暮らしながら、その男(ナオキ)を追うすさまじい執念。
 ナオキはバブルで転落、路上生活も覚悟した全共闘世代。27歳年下の女性と同せい生活を送っている。趣味というか特技が英会話で、インタビューはすべて英語。ナオキは郵便保険の集金アルバイト、彼女はホステスだ。
 ナオキのキャラクターは群を抜いている。その面白さを、うまく活字に置き換えられない。映像だからこそ伝わる面白さや沈黙、片言節句にあふれている。映像でしか表現できないもの、活字で置き換えの難しいもの、この両者のきわどさの上に成り立っている映像表現といっていいかもしれない。再放送がお見逃しなく。
                 *
 というわけで今年は正月早々、いいことが2つも続きました。
 こんなことが、これからもずっと続くようにがんばろう。
 お見捨てなく、ご指導ください。
(あ)

No.429

移民還流(新潮社)
杉山春

 サブタイトルに「南米から帰ってくる日系人」とあって、これが本書の結論のようなものである。ブラジル移民の本は書きにくい。誰に向かって、日本語で何を伝えるのか。異文化異民族の人生観やライフスタイルへの「内政干渉」がどこまで可能なのか。そうしたことが書き手の「課題」として大きく立ちはだかるからだ。本書は、そうした取材者側のジレンマをうまくクリアーしたノンフィクションである。他の在日外国人とは違った「場所」にいる日系ブラジル移民のデカセギ問題を、彼ら固有の問題として書き綴った点がユニークである。そのスタンスがサブタイトルに現われているのである。在日ブラジル人社会の最大の問題点は、じつはその子どもたちの不就学と非行化であり、夫婦の離婚率の高さだ。その根底には日本社会の底辺に組み込まれてしまった彼らの立場がある。そうした懸案事項に真剣に取り組んでいるのは周囲の日本人ばかりで、主人公であるはずの彼ら自身のアクションがほとんどないのが現状なのである。著者は日本にいるこの「見えない30万人」である彼らのことを「ニューカマー」と呼ぶ。ニューカマーはすでに日本で3番目の大きなエスニック集団を形成している。

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