Vol.858 17年5月20日 週刊あんばい一本勝負 No.850


町内会費 一気に集め ストレート

5月13日 「秋田のことを書いた面白いブログがあるから本にしたら」というアドヴァイスをいただくことがある。ありがたいので目を通す。確かに面白いが大半は雑学豆知識の類だ。多くは噂やデマと事実が混在、ちゃんと識別する面倒な作業が伴う。なかには、よくこれだけ秋田について知っているものだと驚嘆するものもある。さっそく書いた本人と連絡を取り出版打診するが、なぜか色よい返事をもらえない。そればかりか会うことすら拒否された。後日わかったのだが、彼の書いているブログの中身はうちや他の出版社が出した郷土本のオール・パクリで出来上がっていたシロモノだったのだ。なるほど、これなら本にした途端、著者たちから「盗作」を指摘されてしまう。彼らはそのことを知っているから出版を嫌がるのだ。けっこう厄介な連中である。

5月14日 八塩山(矢島口コース)。雨の予報だったが、片道4・5キロのアップダウンの続くブナ林の気持ちいい道で、往復4時間半のハイキングコースだ。県内で最も好きな山のひとつで、1カ月前にもチャレンジしたが、雪で登れなかった。予報は外れて青空。ツツジのピンクと純白のタムシバの鮮やかな色のコントラストに心癒されながら、ブナの若葉色に身も心も染まっていく。いつもこのコースでは動物たちと出会う。今日もピカピカの若いタヌキとヨボヨボの巨大なカモシカの老婆に。あまり人の入らないコースなので動物たちもおっとりしているような気がする。下山は天ぷら用にSシェフが大量のコシアブラとハリギリ、ちょっと珍しい山ブドウのツルを採り分けてもらう。

5月15日 身体が重い。ルーチン化していた便秘薬をやめたのが原因だ。昨日の山歩きもずっと身体の重さが気になった。ちょっとした段差に躓くのも体重のせいだろう。毎朝体重計に乗るのが辛い。ふだんの3キロ増から針はピクリとも動かないまま2週間。漢方便秘薬を飲めばスルリと体重は元に戻るはずだ。でももうすこしやせ我慢。

5月16日 町内会費の徴収がはじまる。班長の最も大事な仕事だ。18世帯を全部終えるには1週間ほどかかりそう。高齢者は日中でも在宅しているが、夫婦共働きで不在の人も多い。朝早くから夜8時ころまで時間指定がある。回覧板もけっこうな頻度で回ってくる。夜はようやく面白い本「群」と出会えるようになった。広瀬和雄『前方後円墳国家』が良かった。弥生時代がこんなに面白い時代だったとは目から鱗。その後は芋づる式に、羽田圭介『成功者K』、藤脇邦夫『断裁処分』、桐野夏生『夜の谷を行く』、高橋順子『夫・車谷長吉』とハズレなしが続く。

5月17日 夕食後、町内会費徴収に駆け回り、班内18軒中16軒が終了。残る2軒は朝昼夜と様子を見に行くも不在で、何か事情があるようだ。疲れた。夜はシェリー酒(ティオペペ)を1杯。スルリと喉を通りうまい。その名前にあこがれて昔ミエで飲んだこのスペインの銘酒もスーパーで2千円以下だ。食前酒でハズミがつき、バランタイン17年をストレートで2杯、3杯。ウィスキーはストレートで飲むのが一番。ツマミはカカオ90%のチョコ。そのチョコよりウィスキーのほうが甘い。ウィスキーを甘いと感じたのは初めてだ。

5月18日 田植えはもう終わったのだろうか。毎年、田植えの時期が遅くなっているのが気になる。昔はGW中が田植え最盛期だった。10年前まで事務所の前には広大な田んぼがあった。暮らしのリズムも田んぼの景色をアクセントに営まれていた。田起こしから水面に映る夕日の美しさ、田植え作業の活気とカエルの鳴き声、たわわな稲穂が風に揺れる音やイナゴの跳躍、刈り取り後の土の匂いや雪の田んぼの静寂さ……そうした目の前の光景に、たえまなく感動や安らぎをもらった。その田んぼが今はない。

5月19日 博物館で打ち合わせ後、ひとり館内の企画展「足もとの久保田城下」を鑑賞。「掘り出された武家の暮らし」というサブタイトルもなかなかうまい。興味深い展示だったが、そのほとんどが日常生活で使っていた陶器や磁器の類。今の焼き物にくらべて全体的に小ぶりで文様が遊び心にあふれているのが意外だった。「古九谷」もたくさん出土しているが、最近の調査では「古九谷だが制作されたのは肥前」というのが正解らしい。石川と佐賀ではずいぶん離れている。りっぱな日本刀も出土している。何のために丁寧に土の中に埋もれていたのか、その理由は不明だそうだ。博物館は面白い。30分で縄文から昭和までの秋田の歴史を知ることができる。
(あ)

No.850

サピエンス全史・上
(河出書房新社)
ユヴァル・ノア・ハラリ

 巷でけっこう話題になっている本だということすら知らなかった。ある人の手紙で本書に触れていたので読んでみる気になった。友人はけっこう読書人で信用できる。問題はこの分量だ。ちゃんと上下巻を読み通せるか不安だ。これまでの経験でも上下巻本を通読するのは至難の業。と危惧したのだが、読みは始めたら翻訳ものなのにグイグイと前へ勝手に引っ張ってくれた。構成がわかりやすいのがいい。唯一生き延びた人類種としての「認知革命」から始まり、人類に?栄と悲劇をもたらす「農業革命」。3部が「人類の統一」で4部が「科学革命」という流れで、わかりやすくテーマと流れを簡略化している。アフリカで暮らしていたホモ・サピエンスが文明を築き、いつのまにか食物連鎖の頂点に立った。それはなぜなのか。というのが本書のテーマだ。答えは意外なところにあった。まだ人類が洞穴のようなところに住み、狩猟や採取、漁労で暮らしていたころ、人々は集まって会話をする。その会話の中身は、たぶん他者の悪口や別の場所の情報交換だったのではないだろうか、というのが著者の推測だ。その会話から、人は人同士が協力して何かを成し遂げる、というほかの種にはできない「革命的な知見」に達したと。悪口や発見といった「虚構」こそが人間を進歩させてきた「キーワード」だという。

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