Vol.567 11年9月24日


秋の風と雨に震えながら

9月13日 5日間の夏休みを終え、昨日帰ってきた。信州の白馬村というところに滞在、周辺の山々をトレッキングしていたのだが、天気に恵まれ思いっきりリラックス。これまで休みのとり方がヘタというか、何でも仕事と結びつけてしまうクセが抜けなかったのだが、今回で少し「休み」のコツをつかんだ、ような気がする。「仕事だ」といわれると手抜きはいくらでもするが、「遊びだ」といわれると妙に緊張、しゃちほこばってしまう面妖で偏頗な性格で、すみませんね。

9月14日 身辺に起きる小さな「不幸」や「悲哀」にだんだん無反応になってきた。老化現象だろうか。そうしたことにいちいち過敏に対応していると、疲れてきて身体や心が拒否反応を示し思考が停止してしまう。そして自分の裡では何もなかったかのようにふるまうのだ。年を経るとこうした立ち廻りに年期が入り巧妙になっていく。身体は衰えていくが心は年と共に図々しさを増す。みずみずしい感性はひからび、きわどい処世術だけが力強く芽を吹く。

9月15日 夏休みも遠いかなたに過ぎ去り、秋のDM発送準備も終わった。8月9月10月と、3か月連続で3本以上新刊の出る月が続く。でも忙しさのピークは過ぎた。冬から来年にかけてのことを考えなければならないのだが、いまのところ頭は真っ白だ。活字に明るい未来や希望を見つけるのは至難の業だが、ホームページをリニューアルして面白い雑誌風の遊びができないだろうか、思案中。こんな時代だけど、何かしらアクションを起こすしかない。

9月16日 公衆電話のブースだけで物語が進行する映画『フォーン・ブース』を観ていて気がついた。オレって場面が固定された一幕もの芸術が好きなんだ、と。大好きなウッディ・アレンの『結婚記念日』は高級デパート(の中のみ)が舞台だったし、有川浩『阪急電車』は同じ電車の中で起きる15分のドラマ。弘前劇場『家には高い木があった』も葬儀後の親族の会話だけで成り立つ一幕ものの芝居だった。それにしても公衆電話ボックスだけで、それも映画の時間と物語の時間進行が同じ設定で優れた1本の映画ができる、というのも衝撃だ。

9月17日 杉田徹『フォルテッシモな豚飼い』(西田書店)という本を衝動買い。日本だけでなく世界の果てまで放浪をつづけた写真家とその家族の物語だ。書名が何とも素敵でうまい。どう考えても「豚飼いになった写真家」程度の説明的な書名しかボンクラ頭には思いつかない。本を読み始めたのだが、もっと重大なことに気がついた。杉田さんって昔、秋田の山奥に住んでいた友だちじゃないか。

9月19日 連休3日目は大人しく事務所で仕事をしている。今週はDMを発送し、自分の本『ババヘラの研究』が出来てくる。週末は在庫倉庫のひっこしがある。あわただしい週になりそうだ。昨日までは宮古、釜石といった被災地を車で駆け抜けてきた。いまだ町中の信号が消えたままなのにはショックを受けた。なんとなく身辺があわただしい。訃報やら寄贈される本やら厄介メールなどが秋風と共に多くなっている。雑事を処理しているうちに秋もまた駆け抜けて行きそうで心急く。

9月20日 発作的に高価な買い物をしてしまった。ホンダの超小型発電機。10万円以上もするものだが、ガスボンベで使える携帯型のすぐれモノ。ネットで見つけて後先考えず買ってから、どうして発電機なの、と自問自答するアホさ加減だった。でもいまになって考えると正解。震災用という名目のほかに、うちの在庫倉庫には電気がない。だから倉庫作業をするときは必需品だ。その倉庫の引っ越しが今週末にある。さっそく活躍の日がきた。高い買い物でもなかった、のかもね。

9月21日 5日間連続で雨が降っている。うんざりするが、この雨の中でも散歩はする。傘をさして。昔、何をとち狂ったか2万円近い傘を買ってしまった。大事にし過ぎてどこにも持ちださず宝の持ち腐れ状態で、いつのまにか紛失。と思ったら去年、再発見! いまは歩いて10秒の事務所自宅間もこの傘をさす。さすがにコンビニの500円ビニール製とは格が違う。どんな格かと訊かれても困るが「こんなに高い傘をさしている自分」へのムダな自尊心である。いや実際、この傘で雨の中を歩いていても腕が疲れないし、安定感があるし、雨の侵入が少ないのも事実だ。ときどき雨の中で「俺の傘は2万円もするんだぞぉ」と叫びたくなるのが問題だが。

9月22日 夕方、各方面からメールが入りはじめ5時間余りパソコンの前に張り付くハメに。夕飯時になっても半分ほどの返信しかできず、とりあえず空腹感がなかったので飯は抜き。長丁場になりそうなので珍しく薄いウイスキーをチビチビやりながら仕事を続行。3杯目あたりから返信メールの文言がかなり攻撃的で、ハイテンション。桃太郎侍になったような気分で送信を続けている自分に気がついた。まずいッ、と思ったときはすでに遅い。仕事中に酒を飲むものではない、という苦い教訓でした。
(あ)


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