Vol.479 09年11月21日 週刊あんばい一本勝負 No.474


横手と蕎麦屋さん

このごろ県南部に出かけることが多い。湯沢には、母親が施設に入っているので、ご機嫌うかがい。メインはもっぱら横手のほうが多い。横手のホテルに一泊、横手盆地のいろんなところに散らばる友人たちのところに顔を出す。
先週は「秋田ふるさと村」にある県立近代美術館で久しぶりに美術鑑賞。現代作家たちの秀作を集めた「ネオテニー・ジャパン」(高橋コレクション)という美術展だ。実物の村上隆の絵をはじめて観た。秋山さやかさんのオブジェ作品も良かった。新世代のトップアーティストたちといっても奇抜で難解なわけではなく、むしろ同時代人として共感のほうが大きかった。
拾いものだったのは無料で特別展示されていた故・伊藤博次さんの作品展。秋田市出身、元秋田グランドホテルの社長だった人だが、うちの本の愛読者でもあった。まとめて作品を観て圧倒された。こんな力量ある作家だったんだ。
足しげく横手に通うようになった理由の一つは、蕎麦がある。横手ではここ数年、「そばの地産地消を進める」運動が盛んで、地域内にかなりの数の手打ち蕎麦屋さんがオープンした。今回はその横手地方の蕎麦はパス、西馬音内の「ひやがけそば」に足を延ばした。が味にはガッカリ。昔なら蕎麦を食べる習慣のない秋田人にはこの程度で充分だったのだろうが、県内いたるところに蕎麦屋さんが出店している今、これでは笑われてしまうのでは、老婆心ながら。十文字にある「食い道楽」という居酒屋では、月1回、県南の素人蕎麦打ち自慢たちを集め、「蕎麦打ち飲み会」を開催している。ここに集う蕎麦打ち自慢たちの蕎麦はかなりおいしいのだ。
さらに横手には夜の楽しみもある。「日本海」という魚の美味しい居酒屋があるのだ。居酒屋といってもメニューはあってないようなもの。その日に仕入れた魚(酒場の隣で魚屋さんもやっている)と、お客さん自らが持参する銘酒がメニューのメインで、客が勝手に調理場にはいって料理を出したりする、不思議な店だ。

蕎麦の話が出たので、朗報をひとつ。やはり県南の秋の宮で「宅配蕎麦」を売っている栗田さんの「神室そば」がこの11月20日から営業を始めた。5人前つゆ付き2300円で、FAXで注文すると手打ち蕎麦がその日のうちに届く。栗田さんの蕎麦も系列としては「西馬音内系」(つなぎにフノリを使う)だが、本家よりずっと清冽で美味。注文ファックスは0183−56−2554。栗田さんはふだんは農家なので、農作業が終了したこの時期から春先まで蕎麦屋に変身する。
(あ)

No.474

大峯千日回峰行
(春秋社)
塩沼亮潤・板橋興宗

 千日回峰行が人口に膾炙されるようになったのは、たぶん比叡山の酒井さんという有名なお坊さんのおかげだろう。見た目(失礼)どうみてもさえない近所のガンコ親父のような酒井(「あじゃり」と呼ぶのだろうが)さんが、破天荒な荒行といわれる、1回でも大変な千日回峰行を、なんと2回も成し遂げてしまった。それが巷の話題になった。個人的に山に登るようになったせいもあり、荒行がどこまで想像を絶するものなのか興味を抱いてしまった。その酒井さんの体験談や人生教訓の書籍はいろいろ出ている。が、どうにもあの顔が(たびたび失礼)気になって食指が動かなかった。そこで、比叡山ではないが吉野の金峯山のほうの千日回峰行を成し遂げたという、1968年仙台生まれの若い住職のほうの体験記(本書)にチャレンジした次第。結論を先に言うと、本書でも荒行の実態はよくわからない。すさまじい体験談を予想していたのだが、読後感はさらりとしたもの。それはそれで理解できる。聞き手が同じ宮城県出身の住職(板橋)、というのが良くも悪くも本の出来に大きな影響をあたえている。仏教的見地から読むと味わい深い対話集だが、アウトドア的興味の「極地冒険もの」気分で本書をひも解いている私のようなものには、どうにも「さわやか」すぎて、その肉体的極限さがつたわってこないのが、つらい。

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