Vol.431 08年12月20日 週刊あんばい一本勝負 No.427


郷土学習と神室そば

 最近、事務所に中高生がよく訪ねてきます。ナントカ郷土学習というやつなのですが、基本的にこれまではお断りしてきました。わざわざ中高生が訪ねて来てくれることがうれしくて、専用のガイドスタッフまで決め、丁寧にちゃんと対応していた時期もあったのですが、これがけっこう煩雑で、いつのまにかお断りするのが慣例になってしまいました。
 「本」の定義からはじまって編集や出版の意味を解説、中高生がわかるように仕事の実際を見てもらっても、後はなしのつぶてですからガックリきます。それに、ウチのような超零細イナカ出版社を見学しても、彼らの将来のためになるわけではアリマセン。できれば有為の若者にはもっと将来的展望のある職場見学をしてもらいたい、という老婆心からお断りしていたのですが、このところの依頼は、生徒たちの熱気がきちんと伝わってきたため、それにほだされたものです。実際は生徒のために何時間も仕事がストップするわけですから、心に余裕があるときでないと引き受けられません。
 湯沢市秋ノ宮で農業をしながら蕎麦を打つ栗田健一さんの「神室そば」がついに復活しました。これは朗報。店舗なしの宅配そばで、朝打ったものが夕方に着きます。栗田さんの蕎麦は西音馬内そばの流れを汲むもので、つなぎに「ふのり」を使っています。そのため3日間ぐらいは賞味期限がありますから宅配でも大丈夫です。1箱5人前で、つゆ付きの2300円。数量は自由に頼めますが、これが基本です。前日に頼めば翌日の夕方食べられます。
 注文はファックスで0183−56−2554まで。料金は郵便振替の後払い。とにかく美味しいので一度お試しあれ。
 つい最近、秋田市にできたばかりの蕎麦屋さんにさっそく行ってみたのですが、久しぶりに大声で「まずいっ」と叫びたくなる蕎麦を食べてきました。手打ち蕎麦なのにウズラの卵がついてきたあたりで、首を傾げそうになったのですが、残さず一人前食べるのが苦痛で、涙が出そうになりました。店主が目の前で見ているので残せなかったのです。いやはやあきれた蕎麦屋です。でも、もうこんな愚痴ともおさらばです。よかったよかった。
(あ)

No.427

検索バカ
(朝日新書)
藤原智美

 こんな本が出るだろうな、と予想はしていた。でも書いた人が芥川賞作家、『暴走老人!』というノンフィクション作品も書いている人、というのはちょっと意外だった。実は『暴走老人!』はあまり感心できなかった。具体的なデータよりも「ほんわかした時代の気分」だけで書いてしまったのでは、と感じてしまったのだ。本書にもその懸念はある。基本は「自分の思考をショートカットして手に入れた結果は役立たない」ということで、「言葉に力などない、あるのは力のある言葉」という主張はよく理解できる。現代は「思考」が「検索」に代替される時代、考えたフリのできる時代だ、と著者はいう。「クウキを読め」というのも「人の顔色をうかがって生きろ」といってるに過ぎず、「もっと卑屈に生きろ」といわれてるのと同じではないのか。昭和30年代のスーパーで買物する人の、買い物籠が小さくて底が浅い、というエピソードは目からウロコ。今の4分の一程度しか物が入らないし、新聞の朝刊も八面しかなかった、という。情報量は多くなっても、その多くが目の前を瞬間的に通り過ぎていく、記憶から直ちに消滅するたぐいの「虚しさ」が検索世界には漂っている。家族の絆が薄れた、といわれるが逆に家族の密度が濃くなっているのが現代で、家族という人間関係だけが充満している世界ではないのか、という指摘は鋭い。

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