Vol.894 18年2月10日 週刊あんばい一本勝負 No.887


ジャージャー麺とタンタン飯

2月3日 朝5時半起き。冷凍おにぎり(自家製)をチンして朝ごはん。1時間40分で酒田着。鳥海山のCDブック打ち合わせ第3回目。本はほぼ全体像が見えてきて後は詰めの作業に入る段階まで来た。故池田昭二先生がその生涯で登った2000回以上の鳥海山登山記録ノートをPDFでCDに記録したもの。全編手書き文字の本というのも珍しいと思う。夕方4時帰宅。今日は中旬にあるモモヒキーズの会のための打ち合わせと称した飲み会。

2月4日 仮想通貨というのは「絵画」のようなものなのかな。ピカソの絵は数百億もするが、必要ない人には1円の価値もない。国がその価格を保証しているわけでもない。BSドキュメンタリー『贋作師ベルトラッチ――超一流のニセモノ』を観て、そんな仮想通貨のことを連想した。ベルトラッチは現在刑務所に入っているはずだが、ダビンチからピカソまで、どんな贋作もあっという間に描いてしまう。世界中の美術館に「自分の作品が数えきれないほど飾られている」と豪語するほど。超一流の画商や美術史研究家たちの目を軽々とだまし続けた稀代の「ニセモノ界の天才」なのだ。刑に服す数日前にドイツのTVが撮ったインタビューで感動した。 

2月5日 外食の機会が減少した。年もあるが、外で食べる飯が家で食べるそれよりおいしいと思えなくなった。仕事の合間によく料理をする。昨日はジャージャーメン用の味噌を作った。甜面醤と紹興酒が決め手だ。事務所では非常時・備蓄用おにぎりは常に5個以上冷凍してあるし、二週間に1回は昼食用カンテンを作る。包丁研ぎも重要なリフレッシュタイムだ。切れる包丁がないと料理モチベーションはガクンと落ちてしまう。無心に包丁を研いでいると過去も未来も消え、今しかない自分が台所に立っている。

2月6日 日々メシを食べるように本を読み映画を観る。その大半は翌日には題名や内容を思いだすのに苦労する。でも、しつこく脳裏にこびりついて離れないものもある。先日読んだ山口ミルコ著『毛のない人生』(ミシマ社)は幻冬舎の有名な編集者のがん闘病記。3時間ほどで読み終えたが言葉の芯がずっと頭に残った。アスガー・ファルハディ監督のイラン映画『セールスマン』も同じ。暗く陰鬱なテーマを扱った作品だが、その内容がずっと心に巣くって離れない。これらがいい作品なのかどうかはよくわからない。感動や衝撃とは全く別のエモーションだからだ。

2月7日 ある高名なノンフィクションライターが雑談で「ヤクザって犬と鳩が大好きなんだよ」と言っていた。秋田犬の本を出そうと企画を練っているとき、信頼する友人から「秋田犬はヤバい人たちが絡んでいるから手を出さないほうがいい」というアドバイスを受けたこともある。昨夜読んだ宮沢輝夫著『秋田犬』(文春新書)にその答えが書いてあった。その昔、秋田犬は常に土佐闘犬と比較され展覧会や賭け、交配などの背後で大きなお金が動いた。そこに暴力団の介入を招いたのだそうだ。なるほど長年の疑問が溶解した。『秋田犬』は取材のよく行き届いた出色の動物ノンフィクションだ。まだ出版されてひと月もたっていないが何かの賞をとるかもしれないなあ。著者は40代半ばの現役記者で秋田支局時代に一度取材を受けたことがある。秋田勤務の時にはじめた取材が今回「書き下ろし」で花咲いた形だ。

2月8日 学生時代、秋田駅前に揚子江という中華料理屋さんがあった。ここでいつもタンタン飯とラーメンのセットを食べていた。といっても金のある時だけの贅沢だ。店はオヤジがヤバい賭けマージャンに手を出して夜逃げ、消えてしまった。あのタンタン飯をもう一度食べたい、とこの年になって切に思い始めた。台所で試行錯誤しているのだが、うまくいかない。飯の上にフワフワの甘っからい麻婆豆腐のような具がのっていた。ネットでいろんな検索をかけたがレシピにはまったく出てこない。どうやらあの店独特のタンタン飯のようだ。今日は朝から酒田行きだが、帰ってきたら夕食はジャージャー麺のみそダレを使ってタンタン飯に挑戦してみるつもり。

2月9日 酒田での打ち合わせ後、遊佐町の日帰り温泉に入って帰ってきた。これで風呂に入らずに済むと思ったが身体が冷えて寝る前にけっきょく家風呂に。なんだか損した気分だ。今日は新刊が2本出来てくる。東京の製本所から荷物が届くのはいつも午後2時ころなのだが、今日は朝9時に軽ワゴン車で本が届いた。料金がどうなっているのか確認していないが、印刷所が郵便局を選んだということは、たぶん運賃が安かったからだろう。長い本屋稼業でも大量の本が郵便局で運ばれてきたのは初めて。
(あ)

No.887

金融腐蝕列島
(角川文庫)
高杉良

 なんだか突然、あのバブルの時代のめちゃくちゃな狂乱を描いた小説が読みたくなった。ネットで検索すると本書がヒットした。映画化にもなった有名な作品だが、幸いなことに読んでいない。大手銀行勤務の竹中はある日突然、総務部渉外班への異動を命じられる。総会屋対策担当である。そこで上層部の特命を受けながら、知らずに不正融資に手を貸していく。組織と個人のはざまで葛藤しながらも、人事権を握るワンマン会長のスキャンダル隠しに加担していく主人公。大手銀行の暗部にメスを入れた力作だが、ほぼ実際にあった事件の背景から着想されたドキュメントのようなものだという。もちろん銀行や総会屋、やくざや政治家の名前は特定できないようにぼかしていり。ワンマン会長の娘に巧妙に近づき巨額の融資を搾り取る経済やくざが不気味だ。不良債権という言葉は「やくざに貸した金」を意味することを初めて知った。普通の人にお金を貸してもそれを不用意に「不良債権」とは言わない。正義感あふれる主人公だが、問題解決のためには元大物総会屋に1憶2億の金をばらまくことをいとわない、というあたりもバブリーだ。

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