Vol.435 09年1月17日 週刊あんばい一本勝負 No.430


仙台散歩――青空だけで丸もうけ

 年末は施設に入っている義母が里帰り、新年になると湯沢の母親を温泉に連れて行った。そんなわけで自分の正月休みはなし、だったので、この3連休(10,11,12)を自分の正月休みだった。

 初日はジュネネス栗駒へ一人ぼっちのスキー行。もちろんゲレンデスキー(というのも最近小生の周りでは「山スキー」ブーム、まだ買わないのか、という意地悪な質問がひっきりなし、なので念のため)。
 朝から吹雪の荒れ模様。スキー場はそれにさらに輪をかけた猛吹雪で、滑るのを断念。吹雪の中を滑っても面白くない。横手駅前の温泉にはいってスゴスゴ帰ってきた。温泉にはいっただけ、という1日だったが、車中、新聞連載のテーマを突然思いついた。何を書こうかずっと悩んでいたので、ま、これだけでも収穫か。
 2日目は仙台。今回初めて会員になった「大人の休日倶楽部」パスを使う(5パーセント電車代安くなる)。吹雪の秋田から青空の仙台へ。「青空だけで丸もうけ」という言葉がなんの脈略もなく浮かぶ。2,3人の方に電話連絡して用事は終了、あとはまったくの自由時間。駅中で昼酒でも飲もう、とうろつくが、どこも満杯ではいれない。ホテルにチェックインして街に出る。昔に比べて仙台には若者が圧倒的に多くなり、美人も目立つようになった(昔はいなかった)。やたら「牛タン」の看板を掲げた店が多いのも気になる。いつも行くアウトドア用品「モンベル」にはいるが何も買わず。エライッぞ、自分。お気に入りの「二十陸」という蕎麦屋は店を閉めていた。駅中にある立ち食い寿司「北辰寿司」も行列で入れなかったし、もうどうでもいいチェーン蕎麦屋に入ると、ジャガバターは半生、蕎麦ミソは氷のように冷たくて、蕎麦を食べずに出てきてしまった。
 3日目、11時間熟睡。このところホテルのほうがよく眠れるのはどうしたわけか。ホテル近くの喫茶店で小1時間、ボーッとする。そこから歩き出し、登りのきつい仙台城址をぐるりと一周し、東北大川内キャンパスに降り、校内を探検、ついでに阿部次郎の「三太郎の径」を歩いて、駅まで戻ってくる。5キロ以上は歩いた勘定だ。朝はサンドイッチにコーヒー、昼はせいろ一枚、夜は電車で牛肉弁当、酒を飲まない旅というのも久しくなかったこと。
 誰とも会わず、口もきかないひとりぼっちの3日間の休みが終わった。
(あ)

No.430

最後の冒険家(集英社)
石川直樹

 何度もこの著者の本を取り上げているのだが、テーマも文章も物語の展開も、とても30歳そこそこの若者には思えないほど、しっかりしている。世界7大陸最高峰登頂の最年少記録や写真家としての実力もさることながら、年齢の割に抜群にしっかりしている文章が、この著者の多様な可能性を感じさせる。本書は数々の熱気球による記録を持つ冒険家・神田道夫の人間ノンフィクションである。が、ただの人物ノンフィクションではない。なにせ一緒に気球で太平洋を越えようとして遭難という大事件をともに経験した、パートナーなのである。著者しか書けない記録なのである。取材対象者と知り合いであることは、逆に距離感のないベタベタの人物ドキュメントを生み出す可能性もあるのだが、そうはならないのが、この著者のすごいところ。自分と神田の失敗ドキュメントからはじまり、神田が海に消えてしまった旅を追憶する章、そしてクライマックスは、遭難した神田の気球がアメリカ大陸に渡り、さらに海流に乗って流れ流れ、日本のトカラ列島の悪石島で発見される最終章まで、息つくヒマもない展開だ。著者は1977年生まれ、本人はどこにも公表していないが故石川淳のお孫さんのようだ。

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