Vol.784 15年12月12日 週刊あんばい一本勝負 No.776


ひまなので近場に遊びに行きます

12月5日 すごい風だった。仙台から帰りの新幹線も大曲で強風のため一気に減速運転。40分ほどが1時間半近くかかってしまった。電車は風に弱い。夜中にも何度か風の音で目覚めた。数か月前まで敷地のプレハブ2階建て倉庫が強風のたびにぐらぐら揺れた。このままではいつか吹き飛ばされると一大決心して今春、2階を削って1階建てに改修したばかり。かなりお金がかかったがやっておいてよかった。昨夜は眠られなくなり、乙川優三郎『武家用心集』を読み始める。現代の山本周五郎のような作家だが、この人の書く侍は藤沢周平よりリアルで好き。本のおかげで、風で波だった心のざわつきも治まった。

12月6日 靴納め。強風吹き止まぬ太平山・前岳へ。寒いが暖かい。よくわからないがそんな感じ。山行後は「ざぶーん」で体を温め2階食堂でラーメン。ラーメンはごちそうだ。この5年近く昼はリンゴと寒天。ダイエットとリバウンド防止のためラーメンもアイスも自粛。期待の「外食」だったが結局は残してしまった。そういえば話題のジョージ・ソルト『ラーメンの語られざる歴史』(国書刊行会)はそこそこ面白かったが、名著『ラーメンと愛国』には及びもつかない、というのが正直な感想だ。今年は29座に登った。いろんなことに感謝しなければ。今日の夜はモモヒキーズの「忘年会」もある。体重が心配だ。

12月7日 業界最大手取次・日販の今年度上半期の「赤字」(営業損益ベース)が激震ニュースになって飛び交っている。本業(取次業務)が赤字になるのは初めてのことらしい。いよいよ出版業界も「総崩壊」か、と危機をあおる御仁もいる。しかしある程度この赤字は予想できたことだ。営業利益が毎年半分以下に落ち込み始めたのは14年度から。これはあきらかに消費税の影響だ。この8パーセント時代から、うちの売り上げもガクンと減った。これから10パーセント時代を見越して戦略を立てる必要があるのだが、となると「いや、もう出版では無理でしょ」という情けない着地点しか見えてこない。うちのような弱小零細版元は草の根をかじっても生きていけるが、人件費や家賃、倉庫代になんやかや負担しながら本を作る時代は過去の遺物になる可能性もある。取次や書店依存の大きい版元のみならず、生き残るための方途を業界全体が模索しなければならない時期にきているのでは。

12月8日 カミさんが入院以来、徐々に体重が増えている。外食はほとんどしていない。自分で好きなものを作り好きなだけ食べている。これがよくないのだろうか。「暮らしにストレスがない」のも太る要因ではないのか。小言を言われることもないし、敵の空気を読む必要もない。機嫌をうかがってピリピリしないから、気持ちはいつもユッタリ。しかし太るのはいいことではない。どこかで自分の気持ちに負荷をかけて自制しなければならない。これはもう修行みたいなもの。カミさんがいるだけでふだんは日常生活が修行だ。月謝を払わず習い事をしている、ともいえる(違うか)。そう思って感謝すべきだろう。カミさんの入院は3週目に突入、退院は20日前後になりそうだ。

12月9日 モノを増やすことより減らすことに一所懸命だ。買いたいものはほとんどないが捨てたいものは山ほどある。なのに捨てられない。清水の舞台から飛び降りるつもりで捨て始めると、見事なほどすっからかんに捨てられるのだが、そこに行くまでの心の準備というか道程がたいへんだ。身の回りに一生使わないだろうモノが偉そうに居座っているのが我慢ならなくなった。自分自身の「過去の欠陥」と添い寝している気分だ。なんでこんなものを買ったんだろう。いや買ったときは確かに魅力的に見えた。買ったとたんに「ただの流行」に流されたことに気付き、興味を失った。まあたいがいがそんなもんだ。はやりの言葉で言えば断捨離なのだろうが、残りの時間をはかりにかけ、今と未来を生き始めたということなのだろう。

12月10日 ちょっとひまになったので臨時休業。お隣山形まで遠出して鶴岡市・高館山へ。酒田は好きな街で数年前まではしょっちゅう行っていたが、このところご無沙汰。忙しかったこともあるが酒田は食べ物がうまい。行くとどうしても体重が増えてしまう。だから「自制」していたのだ。酒田在住の写真家(アウトドア系)・Sさんを誘い、今年最後のハイキングだ。下山後はSさんの奥さんも合流、いつもの中華料理屋「香雅」で打ち上げ予定。山よりもこっちが目的という噂も。泊まるのはいつもの酒田リッチ&ガーデンホテル。東北でも指折りのホスピタリティを誇るホテルだ。特にバイキング料理がおいしい。地元野菜主体のバイキング料理が朝昼夜3回食べられるホテル、というのも珍しい。そんなわけで,行ってきます。

12月11日 鶴岡市大山にある高舘山に登った。鞍部つながりの八森山も登頂。小さな山だが渓谷があり樹木の表情豊かで、たっぷりと秋枯れの山を楽しんできた。下山後、酒田市に移動。土門拳記念館のある飯森山にも登った。登ったといっても41mの丘。この頂上にある経緯度観測点のコンクリート台座を確認。昭和3年、寺田寅彦の提唱で「大陸移動説」を証明するために象潟の三崎山、飛島の柏木山、そしてこの飯森山の3地点を結んだ二等辺三角形に観測地を設けた。先日、三崎山はやぶの中に確認。飛島は毎年柏木山に登っているから確認済みだ。残るはここだけだったのだ。土門拳記念館や南洲神社にはしょっちゅう行くのに肝心の頂上へは一度も行っていなかったので、今回は念願成就。さらに酒田市立図書館に移動、寺田寅彦と山形のつながりなどを取材する。なんだかだんだん面白くなってきたゾ。
(あ)

No.776

はじめての民俗学
(ちくま学芸文庫)
宮田登

 なんとなく「民俗学」の本だと、それだけで購買意欲が倍増する。なんでだろうか。もし大学に再入学して何かの講義を受けさせてもらえるとすれば、ためらいなく「文化人類学」の勉強をしたいと若いころから思っていた。それと関係あるのかもしれない。が年をとるとフィールドの広い学問は無理だ。現代社会や身近な世間への興味のほうが格段と強くなる。本書のサブタイトルは「怖さはどこからくるのか」。実はもともと「ちくまプリマ―ブックス」では、こちらの書名で刊行されている。このたび学芸文庫に入るにあたって書名を変えたのだ。これは大正解。この書名なら読みたくなる。サブタイトルのほうであれば、たぶん手には取らなかっただろう。著者は斯界の第一人者だ。民俗学の入門的な知識と学問としての流れを最初に丁寧に解説してくれる。ここからさらに民俗学で何よりもキーワードになる「ハレ」と「ケ」の語源や諸説に分かりやすく多くのページ数がさかれているのも、うれしい。そこを踏まえて、エンガッチョや消えるタクシーなどの都市伝説、身近な「怖さ」の裏に潜む非合理的な思考や神秘主義への人類のあこがれを読み解く。入門書としては絶好の本だ。

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